↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第三皇女の約束  作者: トカゲ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/101

第26章 三人で行くところ

「三人で出かけましょう」


 セリシアが言った。


「行く!」


 アネクシアが答えた。


「まだどこへ行くか言ってないわよ?」


「三人ならどこでもいい!」


「私の予定も聞いてほしいんだけど」


 レティシアが言った。


「あ」


「あ、じゃないわよ」


「レティシアお姉様も行く?」


「行くわ」


「やった!」


「だから、先に予定を確認しなさい」


「でも行くんでしょ?」


「行くけど」


「じゃあいいじゃん」


「よくないの」


「なんで?」


「なんでって……」


 レティシアが言葉に詰まる。


 その様子を見て、セリシアが笑った。


「いいじゃない。行けるんだから」


「セリシアまで」


「それに、私も先にマリアへ確認してあるもの」


「いつ?」


「この前」


「……用意がいいわね」


「でしょ?」


 少し得意そうだった。


「じゃあ三人で行ける?」


 アネクシアが聞く。


「ええ」


「ほんとに?」


「ほんとよ」


「三人で?」


「三人で」


「お城の外?」


「もちろん」


「やった!」


 アネクシアは椅子から立ち上がった。


「どこ行く!?」


「だから、それを今から決めるのよ」


     ◇


 三人が集まっているのは、セリシアの部屋だった。


 日取りはもう決まっていた。


 セリシアがグランヴェルへ発つ二日前。


 それぞれの予定を動かして、三人とも一日を空けた。


 机の上には王都の地図が広げられている。


 その横にはお茶と菓子。


 そして。


「なんで予定表まであるの?」


 アネクシアが聞いた。


「必要だからよ」


 レティシアが答える。


「遊びに行くんだよ?」


「だから必要なの」


「遊ぶのに?」


「遊ぶのにも」


「レティシア」


 セリシアが笑いを堪えながら言う。


「今日は行く場所を決めるだけよ」


「分かってるわ」


「じゃあ予定表はしまってもいいんじゃない?」


「駄目よ」


「なんで?」


「決めた場所に行く時間がなかったらどうするの?」


「別の日に行く」


 アネクシアが答えた。


「そういう話じゃないの!」


「じゃあどういう話?」


「もう……」


 レティシアは予定表を閉じた。


「これでいい?」


「うん」


「満足?」


「うん!」


「なんで私が怒られてるみたいになってるのよ」


「怒ってないよ?」


「あなたじゃないわ」


 セリシアが笑っている。


「セリシアも笑わないで」


「ごめんなさい」


「絶対思ってないでしょう」


「少しは思ってるわ」


「少しなのね」


 アネクシアは二人の話を聞きながら、地図を覗き込んだ。


 王都。


 城を中心に、大きな道がいくつも伸びている。


 何度か通ったことのある道もある。


 馬車の窓から見た場所もある。


 けれど、知らない場所の方がずっと多い。


「ここ何?」


 地図の一か所を指差す。


「中央市場ね」


 レティシアが答えた。


「市場?」


「食べ物や日用品、布なんかを売ってるわ」


「行きたい」


「早いわね」


「だって市場でしょ?」


「そうだけど」


「お店いっぱいある?」


「あるわよ」


「食べるものも?」


「もちろん」


「行く!」


「決まったわね」


 セリシアが言う。


「待って」


 レティシアが止めた。


「何?」


「市場は人が多いわ」


「うん」


「護衛をどうするの?」


「連れていけばいいじゃない」


 セリシアが答える。


「何人?」


「そこまで今決めるの?」


「決めないと駄目でしょう」


「マリアたちに任せたら?」


「それはそうだけど」


「じゃあ大丈夫ね」


「……あなた最近、考えるのをマリアに任せすぎじゃない?」


「そんなことないわよ」


 セリシアが菓子を一つ取る。


「ちゃんと考えてるわ」


「例えば?」


「美味しいお店」


「それは今考えなくていいの」


「大事よ?」


