第80話 「2年生」
「…あら。どうされました?」
エレアの所へ2年生の短く切り揃えられた黒髪のAランクが訪れていた。
「どうも、この前の対抗代表戦、お見事でした」
「ありがとうございます。それでご用件は?」
「ゼフィール様からお茶会のお誘いがあるとご報告を」
「──…。わかりました。日程は如何ほどでしょうか?」
「明日3時頃」
それだけ言うとお辞儀して歩いていく。
「──ルルイアス家と会うという事はジョルティアもいるという事ですね…」
ゼフィールは2年にいるSランクでありながらSSランク相当と言われる逸材。兄にオーランド、彼女をまるで守るように鉄壁の盾を召喚できる。
そして問題のジョルティアとは言うと…。
天真爛漫で気分屋、本当に猫を具現化したような性格で非常に苦手な分類だった。
──翌日3時頃。
エレアは二学年の専用テラスの方へと足を踏み入れていた。
「…どうも。お招き頂きありがとうござ──」
「髪の毛ながー!ねぇねぇ!私も長いよ!面倒だからツインテだけど!」
そう言いながら目を輝かせてくるくると尻尾や猫耳を揺らしながらエレアの周りを旋回する。
「この駄猫は…」
溜息交じりに言われる彼女は「ゼフィールちゃんひどーい!」と言いながらエレアの前に腰に手を当てて胸を張る。
「ジョルティア・シリンスだよ!猫耳とかはちゃんと生えてるからね!」
「私はゼフィール・ルルイアスよ。兄は後で来るわ」
エレアはゼフィールに差し伸べられた場所に「わかりました。失礼しますね」と言ってから座る。
「にしてもにしても!1年からSSランクってすごいね!どんな事してたの!あ、このお菓子ね、ゼフィールちゃんがわざわざ拵えてきてね!──」
「うるさい駄猫」
「また言ったぁ!?ひどーい!背ちっちゃくてかわいいのに毒舌ーっ!」
「なっ──!小さいは余計でしょ駄猫。面倒だから黙りなさい!」
ぶーぶーと口を尖らせながらお菓子を一口つまみ食いして「あ、美味しいこれ!」と言いながら静かになる。
(苦手過ぎるわ…このジョルティアって方…)
その様子を見て溜息を
「──今日呼んだ理由はセリアの力についてよ」
「…対抗戦のでしょうか?」
その事に頷くゼフィールはブラックコーヒーを飲むと苦いのか軽く顔をしかめつつも強気の表情に戻る。
「あの様子を見るに、完全初見だったんでしょ」
「──えぇ。事前に知っていたなら対処していましたね」
笑顔を崩さないまま慈悲深い笑顔で言うと、横でジョルティアが首を傾げる。
「ん~…なーんか違和感あるなぁ」
「?何がです?」
「えっとねえっとね、なんか猫耳とか生えてからなんだけど、直感が昔より鋭くなったんだよねー」
「直感…?」
「うん。なんか抱えてるとかすっごいわかるようなった感じかな!」
「…な、なるほど」
(ジョルティア…本当に苦手…)
勘が鋭いジョルティアは内面を少ない言動で探れるという事でもあった。
そう話していると「待たせた」と言って大柄の男が歩いてくる。
「クソ兄貴遅い」
そう言われつつもニコニコとしながら彼はゼフィールの横に座る。
「兄のオーランドだ。よろしく」
「エレア・セレスティアと言います。よろしくお願いしますね」
ニコニコとしながら紅茶を一口頂く。
「──それで。対抗戦で見せたアレは全部新規のなのね」
「えぇ。武器作成も複数属性魔法も、契約獣装衣も全てあの時が新規ですね」
「ふごいよねー!」
「食べながら喋らないでよ駄猫…」
唇を尖らせつつ耳がぺたーんとなりながら飲み込む。
「んくっ、1週間ずつインターバルがあったとはいえあそこまでするなんてねー!」
「ふむ、するとその間に習得した事になるのか」
オーランドが腕を組みつつ考えている最中、ゼフィールが喋り出す。
「ねぇ。それって共通点とかないの?」
「──セリア・レインと生活はしていますね。」
「え!それさそれさ!同居してるって事!?」
「えぇ。研究棟の方で実験という名目で数名と同居しているようです」
「へぇ?それで、誰と?」
「Aランクのルーテリア・ラフテイル。Bランクのルイネ・セフィル。Cランクのミィ・ラシール。Fランクに降格したクローディア・バロウズと元からFのエルマ・カルディナです」
それを聞くとジョルティアが乗り出して「大所帯だ!面白そー!」と目を輝かせながら見る。
「駄猫。アンタまさか突入する気じゃないでしょうね」
「え、ダメなの!?」
「1年に突撃する2年がどこに居るのよ駄猫」
そう言うと片手を大きく上げて「はーいっ!」と言いながらピコピコと耳や尻尾が動く。
愛想笑いのように「あは…ははは…」となりつつその様子を見るエレアはある意味でセリアに同情していた。
(絶対同じ立場なら来てほしくありませんね…)
「あっ、また酷い事絶対考えた!」
「いえ、そのような事は」
「考えたと思うもんっ!」
その様子を見ながら大きい手で頭を押さえるようにして止めながらオーランドが「はい座る座る」と言いながら制止を促していた。
「ぶーっ。あ、じゃあさじゃあさ!交流って事で飲み終わったら行ってくるね!」
そう言ってグイっと一気飲みして「行ってきまーす!」と身軽に策を飛び超えて行く。
「あ、ちょっと駄猫…!…あぁもう」
「まぁまぁゼフィール。ジョルティアの反応でどんなのかはわかるだろ?」
そう言いながらオーランドが頭を撫でると口を尖らせつつジト目で見返す。
「そう言う問題じゃなくてこっちの情報までベラベラ喋りそうって言ってるの馬鹿兄貴」
「まぁ、ジョルティアは嘘つくの下手くそだからなぁ…」
「とはいえ、これでようやくゆっくり話せます。今回呼んで頂いたのはその事以外も知りたいからではないでしょうか?」
「…へぇ。話はわかるわね」
そう言いつつ撫でるオーランドの手をパシッと払い除けつつ「いつまで撫でてんのよ」と言いながらエレアに向き直る。
「なんで空間魔法をあの場ですぐ打てなかったの?」
カチャリとソーサーにカップを置きつつゼフィールを見る。
「密度と速度が桁違いで、詠唱文言すら一切言えないくらいになって遅れたんです」
「Gランクでしょ?そんな魔力量ないはずだけど」
「制御能力、計測不能。少しは調べたなら知っていると思いますが、今回はそれが原因かと」
「測定不能…ねぇ…」
「ゼフィールも制御能力は高いはずだが…?」
「それは射撃制度よ。制御能力じゃない」
「簡単に言えば同じものでも密度が違うという事ですね。本来あんな魔法程度では阻害すらできないはずなのですが」
「ん-。魔力量底辺がなのに制御能力だけ異常…この辺りは実際に体感しないとどうしようもない…か」
「なら、ジョルティアに期待するしかないか。意外と良い情報を持ってくるかもしれないからな」
「ま、駄猫だけど勘は本物だものね」
肩を竦めてからゼフィールはマカロンをちょっと背伸びするように取ってパクっと一口食べる。




