第84話 「変わり始め」
「…どういう意味でしょうか?」
とある貴族の人物が学園に訪れていた。
彼はヴォルガ連邦にいる貴族の一人だった。
「だから、あのGランクを引き取ろうと言うんだ」
金と情報がすべての国であるヴォルガ連邦からの人物は、大抵の事は金で解決できると思っている節がある。その自体はローレファルスもわかっていた。
「──言っている事がよくわかりませんが。召使いでしたら別を当たってほしいのですが?」
「持て余しているのだろう?Gランクが、しかも落ちこぼれの存在で不正までする」
「不正…ですか。何を根拠に?」
「Gランクであのよくわからない威力を出す魔法を複数、そんな人物はGランクには存在しない。だからうちで引き取って身の程をわからせてあげようと言っているのだよ」
そういう彼の言葉の端々には、Gランクを物として見る節があった。
そして見た事がある、この存在の目を過去にも何度も。
国益のための道具、やそれに準ずる駒、といった存在の瞳のソレだ。
「資金を提供もしている。そんな中で面倒なGランクを躾けようとしているのだ。」
確かに名称を見るに学園に資金提供をしている人物…だが、この人物からは決定的にGランクを所有物として確保し、弄ぶような雰囲気が漂っていた。
「──資金提供感謝いたします」
続けて「ですが」と言い放ち、笑みを浮かびかけた彼を見る。
「ここは学園。使用人を斡旋する場所ではありません。Gランクであったとしても、学園に通う以上は生徒の一人です」
「…渡す気はない、と?」
眼が細くなるその姿は、まるで当然だと思っていた事を突っ撥ねられたような表情をしていた。
「えぇ。そう取って頂いて構いません」
しばらく見てから「また今度来るまでに考え直しておくといい」と言って部屋を後にする。
──溜息をつきながら職員室の椅子に座る。
そんな中、ガーバントが歩いてきてミルクコーヒーを渡す。
「どんな来訪者だった?」
「…ヴァルガ連邦からだ。1年のGランク。要するにセリアをを躾けてやる。といった下劣なものだ」
コーヒーを飲みつつガーバントは聞く。
「…出禁にするか?」
「諦めてもらう方向に行く気ではある…が。あのセリアのお師匠、クミホもまた来ると言っていたからな」
「…当の本人が来た時に居なければ、どうなるかはわからんな」
「あぁ」
実際あの時、セリア同様に何も感じなかった。魔力も気配も何もかも。そこに居るのに、目を逸らせばすっと消えてしまう程何もそこに存在しない程、セリア以上の魔力以上の無。それこそ虚空を見つめているような感覚が今となってはあったといっても過言ではない。
「私が探りを入れてもひらりはらりと回避して逆に弄ばれているような雰囲気があったあの人物。実際の所、怒るのかすらもわからない…」
「要するに、セリアを育てた一人というのはわかったが、それ以外がまるでわからん人物だった、という事か」
そういうガーバントに向けて軽く頷く。
「だが、そろそろ6月も中期でダンジョン遠征、三者面談の時期も7月にある。そんなタイミングで支援をされているからと渡すのは違うだろう」
頷きつつガーバントも椅子に座る。
「とはいえ、注意は必要だな。セリア自身が狙われているというのは色々と対策をしないとだな」
そう話しているとメルフィスとクラウスが帰ってくる。
「おはよう&お疲れさんっすー。…ってどしたんすか?難しい顔して」
「またローレファルスが食い過ぎてお腹痛いのか?トイレなら速く行った方が良いのだ?」
そう言いつつ首を傾げるメルフィスに「誰が食い過ぎだ」と言いつつ足を組みながら椅子にもたれかかる。
「1年のGランク、セリアがあまりにも目立ちすぎて物好きが買いに来たんだ」
「買いに来た…?」
クラウスは首を傾げて「あっ」と出す。
「あの学園祭の時っすね?んで、買いに来たって、引き取ろうとしたって事っすか?」
その言葉に頷きつつ今度はガーバントが言う。
「あぁ。聞いたところ、ヴォルガ連邦の出資者をしている男だったらしい」
「うわぁ…あそこの連中は嫌いなのだ」
目に見えて目を細めて嫌そうにするメルフィスの横でクラウスが少し考える。
「でも不思議っすね。普段絶対言ってこないのに…。Gランクで身形もそれなりに整っているってのもあるんすかね?」
「ほぼそれで間違いないだろう。金を積むと言った人物だ。信用はしない方が良い」
「なら次来た時にぶっ飛ばすのだ。一番デカいのを連れて!」
「教師がそれしてどうするメルフィス…ちょっとは考えろ」
ガーバントに諫められつつ「うぐぐ」と言いながら拳を握る。
「これってヴェインさんとかにも言ったんです?」
「いやまだだ。だが会議の議題には持ち出そうと思っている」
「──それが良いっすね。なんか聞いてる限り、娼館かなんかと間違えてる奴なんじゃないかって思えますし?」
「勘弁してほしいものだ全く」
そう言いつつガーバントが立ち上がる。
「じゃあ、朝礼で注意喚起はしておく」
その言葉に頷きつつ、ローレファルスはガーバントを見送る。
──教室の中に入ったガーバントは少し変わった雰囲気になっている事に気が付く。
「これを考える時は…」
「あ、そういう…すいませんその、教えてもらって」
「それでさ、掲示板のが超面白くて」
「わかります!なんていうか、楽しそうにしてて!」
ガーバントはすぐにその違和感に気が付いた。
対抗戦が終わってから数日が経った6月前の現在、この4組の教室だけランクという概念が無いかのようにBやAがDやC、そしてEに話しかけていた。
「──席に就け、HRを始めるぞ」
そう言うと生徒たちが気が付いて所々「またねー」と言いつつ手を振って、席に座る。
「…そろそろ6月に入るが、中期ごろにダンジョン遠征の時期が迫っている。そこで、今回はその予定資料を全員に配る。目を通しておくように」
そう言ってプリントを渡していき、各自が後ろへ回していく。
──そこでも何もなかった。他クラスであれば何かしら暗い顔が出る場面だが、この4組というクラスだけ何もなかったのだ。
(…対抗戦が終わってこれか…。セリアを副リーダーにし団体戦優勝までした4組か)
誇らしいのか、何のかそれはガーバント自身もわからなかったが、たぶんこのクラスの”Gランクの存在によって”、ここまで他と違うのだろうと、直感的に思えた。




