第76話 「癪に障る」
翌日、私達は頑張ったのもあり、丸々一日の休みを設けて学園の中央にある噴水広場で寛いでいた。
雲間に紛れて暑すぎない程度の木漏れ日のような雰囲気の中、キナコ、ポヨン、ヒヤン、フラワ、メロデ、アシスが私の近くで転寝をしたり寛いだりしていた。
「ふふっ、気持ちよさそう」
「…セリアの契約獣、段々と居る時間伸びてる」
「セリアの近くがそんだけ好きなんやろな?」
その様子を溜息交じりにクローディアさんが口を開く。
「いや、にしても寛ぎ過ぎだと思うんだけど」
「ま、まぁ…メルフィス先生も、その、仲が良いなって言ってましたし…?」
「よろしいと思いますわよ。セリアさん自体、この風景のお陰であの窮地を脱したのかもしれませんもの」
クローディアさんが訝し気に寛ぐ私達を見ながら「窮地ねぇ…」と洩らす。
そんな光景に歩いてくる人影があった。
「…随分と余裕そうね。セリア・レイン」
「あ、どうも…?良ければ一緒に座りますか?」
笑顔を見せてそう言うと「は?」と軽く疑問に満ちた表情を浮かべる。
「ヴィクトリアさんですわね。ごきげんよう、何用ですの?」
ルーテリアさんが言うとエルマさんとクローディアさんが一瞬驚いた表情になる。
「視察といった所。と言ってもどう見ても寛いでるだけに見えるけれど」
「はい。この前はいっぱいみんな頑張ってくれたので、今日は日向ぼっこをしたり遊んだりしてあげようかなと」
「…それはメルフィス講師の教え?」
「えーと…親睦を深めるのだーってやつですか?」
私がそう言うと「えぇ」と小さく頷かれる。
「ん-、言われる前からしてるので、いわば家族団欒で過ごしてる状態かなと?」
「家族…ね」
「折角なら、ヴィクトリアさんも来てもらって一緒に寛ぎますか?きっとお手入れしてあげると喜びますよ?」
「…ねぇ。一個聞きたいのだけど、この頭お花畑は何を言っているの?」
そのやや棘のある言葉に「酷い?!」と洩らしつつも、質問されたルーテリアさんが答える。
「それがセリアさんですわ。私たちの契約獣もよくこういった時間に呼んでいれば、知らぬうちにお手入れしてくださっていますの」
「命令とかではなく?」
「…うん。よくブックも埃被るから、任せてる」
「うちのライボルも気性荒いはずやねんけどなぁ…うちより懐いてるんちゃうかってくらい大人しいんよなされてる時」
「あ、えっと、私の…ふ、フォレスも…です…。くっつかない…ですけど、付近にいる…というか…。」
その意見を聞いてクローディアさんが肩を竦める。
「動物とか精霊を引き寄せる香水でも付けてるんじゃないかってくらいくるけど…うん。本人に自覚は無しですね?」
軽く眉間にしわを寄せながらもヴィクトリアさんは「そう」と言いつつ再度私を見る。
「…それで。個体名は知ってるの?」
私は「キナコたちのですか?」と言うと頷かれたので、少し思い出すようにして考える。
「陽溜まりのスライムのポヨン、風切りの妖精鳥のメロデ、翠風の花鹿の子供フラワ、白銀の氷兎のヒヤンに」
最後の一匹であるキナコを撫でつつ。
「リスさんのキナコですね。個体名はよくわからなかったですけど」
「…気にならないの?」
「気にはなりますけど、そのうちわかるかなと?」
私はキナコの首筋をマッサージするように指先でカリカリとしながら更に続ける。
「それに、知ってても、知らずとも、キナコはキナコですから」
その言葉に肯定するように「ぴっ」と小さくキナコが鳴く。
「──不思議な奴って言われない?」
「あはは、何度か言われましたね…?」
そう話していると、ぐ~…とミィさんの方から音が鳴る。
「…お腹すいた」
「そういうたら昼間やなそろそろ?」
「あ、それなら是非一緒に食べましょう」
その言葉にヴィクトリアが困惑するように「…はい?」首を傾げる。
「あと前にもキナコとかも警戒してなかったですし、レオニダスさんも一緒に!」
「何言ってるの。別クラスよ…?」
「だからこそです。ご飯を食べながらお話ができれば、仲良くなれると思って」
「そんな簡単にSランクが──。」
「嫌でしたら無理にとは言いません。用事とかもあると思いますし」
その言葉に少し黙ってしまうヴィクトリアのその光景を見てセリアは小首を傾げる。
「……別に、嫌とは言っていないわ」
「じゃあ、折角なので一緒に食べましょう♪」
「話を聞いていたの?」
──そんなこんなで食堂の優待席にて。
(視察やレポート提出の為にきたは良いけれど…)
「──…それで?なんですぐ来てるの」
「細かい事は良いだろ。またシワ寄ってるぞ?」
「余計なお世話というのをご存じで?」
いつの間にか、レオニダスも加わって4組6名、2組と1組から1名、そして契約獣数匹という何とも不明な食事会が開催されていた。
「ほら、ゆっくり食べてくださいね?」
そう言いつつ手渡しで自身の契約獣にご飯をあげつつセリア自身も食べている光景がそこにはあった。
「──騒がしい」
「まぁそう言うなってヴィクトリア。俺は割と好きだぞ?こういう空間」
「直感タイプではそうでしょうね」
「なんだろう、すっごい馬鹿にされてる気がする」
「あら、そこも直観が働くのね。少しだけ見直したわ」
「やっぱりそうだよな…?!だって言葉に棘あったし?!」
実際に食事をすれば、味はそこそこでSランクが口にするには似つかわしくないようなものが並んでいた。
けれど、私が普段口にしている料理と比べれば、明らかに質は落ちる。
香辛料も少ない。食材も平凡。盛り付けも簡素。
――なのに。
不思議と、居心地は何故か良かった。
とはいえ下はGランク、この場限りとはいえ上はSの食事という意味不明な空間においては、この優待席の中では些細な事なのかもしれない。
そう思えたのはレオニダスの言動ありきだったのかもしれない。
「なぁ、俺も手乗せたらソイツら食ってくれると思うか?」
「じゃあ、メロデにあげてみますか?」
その提案に「やるやる!」とノリノリで餌やりをしている光景がレオニダスとセリアの間でもあった。
(──これに負けたのは少し癪ね。──本当に。)




