第83話 「独特な感覚」
「──それで、何でその状態になってるの」
帰って来た皆さんが冷たいお茶を飲みながらジョルティアさんが寛ぐ中、私が縫物をしている様子を見てクローディアさんは言い出す。
「あ、やっほー。お邪魔してるよー♪」
ジョルティアさんが手を振りつつ尾を揺らす最中、椅子に座ってキナコが寛いでいる最中、チクチクと新たに巾着袋を作っていた。
「おかえりなさい。今ジョルティアさんに袋を作ってほしいと言われて、作ってるんですよ」
「そゆことー♪ ちっちゃい物とかってすぐ無くしちゃうから欲しいなって思ってね~?」
「…ローレファルス先生に、言った?」
その瞬間サッと目を逸らしてコップを傾けつつお茶を飲む。
「うちらはええって言っても、見つかったら言われるで~…?」
「い、言う所だったし…?何なら同棲希望だし?」
「え、えぇ…?!Sランクの方まで…!?」
そう言って一番驚いているのはエルマさんとクローディアさんの二人だった。
「セリアさんはたぶん気にはしませんわね?」
「あっはい。ただ、場所的に寝る所が…と言うのがある程度ですね?」
そう話しているとハッとした顔でジョルティアさんが立ち上がる。
「Sランクの部屋に行けば多分全員行ける!」
──実際に、そんな突拍子もない事をローレファルス先生を呼んで伝えてみた。
「──内容はわかった。が、却下だ」
「なんで!?」
私達は「ですよね」と言った雰囲気でその様子を見ていた。
「第一に、Sランクの部屋はSランク特有に作られた部屋だ。そもそも入室権限がジョルティア以外ない」
「だからだから!私の部屋とか!」
「第二に、お前の寮は2年生用だ。1年生でしかもSランクでもない奴らがぞろぞろ行って同棲するなど、周りから見ても異様過ぎてそれこそターゲットにされる」
「ならなら!私が宣言して!」
「第三に。学生寮はあくまで寮だ。講師である以上、そこに直接的な関与が難しい場合がある」
「うぐっ…じゃあこっちに!」
「──単位は取れてるか?」
ジョルティアさんはその事を言われるとスッと目を逸らす。
「…欠席回数、4月から数えて1月半で5回、途中欠席3回に学園物品の破壊2回──」
並べられると猫耳がイカのようになりつつ冷や汗がダラダラと垂れつつ目線を限界まで逸らしていく。
「──したいならそれなりにしてから言え、ジョルティア」
「うぐっ……。はい」
しゅんとする中ローレファルス先生はパタンッと資料を閉じつつ見る。
「まぁ、実際の所、データが欲しいのは確かだが…まずは身の回りをするところからだ」
私は「あっそういえば」と少し思った事を話し始める。
「先生、今エルマさんが新しく出来る事はないかなって考えてるんですけど、その時の特訓にジョルティアさんも同行してもらう、とかは良いですか?」
その言葉にジョルティアさんの目がきらりと光を戻しつつ期待した表情で見つめる。
「ふむ…日記にもあった奴だな。ルーテリアの時のように憑依でもさせるのか?」
「一度その方向で、と言っていますが感覚が掴めないのもあって最近は試行錯誤をしてるんですよ」
少しの沈黙が満ちる中、ローレファルス先生が口を開く。
「──Sランクの意見を取り込むといった所か。ならば実際にやって結果を出してみろ」
「良いんですか?ありがとうございます!」
笑顔で私は感謝を述べるも「ただし」と念押しされる。
「それで単位が落ちた場合は無しだ。良いな?ジョルティア」
「わかった!わかったようん!」
ブンブンと首を縦に振りつつ尻尾がゆらゆらと揺れる。
「はぁ…それで、日記にあったように18時くらいからか?」
「そうですね?」
「なら、それを基にジョルティアは動いて言い。ちゃんと一限ずつ全部出席した上でな」
「が、頑張ります…」
目線が泳ぎつつも言う姿は苦手科目があるんだろうなという雰囲気がひしひしと伝わってきていた。
──そしてその日もエルマさんの特訓に付き合いつつ、ジョルティアさんも参戦していた。
「ねぇねぇ何してるの?あれ」
エルマさんはフォレスと同じポーズをとったり手と肉球を合わせて動かしたりと、特訓とは到底思えないような光景がそこにはあった。
「セリアが言い始めたんやけどな。まずは相手を知れるように同じことをしてみたら?って事で真似してみてるんよ」
「…傍から見たら遊んでるけど、大真面目」
ふーん?と言いつつその光景を見ている最中、尻尾を揺らしながら見ている。
「うぅ…」
尻尾がパタパタとたまに上下するのを見つつ、どんな感情か全くわからないで困惑しているエルマの姿がそこにはあった。
そんな中ジョルティアはその光景を見たまま口を出す。
「何も考えない方が良いんじゃない?私そういう尻尾の時ぼーっとしてるよ?」
「へ?何も考えない?」
エルマの中で理解できない何かを説明してもらった風に思えたそれをとりあえず実践してみる。
「何も考えない…何も考えない…」
割と硬い肉球と手のひらを合わせながらそんな事を呟きつつ同じように横になりながら。
「となれば、寛ぐ感覚ですかね?何も考えない時ってそんな感じですし。ね?キナコ」
肩に乗っかって見ているキナコが一鳴きする。
そうやって見ていると、足音が聞こえる。
「…何この状況」
ヴィクトリアさんはそう言いながら歩いて来た。
「あっお疲れ様ですヴィクトリアさん」
「ん-?お、1年のSランクだー!」
見慣れない…いや、対抗戦の時にもいた2年生、ジョルティアがその場に居て同じように謎の行動をしているエルマを観察している様子があった。
「来る度に何かしら増えてる気がするのだけど」
「あはは…まぁ一緒の方が何かと意見交換できますし?」
「とはいえ私たちも何もしてないわけではありませんわ?」
「やな。普段セリアがしとる精神統一のやつとかしてるし。一人それで完全に寝落ちてるけど」
横を見ると完全に頭が垂れ下がっており熟睡しているミィの姿があった。
「──…特訓の仕方が独特と言うかなんというか…」
普通なら魔法を撃ったり、武器を振るったりしている。
しかしここにいるセリアの周りだけは、座って精神統一、契約獣と同じ行動を取る、契約獣を撫でたりグルーミングしたりしており、到底特訓とは言えないような雰囲気だった。
「ヴィクトリアさんもしますか?」
「遠慮しておく。」
そう言いつつ踵を返す。
(あと一日だもの。また変わってたら流石に驚くけれど)
そう思いながらヴィクトリアは「またねー!」とジョルティアに言われつつ、その場を後にした。




