第85話 「夢想の舞踏」
夜、その日はキナコがどこにも行かずにすやすやと眠っている時間。
今日はふとセリアの目が覚めた。
「…?」
何時もなら起きない時間、そんな中、珍しく起きてお手洗いに動き出す。
とぼとぼ歩いてお手洗いを済ませ、ゆっくりと欠伸をしながら研究棟の外を見る。
すると、小さな蝶が横切る。
「…蝶?」
疑問に思いつつ、歩き、月明かりの最中、部屋へと向かう。
シャンシャンッ…。
まるで神楽鈴のような音が聞こえ、反射的に高い屋上の方を見る。
「…綺麗」
そこにいたのは月明かりに照らされ、優雅に舞う女性像だった。
「…妖精みたい」
小さくそう呟き、見惚れる。
光は月だけの深夜、ウェーブのかかったブロンドとも思える色の髪が靡きつつ、ただ何かを表現するように、そこで踊り、周りには蝶らしき光が舞う。
「…おやすみなさい。妖精さん」
そう言って少しだけ見てから、私はその場を後にして部屋へと歩き出す。
──翌朝、学園では何か騒がれており、掲示板を見ると張り紙があった。
そこにあったのは、”大妖精の舞踏か?”という記事だった。
「…?大妖精…?」
きょとんとしつつ通り際にその張り紙を見る。
「…なんかすごいなセリアの目。こんな距離からあんなちっさい文字見えるん怖いわ」
そう言いながらルイネさんが「なぁ?」とミィさんに言うと同意するように頷かれる。
「えぇ…遠くばっか見てたらなりますよ?」
「と、とはいえ…あの、あそこにあるってことは…こっちでもあると思いますけど…?」
そう言ってエルマさんがマテリアルプレートを操作して記事を探し「ありました」と言って見せてくれる。
わざわざクローディアさんが読み上げるようにして見ていく。
「”大妖精の舞踏か?2年ぶりに垣間見える精霊、ロヴィーノの夢想舞踏か”…。え、この文字見えたの」
ちょっと引かれつつそう言われ、首を傾げながら見る。
「ロヴィーノ?大妖精、どっかで聞いた事あるけどなんやったっけ」
「ロヴィーノ・アルテ。通称大妖精と呼ばれる3年生ですわ」
腕を組みながらルーテリアさんが言う。
「心動かす綺麗な物を見たりして1週間以内、必ずどこかで踊っているようなのがある。夢想舞踏と呼ばれる現象が起きる人物ですわね」
「心を動かす…あっ、あの最後の大きな切っ先?が桜になったところですかね?」
「…それか、別の。」
「ほなようわからんな…?」
そう言ってると何か上から聞こえる。
「セーリアー!!!」
ふと上を見ると猫耳が生えた人物が。
「ジョルティアさ、あぶっ!?」
着地した瞬間抱き寄せられて胸に押し込まれて身動きが取れなくなる。
胸が大きくて顔が完全に埋まる。
「おはよおはよおはよー♪…セリア?」
てしてしと抗議するようにし。
「…」
チーンとなる。
「セリア!?誰にやられたの!?」
「お前の胸や?!」
軽くルイネさんのツッコミだけは辛うじて聞こえ、視界が戻ると肺一杯に空気を取り込む。
「し、死ぬかと思いました…?!」
平謝りする形でジョルティアさんが言う中「大丈夫です」と苦笑しながら言う。
「あ、そや。ジョルティアはん、ロヴィーノ・アルテの事って知っとる?」
「ん?ロヴィーノ?…えーと…あぁ!大妖精?知ってるよー?」
「どんな人か教えてもらってええ?」
「えーどうしよっかなー…?」
「ジョルティアさん、今度ご飯食べましょうか」
そう言うと「食べる!」と目を輝かせながら言う。
「確か幻想的な魔法を多用する人物だったと思うよ?幻術とかそういうの」
「──…駄猫、ちょっと意味わかったかも」
ミィさんがそう言うと「ミィちゃん酷いぃーっ!」と居つつも尻尾をブンブンとする。
「あぁ…じゃあすっごく優しい方なんですかね…?」
「それがねー?割と硬派というか掴みどころがないって感じで私は苦手なんだよねー」
「そうなん?」
「なんかね?こう、相手の嫌な所を的確に突いてくるみたいな?弱みを握って行く奴とかいても何でもないように見えてビクともしないというか~」
「んー…聞くだけではちょっとわからないですね…?」
私が首御傾げつつ言うと「うんうん」と頷く。
「とはいえ3年やしな、すぐ会う事はないやろうし、まずは目の前のやつか…。直近やと何があったっけ?」
「…6月中期にダンジョン遠征」
「とはいえ怪我人も出る行事。セリアさんは特訓する必要がありますわね?」
「あぁ…ですよね…。走り込みからですか…?」
「んー…身体能力ちゃとう思うけどなぁ。完全な素やったら割と上位やし」
「それならそれなら、あの中継配信でもやってたぴかーっとなってた袋使えば?」
「それが、一切効力が発揮せず…」
そう言うと「ありゃりゃ」と言いながら唇を尖らせる。
「とはいえ、6月入ってすぐの今のうちに代替案を考える必要はありますわね?」
──そう言っていると予鈴が鳴る。
「うわまっず!HR遅れるで!」
「ジョルティアさんまた!」
「うーんまたねーんっ」
手を振りつつそれぞれ分かれて教室へと走り出した。




