第63話 「決め手」
闘技場の中心。
二つの集団が向かい合っていた。
左手に、1組。
右手に、3組。
その中でも、ひときわ目を引く3人がいる。
ヴィクトリア・フォン・レグニッツ。
そして、ヴァルザード・フォン・レグナス。
双方はSランク。
さらに対面には――SSランク、エレア・セレスティア。
「それでは、転送を行います!今回のフィールドは山岳地帯です!」
そう司会のコメットが言うと、互いの生徒達の前に扉が表れる。
それぞれの生徒達は躊躇なく中に入っていき、転送先へと足を踏み入れた。
「──配置に着きましたね~。」
「両者共、不正無く、正々堂々と。魔力制限、解除。――」
「「『交戦』!」」
会場が盛り上がりを上げる中、モニター先の生徒達は一斉に動き出す。
──開始直後に散会し、それぞれが配置につきつつクリアリングをしていく。
「くそみみっちぃ…正面から行けば良いだろうが」
「ヴァルザード…。それができるのはお前だけだ。他が──」
「うるっせぇ。力で捻じ伏せれば良いんだよ」
「はぁ…とはいえ、それは代表戦でしてくれ。」
「てめぇもそっち側だろうがヴィクトリア」
「だからこそだ。正面から行けばSSの光魔法に一瞬で薙ぎ払われるのが関の山だ」
「ッチ…」
ポケットに手を突っ込みながら面倒そうな顔をしてヴァルザードは歩き出す。
「…お前たち、手筈通りだ。行くぞ」
ヴィクトリアの号令の下、軍隊のように歩き出し、斥候部隊が先に向かう。
程なくして斥候隊が敵影を発見し即座に通達され、機動力重視の暗殺部隊が動く。
ヴィクトリアの号令が入った瞬間、即座に接敵し、下級刺繍の生徒を無力化すると転送付きの生命結界石が発動し、闘技場へと送られリタイア状態となっていく。
「やはり前に偵察を送り込んだか。ヴァルザード、そろそろ暴れれるから準備してほしい」
「指図すんな」
そう言いながらも指揮には従い、前に出る。
『本部隊接近を確認。3時の方向です』
その通信が入ると「では、本部隊移動を開始」と冷徹に言う。
その様子をまじまじと観客たちは見ていた。
「まるで軍隊だな…。」
「ランクSの指揮下というより、軍団長の指揮下だなありゃ」
「というかここまで損失無しじゃないか?1組の生徒…。」
実際、リタイア者は3組にだけ出ており、じりじりと部隊が前進していく様がモニターには映されていた。
──。
『本部隊、接敵します。』
その通信と共に1組、3組の本部隊が互いに見える。
「じゃあ…潰すとするか…ッ!」
ゴゥッ!と炎を携えながらヴァルザードは契約獣の陣を開く。
「来い紅玉の溶岩竜!焼き尽すぞッ!」
その呼び掛けにより、全身が赤い結晶と溶岩で覆われた巨大なドラゴンが出てくると熱波が周りに広がる。
「なんとォっ!Sランクの戦闘型契約獣ですッ!まさか本対抗戦の一回目で出るとはッ!!」
どよめく会場の中、モニターには巨大なドラゴンの姿が映されており、対面していた3組が畏怖しつつも魔法を撃つ姿は、その名の通り焼け石に水。
畏怖した者たちの下級水魔法などいとも容易く蒸発させ、逆に返り討ちにしていく。
「おらおらおらっ!クソ雑魚共が!しゃしゃってんじゃねぇッ!」
自らも広範囲の火魔法を放って前衛から順番に消し飛ばしていく。
そうしている時に通信が入る。
「ヴァルザード、あまり連射するな。エレアが来た時に対応できなくなるぞ」
「わぁってるから黙ってろ。てかそう言うそっちはどうなんだ」
「こちらは制圧完了した。手筈通りだ」
モニターに映されたその横には、大きな蛾のような契約獣がいた。
「奈落の灯蛾だ!逃げ…ぐあァっ!?」
対面するその声を発する存在をリタイアへとヴィクトリアは追い込み転送させる。
「ヴァルザード、そのまま進軍を頼む。サポートは引き続きする」
その通信をすると舌打ちしつつも「邪魔はすんじゃねぇぞ」と了承した声が来た。
──。
「──く、エレア様!報告します!」
「えぇ。お願い致します」
「前衛14名、密偵3名がリタイア。更に進軍を許してしまい5名が負傷状態です!」
「そうですか…。」
そっと目を閉じて考える。
「……まだ出る必要はありません」
「エレア様、このままでは前衛が――」
「構いません。相手の配置を全て確認してください」
困惑を顔に滲ませ報告する彼を見ながらいう。
「ヴァルザードを無視。ヴィクトリアを中心に展開を」
「で、ですがそれだとエレア様の所にヴァルザードが」
「それで構いません。」
