第75話 「納得できない」
「クソが…ッ」
対抗戦での戦闘が終わり、休日の最中
ガンッっと壁を蹴り飛ばしつつ乱暴に歩いていくヴァルザード・フォン・レグナスの姿があった。
対抗戦ではエレアに負けた。
それ自体は構わない。相手はSSランクの化け物なのだから。
だが4組に、しかもAランク単体に負けたという結果自体が、苛立ちとなっていた。
「ぜってぇ殺す…。あのクソアマ共…ッ。」
全てを力で捻じ伏せてきた自身にとって、最大の汚点だ。
否定されたような戦い方を繰り広げられ……
「──…。」
その様子を遠くから見ていた人物がいる。
ヴィクトリア・フォン・レグニッツ、同じく1組に所属しているSのもう一人だ。
ヴァルザードが歩いて彼女の横を通ろうとする。
「…あまり周りに当たらないでくれる?教師に目を付けられたくないのだけれど」
「んじゃあ構ってくるんじゃねぇよ殺すぞ」
「はぁ…──負けたのは慢心したせいでしょ」
その言葉を聞いた瞬間ピタッと足が止まる。
「んだと…?」
「魔力量に物を言わせて散々挑発したのはどちら様?」
「てめぇもう一回言ってみろ」
ヴァルザードはヴィクトリアの胸倉を掴んで苛立ちが隠せない様子で言う。
「…何?校則違反だけれど、ここで魔法行使でもする?」
その言葉を聞いて一瞬止まりつつ、突っ返すようにして手を放し、舌打ちをしながら歩いていく。
「っ…。たく、猛獣も手がかかるわ」
襟元を直しつつ、ヴァルザードが去る姿を軽く見てから自身も踵を返す。
──。
(あまり評価はしたくないけど、あそこは意見割れをしている様子が一切無かった…)
そう思いつつSランクの区域にあるカフェテリアで一人ウィンナーアイスコーヒーを飲んでいた。
(あのGランクが副リーダーの中、まとめ上げていざこざをある程度研磨したってこと?)
考えを出そうとしても、食堂での光景や対抗戦での中継を見たとしても、どうやって纏め上げたのかがイマイチ腑に落ちなかった。
間接的に知ったが、あの4組はほぼ毎日集まって作戦談話を欠かさずしていたというが、それでランク差を誤魔化せる程、この世界は甘くはない…はずだ。
そんな事を思っていると、人影が横切り」「ん?あぁ、ヴィクトリアか」と声が聞こえる。
「──。レオニダス・ノルディン、何の用?」
「おいおい、そう警戒すんなよ。」
彼は「ここ座るぞ」と言いつつ対面に無断で座ってくる。
「…それで、何の用」
「いやはや、同じ4組に負けた者同士、話でもどうかなと思ってな?」
「──。悪趣味ね」
「嫌な言い方するなよ。交流だ交流」
レオニダスは「俺にもコーヒー、ミルク在りで」と注文しつつ飲んでいるヴィクトリアを見る。
「それで?モニター越しでも見てたなら何かわかったか?」
「…終わった後に見直したけど、いざこざが無さそうに見えた程度よ」
「それは俺も思った。だが、たぶんそれだけじゃないな?」
「どういう意味…?」
「セリアの肩とか頭にリスいたろ」
「まぁ…ほぼずっといるわね」
コーヒーが届いたを見つつ、ミルクを入れてかき混ぜてから一口飲む。
「──俺はアイツが原因なんじゃないかって見てる」
「あんな小動物が…?」
「ヴィクトリア、あのリスの名称分からないよな?」
「…わからないけど」
「実は俺もわからん」
ジト目でレオニダスを見ながらコップを傾ける。
「根拠は?」
「そんなものはない。俺も感覚派だからな」
その回答に溜息を交えつつ目を伏せがちに言う。
「それで、そんなのをわざわざ言いに来たわけ…?」
「どうせならSランクの特権、こういう時に使って探らないか?」
「は?Gランクを?」
ヴィクトリアは「馬鹿々々しい」と言いつつも飲み切る。
「仮にそれでわかったとして何になるの」
そう言って伝票だけレオニダスに渡して歩いていく。
「…え、俺持ち?!」
行く前に軽く振り向いて「まぁ調べるだけはしてあげる」と言ってからスタスタと歩いていく。
「あらら、嫌われちゃったねぇ…」
頬杖を突きながらレオニダスはその様子を見送った。
──図書室、Sランク以上限定区域に足を踏み入れていた。
「…精霊、契約獣、モンスター図鑑は…」
と探しつつ、一つまた一つと本を手にしていた。
何冊かを抱えて、机に座り一つずつ開いていく。
「…リス型…見た目が違う…こっちは…色見が違う…こんな尻尾じゃない…」
そんな独り言を言いながら黙々とセリアのリスの事について調べていく。
──だが。
「はぁ…一件もヒットしない…なんなのアイツ」
手元のメモ帳に軽く記入して閉じる。
「──。そういえば特殊個体なら絶滅危惧種の資料も…。」
ふとまだ見ていないその脳裏に過った本を探しに行ってみる。
その本を探していると、コンコンッっと出入口が開く音の後、ノックが聞こえる。
「何を探しているのかな?」
「…ローレファルス講師。どうも、お疲れ様です」
「Sランク階級以上の書庫でずっと読み漁っている者がいると聞いて来たが…何を探している?」
「…実は──。」
ヴィクトリアは来た経緯を軽く伝えると、ローレファルスは「ふむ」と言いつつ考える。
「キナコ…だったか。確かに普段ずっといるが、本人もわからないと言っていたな」
「えぇ…わからないのに一緒に…?」
「セリアはあまりその辺りを探るよりも仲良くなることを選ぶからね」
「理解はできませんが…まぁ、なるほど」
「それと、絶滅危惧種などの本はSにはないはずだ」
「…そうですか。わかりました」
ヴィクトリアは踵を返して歩いて行こうとする時、呼び止めるようにローレファルスが言う。
「──でも、一つ頼まれてくれるなら、こちらでも手助けはしよう」
「…要件は?」
「セリアと接触してみて、レポートを提出してほしい」
「…?意図がわかりかねますが…。」
「それで良い。実際に今から1週間の間、見て、感じて、触れて、体感した上で、レポートを書いてほしくてね」
「…本当にそれであのリスの事柄について調べてくれるんですね?」
「あぁ、約束しよう。こちらとしても気にはなっていたからね。良い機会だ」
ヴィクトリアは軽く溜息をつきながら「わかりました」と伝え、一礼してから歩いていく。
「──…さて、今度はどんな”異常値”を出してくれる?セリア・レイン」
夕焼け空が差し込む窓辺を見ながら、面白そうに微笑みながらそう呟いた。