「大事!」


 アネクシアが加勢する。


「ほら」


「アネクシアを味方につけないで」


「お姉様たちは何食べたい?」


「もう食べる話になってる……」


 レティシアが額に手を当てた。


     ◇


「ここ」


 今度はセリシアが地図を指差した。


「この辺りに焼き菓子のお店があるの」


「美味しい?」


「美味しいわよ」


「行く」


「即決ね」


「でも中央市場とは反対側じゃない」


 レティシアが地図を見る。


「馬車ならそれほどかからないでしょう?」


「市場の中は歩くんでしょう?」


「その方が楽しいじゃない」


「アネクシアが途中で疲れたら?」


「疲れないよ」


「あなたはそう言うでしょうね」


「疲れたらセリシアお姉様に抱っこしてもらう」


「いいわよ」


「セリシア」


「何?」


「甘やかさないで」


「じゃあレティシアが抱っこする?」


「なんでそうなるのよ」


「してくれないの?」


 アネクシアが見上げる。


「……疲れたら考えるわ」


「してくれるんだ」


 セリシアが笑う。


「考えるって言っただけよ!」


「レティシアお姉様も優しいね」


「アネクシア!」


 またセリシアが笑った。


 レティシアは不満そうだったけれど、本気で怒ってはいない。


「じゃあ市場と、お菓子のお店」


 アネクシアが指を二本立てた。


「他は?」


「まだ行くの?」


「一日あるんでしょ?」


「一日中歩き回るつもり?」


「うん」


「元気ね……」


「レティシアお姉様、また疲れる?」


「この前の鬼ごっこと一緒にしないで」


「あれ楽しかったね」


「楽しかったけど」


「またやる?」


「しばらくやらない」


「なんで?」


「筋肉痛になったのよ!」


 アネクシアは目を丸くした。


「お姉様なのに?」


「お姉様は筋肉痛にならない生き物じゃないの!」


 セリシアが吹き出した。


「ちょっと!」


「ごめんなさい、レティシア」


「セリシアはならなかったの?」


「少しだけ」


「ほら!」


「でも治したから」


「……それずるくない?」


「聖女なので」


「そういう時だけ聖女になるのやめなさい」


     ◇


 結局、行きたい場所は増えた。


 中央市場。


 セリシアの知っている焼き菓子屋。


 アネクシアが地図で見つけた大きな噴水。


 レティシアが「せっかくなら」と挙げた本屋。


 それから、昼食を食べる場所。


「多くない?」


 レティシアが言った。


「一日あるよ?」


「移動する時間もあるの」


「馬車で行けばいいじゃん」


「市場の中は馬車で回れないわ」


「じゃあ歩く」


「疲れるわよ」


「抱っこ」


「私を見ないで」


「セリシアお姉様」


「いいわよ」


「セリシア!」


「冗談よ」


「絶対半分くらい本気だったでしょう」


「どうかしら」


 レティシアはため息をついた。


 それから地図を自分の方へ引き寄せる。


「市場を最初にしましょう」


「なんで?」


「朝の方が品物が多いから」


「そうなの?」


「ええ。それから昼前に噴水の広場へ移動する」


 地図の上を指が動く。


「そこで少し休んで、お昼を食べる」


「お菓子は?」


「午後」


「本屋は?」


「そのあと」


「お菓子先?」


「なんで?」


「本屋で時間かかったら、お菓子食べられなくなる」


「なるほど」


「セリシアまで納得しないで」


「でも大事でしょう?」


「大事!」


「はいはい」


 レティシアは地図に順番を書き込んでいく。


 市場。


 噴水。


 昼食。


 焼き菓子屋。


 本屋。


「これなら全部回れると思うわ」


「ほんと?」


「あなたが途中で変なところへ行かなければ」


「行かないよ」


「本当に?」


「たぶん」


「もう不安なんだけど」


「でも何か面白そうなの見つけたら行きたい」


「行くじゃない!」


「その時は三人で行けばいいでしょう?」


 セリシアが言った。


 レティシアが止まる。


「三人で?」


「ええ」


「予定は?」


「少しくらい変わってもいいじゃない」


「……」


「遊びに行くんだもの」


 レティシアは地図を見る。


 綺麗に書き込んだ順番。