「まだ勝てます。ですが、今ここで私が前に出れば――相手も最大火力をぶつけてくるでしょう。ですので、すぐさま行動を」
エレアがそう指揮すると「は、はい!」と慌てた様子で走りつつ通信を入れていく。
「…はぁ、本当──。」
何かを呟き、座っていた石場から優雅に立ち上がる。
──。
「…は?いきなり見えなくなったが…おいヴィクトリア、前に居ないぞ!偵察はどうした!」
通信を受けつつもヴィクトリア本人も、顎に手をやっていた。
「戦法を変えたか…なるほど。私たちを削らせるだけ削らせてから、最後に自分が出るつもりか…。となると──。」
次の指示をしようとした時、偵察部隊から合図の魔法が届く。
「…閃光系魔法…2回…あの一瞬で斥候全滅だと!?」
「──ッ。ヴァルザード、計画が変わった、そっちにエレアが行く可能性がある!」
そう言うも、「上等だSSランク様よォ…!」と声が帰ってくる。
「くっそこのバトルジャンキーが…。くれぐれも単騎で行くな。相手はSS、正面突破じゃ叩き伏せられるぞ」
そう言っていると周りに気配が出て行く。
「──って。全部こちらに来たか。」
──。
「おいどうしたヴィクトリア…。チッ、交戦中ってか…」
自身も馬鹿ではない。合流しなければSSには力負けする事くらいはわかっていた。
そう思いつつ一旦戻って合流する時に対面に最悪の存在が歩いてくるのが見えた。
「どうも。」
「クソが…エレア・セレスティア──。」
「ふふっ。名前を憶えていてくださり、嬉しいです」
ニコニコとする表情には上っ面だけのソレが感覚的にわかっていた。
「…だが、お前でもコイツと俺を同時に相手するのは流石に骨が折れるんじゃねぇか?」
紅玉の溶岩竜は火山に潜む危険部類に入る戦闘兵器のような契約獣。
いくらSSだからと言ってこの2対1は普通にキツイ相手だろう。
「えぇ。確かに厳しいですが…それはソレです」
「死ね。炎竜波!!」
契約獣と同時に出力を一気に上昇させ、目の前の化け物へと放ち付ける。
山岳地帯の一角が赤く染まり、熱で岩肌が溶け、地面すら赤熱していく。
それはもはや魔法というより、局地的な災害だった。
着弾した場所から巨大な爆風がソイツがいた所一帯を焦土へと書き変える。
「…はんっ。流石にリタイアしたか──ッ?!」
刹那、空に広がる巨大な空間が歪むようなソレが複数表れていた。
「…お見事です。空間魔法が無ければ今ので私はリタイアしていました」
クスクスと笑う姿はまるで空中を散歩するかのようにその場に佇むようにして存在していた。
「…あの一瞬で移動したか…だがそれは連続で撃てないよな?」
「えぇ。できません。ですので…”神罰を与えます”」
その言葉が聞こえた瞬間、上空には複数の光が星空のように煌めく。
「…ッ!」
「裁きの光」
極太の光が複数流星のように紅玉の溶岩竜もろとも、ヴァルザードへと降り注ぐ。
即座にヴァルザードは防御系を展開し、回避しようとするも、空間魔法により軌道が変えられる。
攻撃に魔力を使った事もあり砕けるようにして障壁を貫通する。
地面に叩き伏せられ、身体を起こそうとする。
しかし、全身に力が入らない。
「……クソ……化け物が……」
その直後、生命結界が砕け散った。
契約主の生命結界が消失したことで契約状態が解除され、巨大な竜は光の粒子となって消えていった。
『戦闘不能を確認。ヴァルザード・フォン・レグナス、リタイア』
アナウンスが流れて彼が消える中そっと呟く。
「ふふっ、化け物だなんて……万全の状態でしたら、私も今の攻撃は避け切れなかったでしょうね」
エレアは踵を返して次の後衛のヴィクトリアの元へと歩いていく。
──。
「いらっしゃいましたね。ヴィクトリアさん」
「なっ…?!空間魔法で裏に…?!」
刹那、光の刃で切り飛ばすようにして一瞬でリタイアしてしまう。
「読みが一手遅かったですね」
「……ッ」
『戦闘不能を確認。ヴィクトリア・フォン・レグニッツ、リタイア』
──その光景をモニター越しに全員は見ていた。
「…あ、ぎ、逆転です!劣勢だった3組!なんとエレア・セレスティアの広範囲魔法で一掃しました!」
「相手の消耗を見てから圧縮した魔法で覆しましたね。咄嗟に標的を変えたのは良いですが、少々損失が多い気がしますね~?」
イリスは少し間を開けてから更に続ける。
「とはいえ、力を温存しながら盤面を把握し、一瞬で空間魔法を使っての接敵、撃破というのはよく考えましたね。及第点と言った所です」
「で、ですが!1組の双方リーダーのリタイアにより作戦破綻!勝者は、3組です!」




