第68話 「キナコの動向」
「おやすみなさい」
そう言ってセリアが就寝する中、ミィはブックを開いて召喚補助をしてもらう。
「…小獣召喚」
そうやって術式を発動させると、小さい猫が召喚されて出てくる。
「…キナコの…あのリスの監視、お願い」
猫に一つだけ命令をしてミィ自身も横になる。
猫もそれを聞いて「み”ゃ」と少し低い声を了承するように出してセリアの方を座りながら見る。
───。
深夜に入った頃、むくっとキナコが起き上がる。
猫はその様子を見て、その動向を追跡する形で動き出す。
キナコは軽く背伸びや身震いをしてからそっとセリアの傍から降りて、自身でセリアが外して置いている魂結びの呼子石を起動し、小さい門が表れる。
その中に迷いなくキナコは飛び込む。
その様子を見てから、猫も追跡を開始し、同じように潜り抜けて行く。
──。
外に出るとそこは森の中で、夜目が効かなければ真っ暗な場所でキナコは躊躇なく走っていくのが見え、猫自身も追いかける。
数分ほど迂回を重ねて出たのは、巨木が立ち並ぶ場所だった。
周りを見る程にそこは昔からの自然そのままの状態でずっとあったであろう場所だった。
そんな巨木の一つにタタタとキナコが走っていくのを見て、穴にすっぽりと入る。
猫はそれを見てからその場に座り込む。
臭いを嗅ぐに、この辺りは縄張りというのが本能的にわかったからだ。
数分してからキナコがひょこっと出てきて「ぴぃっ」と一鳴きしてジーっと猫を見つめる。
その姿を見てから、のそのそと猫は動き出し、キナコのいる所まで爪を駆使してよじ登っていく。
程なくして穴に到達し、中を見るとそこには備蓄したのか大量に木の実があったり、小さい壁から発芽してる場所もあったりしていた。
──。
翌朝、ミィさんは猫吸いをするように顔を埋めながら、その視界に映った世界を解析していた。
「…」
「ミィさん、何かわかりましたか?」
猫は溜息をつくようにしながら目を瞑り、されるがままになっていた。
「ミィ、寝てない?大丈夫か~?」
「…寝てない。堪能はしてた」
「良い思いしてるだけやん!?」
その様子を見つつルーテリアさんが切り出す。
「それで、内容はどうでしたの?」
「…自然…並木…備蓄の木の実…あとは…。」
「あとは、なんですか…?」
私がそう言うと一拍空けてミィさんが口を開く。
「…見たこと無い木の中」
「ミィが見たこと無いって相当やな…?」
「まぁ、動物専門な所がありますわ。木々は植物学の分野ですもの」
「あっ!なら植物図鑑とかを探しに行きませんか?」
その意見を聞いてクローディアさんが「えぇ…」と言いつつお茶を飲み切る。
「わ、私は良いですよ…?ほ、本を読むのはその…好きですし」
「ならその木の大本探しやな。そこでキナコのなんのリスやーってわかるやろ」
「じゃあ決まりですね!」
私は飲み切りつつ、膝上に乗ってカリカリと木の実を食べるキナコを抱き上げる。
「キナコの種族とか知って、もっと仲良くなれるかもですね?」
ニコっと笑顔を見せると「ぴっ!」と一鳴きして尻尾をゆらゆらとさせる。
──図書室。
まだ学年対抗戦のインターバル中とはいえ、お祭り会場と化していた闘技場付近に人が集中しているのもあってか、図書室は人々の気配があまりなかった。
「ふむふむ…木もいっぱいありますね…。あ、これはよくリンリンッて鳴ってるの見た事あります」
「乾燥した場合に鈴みたいに鳴る風鈴草ですわね」
私達がそう言いつつ見ている間もミィさんがパラパラと木を見ていく。
「…これ」
指をさした場所にあったのは、綺麗なピンク色の木だった。
「霊華幻桜…すっごく綺麗ですね…。」
「これなら知っていますわ。パーティーなどでも実際に使われていますもの」
「おー、流石貴族。んで、どんな効能なん?」
「…精神安定、式典や夜会用の高級装飾品に使う」
私は懐で寝ているキナコを優しくトントンっと指ですると、ムクッと起きて顔を上げる。
「キナコ、この木がキナコのお家ですか?」
私は「ごめんね」と言いつつ起こして優しく手で抱えつつ図鑑の桜の木を見せる。
「ぴっ!ぴぴっ!」
その木の絵を見るとタンタンっと足踏みやその場でくるくるとして手の平にぴとっとくっ付いたりする。
「これは肯定してるの?それとも否定?」
クローディアさんがそう言いつつ首を傾げる。
「たぶん肯定してますね!」
「すごい自信…ほんとに感情読めてるの…?」
ジト目でクローディアさんに言われつつもエルマさんもジーっとキナコを見る。
「わ、私もその、そんな感じがしますね?」
「まぁそんだけ周りが言ってるんやったらそうなんちゃう?」
私が手で撫でると親指にぎゅっと抱き着いて尻尾をパタつかせる。
「あのー、ミィさん。キナコの巣はどんな感じでした?」
「…ここの中央部分」
くるりと指で中心辺りをなぞる。
「そうなると結構大きいですね?」
そう言いつつキナコに「頑張って掘ったんですね?」と言いつつむにむにと撫で返す。
「…でも、キナコの事はわからないかも」
「うーん、となると知ってる人を探すとか…ですかね?」
「そんなん言うてもおるかぁ…?」
首を傾げつつ考えても、中々回答が出ない中、一つの声が鳴る。
「…あ、あのー…。」
小さく申し訳なさそうに手を上げて言う。
「どうしたんですか?」
「一番歳を重ねている方とか。」
「一番歳を重ねているとなると…たぶん、ユージーン校長ですわね」
「でも確かあの人、神出鬼没でいつ来るかわからんのやろ?」
「どんな方なんですか?」
「綺麗に撫でつけられた銀白の髪の方ですわ。」
「あっ、その方なら前に見た事がありますね?」
そう言うと「どこで?」と言うように首を傾げられる。
「えっと…よくお庭に水をあげてて…?」
「庭…?庭園の方やとめっちゃ遠いけど…え、どっから見えてたん?」
「教室ですね」
「…少なくとも600mは離れてる」
「え、それ見えてたん…?」
私が「はい」と言うと困惑した表情で皆で見合ったりしていく。
「でしたら、ユージーン校長に会えるかもしれませんわね」
「まぁその前に、まずは対抗戦ですけどね」
その言葉に皆さんはコクッ頷き、キナコは「ぴっ」と鳴いてバンザイをする。




