第69話 「対となる存在」
「エレア様、あのー…」
紅茶を傾けつつアフタヌーンティーを楽しんでいると、資料らしき書類を持った者が来る。
「急用ですか?」
「い、いえ!急用ではないのですが、その、4組の事でまとめたものを早急にお渡ししようかと思いまして…!」
緊張した面持ちでそういう彼は報道部に所属している身。
そのためもあってか情報収集をする事自体は長けているのだが、何とも何時も何時も間が悪い。
「──…いえ、ありがとうございます。そちらの小テーブルに置いててくださる?」
そう言うと「はい!」と顔を赤くしながら資料を置き、お辞儀をして足早に去っていく。
「…はぁ」
こういった事を事前にしてくれるお付きがいれば、わざわざ手を煩わせずに済むのだけれど。……まだ学園では、その地位にない。
(…興が冷めたわ。)
そう思いつつも空になったティーカップを置き、資料を手に取りに行き、軽く手で払う。
「…SSに勝てるのか…。下剋上を期待するSランク以上がいないクラス…。聖女のピンチか…」
読むほどに溜息が出る。
策も何も、情報を見る限りでは相手にならないどころか、最大出力で放てば一瞬で決着が着くことは4クラスの能力や経歴を見てもすぐにわかった。
(どれも見出しは私を称賛せず4組の下剋上を面白おかしくする…。聖女たる私が負ける様が見れれば、特ダネになるものね)
プロフィールの所で手が止まる。
「…このGランク…」
前回にヴァルザードを軽く弄ぶようにあしらっている時に見かけた人物がそこにはあった。
「…マナコアGランク、制御能力が測定不能…。身体能力CからB程度…」
制御能力だけが気になる項目だが、他は劣等生。
力で捻じ伏せれば一瞬で退場させられる人物が4組の副リーダーにいる。
さらに言えば目立ったランク差別が今まで現状無いという異例中の異例がそこには記されていた。
本来なら、Gランクは社会不適合者予備軍として虐げられる存在で、媚び諂う事で学園を何とか生きているのが現状。
それ以外であれば相当学力が高く、錬金術による発明を軸にしている…だが。
「…研究棟でA、B、C、E、Fランクと共同生活中…教師のお眼鏡にかかっている…」
(同棲…ね)
嘯くのも大概にしてほしいと思いつつも、資料を何度か見返すが、日数などの数値を見るに一致はしていた。
「…妬ましい」
つい小さく口から零してしまいつつ、咳払いをして改めてそのクラス全体の能力内容を軽く暗記する。
───。
時間が過ぎ、外に出ては「ごきげんよう」と笑顔で挨拶をし、淑女の振舞を心掛けて一日を熟していく。
そうやってしていくうちにふととある集団が目に留まる。
「あ、これ美味しいです!」
丁度昼頃、串焼きを買って食べている例の一行がそこには存在していた。
「…?エレア様?」
取り巻きの一人が不思議そうに言う。
「いえ、何でもありません。行きましょうか」
そう言いながら食事をする為にSSランクしか赴けない場所へと歩いていく。
そこの区域に行く時、周りは広く保たれた個室に通され、優雅に食事を味わえる。
高級料理、希少食材に限定食材、あらゆる事柄において最高級のもてなしがそこにはあった。
当然、ここを通えるのは極僅かのSSである人間のみ。──なのに。
「…」
かちゃりと食器を置きつつ軽くワイングラスに注がれたアルコール度数の無いシャンパンを含む。
(…あの場所にいたという事は、記者が見つけて注目の的になる…となれば更に──)
そう思っていると途中で食事も通らなくなるが、外を眺めてみる。
そこには人々が闊歩していた。
商人、売り子に市民…どれも低ランク、自身とは似ても似つかない存在達がそこにはいた。
(…──こんなにも居て、私を称賛する声の方が小さいのはどうなの…)
世間で言えば口を開けばダークホースだの下剋上だの、くだらない。
だが、それは絶対に表には出さない。
何故なら、それをすれば今まで築き上げた地位が穢れる──。
そんな事をすれば慕われ、私自身を彩る人々が離れてしまう。
そして今。
(──SSランクである私を差し置いて世間に評価をされる存在…。SSSならまだしも、そんな人物はほぼいない生きる伝説に等しい人物。)
それこそ、ここの学園長であるユージーン・グラン・アストリア校長。
「…はぁ」
何を思っているのか、自身でも軽く不明になってきていた。
目立つ者が対面に来るのだから、何時も通り”代行として執行”をすればいいだけの事。
それがこの、ランク社会主義なのだから──。