 少し考えて。


「まあ……そうね」


 ペンを置いた。


「全部予定通りじゃなくてもいいわ」


「やった!」


「でも帰る時間だけは守ること」


「はーい」


「本当に分かってる?」


「分かってる!」


「今の返事、絶対分かってないわよ」


     ◇


「決まりましたか?」


 マリアが部屋へ入ってきた。


 その後ろにはエマとリディアもいる。


「決まった!」


 アネクシアが答える。


「市場行って、噴水行って、ご飯食べて、お菓子食べて、本屋!」


「左様でございますか」


「いっぱいでしょ?」


「一日で回るのでございますか?」


「うん!」


 マリアがレティシアを見る。


「大丈夫です」


 レティシアが答えた。


「一応、順番は考えたわ」


「さすがでございます」


「でも途中で変わるかもしれない」


「……レティシア様が?」


 リディアが少し驚いた。


「何よ」


「いえ」


「遊びに行くんだから、それくらいいいでしょう」


「はい」


 リディアが微笑む。


「よろしいと思います」


「その顔やめて」


「どの顔でしょう」


「なんか嬉しそうな顔」


「気のせいでございます」


 絶対に気のせいではない。


「護衛につきましてはこちらで調整いたします」


 マリアが言う。


「多すぎないようにしてね」


 セリシアが頼む。


「承知しております」


「目立つ?」


 アネクシアが聞く。


「多少は」


 エマが答える。


「普通の人みたいに歩けない?」


「第三皇女殿下が普通の人になられましたら検討いたします」


「どうやったらなれる?」


「難しいかと」


「じゃあ諦める」


「ご理解が早くて助かります」


「でも市場では好きに見ていい?」


「護衛の方の見える範囲でしたら」


「走っても?」


「歩いてくださいませ」


「なんで?」


「人が多いからでございます」


「じゃあ早歩き」


「歩いてくださいませ」


「同じじゃん」


「違います」


 レティシアが笑った。


「エマも大変ね」


「慣れておりますので」


「私そんなに大変?」


「アネクシア様」


「なに?」


「当日は必ず私のそばから離れないでくださいませ」


「うん」


「絶対に」


「分かった」


「本当に?」


「みんな私のこと信用してなくない?」


 三人の姉と三人の侍女が顔を見合わせた。


「してるわよ」


 セリシア。


「してるけど」


 レティシア。


「しております」


 エマ。


「じゃあなんで間があったの!?」


 部屋に笑い声が広がった。


     ◇


「楽しみだね」


 話が終わってからも、アネクシアは地図を見ていた。


「ええ」


 セリシアが隣に座る。


「お菓子、何があるかな」


「行ってからのお楽しみ」


「教えてよ」


「嫌」


「エマみたい」


「そう?」


「最近みんな教えてくれない」


「楽しみがなくなるからよ」


「別にいいのに」


「私はよくないわ」


「それもエマが言ってた」


「じゃあ正しいのね」


「なんで?」


「エマだから?」


「理由になってないよ」


 反対側では、レティシアが予定表を開いていた。


「何してるの?」


「確認」


「また?」


「大事なの」


「行けるんでしょ?」


「行けるわ」


「じゃあいいじゃん」


「……そうね」


 レティシアは予定表を閉じた。


「行けるなら、それでいいわ」


 アネクシアは笑った。


「じゃあ決まり!」


「ええ」


「市場!」


「ええ」


「噴水!」


「はいはい」


「お菓子!」


「そこだけ声大きくない?」


「本屋!」


「本当に楽しみなの?」


「行ったら楽しいかもしれない!」


「それならいいけど」


「三人で行くんだもん」


 アネクシアは地図の上に手を置いた。


 市場も。


 噴水も。


 お菓子屋も。


 本屋も。


 まだ一度も三人で行ったことがない。


「いっぱい遊ぼうね」


 セリシアが微笑んだ。


「そうね」


 レティシアも頷く。


「うん!」


 行く場所は決まった。


 あとは、その日を待つだけだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。