第60話 「困っているなら」
「――本当に来ましたね…。」
私がキナコを手に乗せたまま行くと少し驚いた様子でしたが、リリアーヌさんは咳払いをして接客の体制に入る。
「いつもの方々もいらっしゃると。」
「ローレファルスから基本おれーって言われてるんです」
ルイネさんがそう言うと「ふむ」と言いつつ依頼書を出してくる。
「あのー、それで指名依頼…?というのを通知で頂いたのですが…?」
リリアーヌさんは頷くと一枚の
「こちらですね」
私は実際の依頼書を見ていく。
「お婆さんのお家の掃除などですか…」
「はい。ですが報酬の方は見てもらった通り――」
「受けます」
「まぁそうなると思って…――?」
二つ返事する私とリリアーヌさんの間に沈黙が生まれる。
「え、えーと…?依頼を受けたいんですが…?」
「――ですがポイントにもなりませんし、時間を浪費するだけですよ?」
「困ってるなら助けないとですし。わざわざお願いされたのなら受けたいです」
また少し時間が停止したように私達の間にはしばしの沈黙が生まれてからリリアーヌが咳払いをする。
「――わかりました。では、受理致します」
そう言って判子を押してもらい、感謝を告げてから受付を済ませた書類を持って皆さんと行く。
「――本当に受けましたね…。」
――……。
私達は皆さんで向かい、ノックすると、杖着いたお婆さんが出てくる。。
「あらまぁこんなにぃ…」
「お婆さん始めまして、セリアっていいます。この依頼を受けて来ました」
私は笑顔で、近所のご老人の方たちに言っていたように接する。
「ごめんねぇ。近頃、眼も悪くなってきてぇ…」
「いえいえ、片付けるのとか大好きですから大丈夫ですよ?」
「そうかい?それじゃあお嬢ちゃんたちに任せようかねぇ」
そう言ってすんなりと仲良くなり、家へと上げてもらう。
その光景を見てクローディアは少し唖然としていた。
(会って2分経ってないのにもう仲良くなって話してる…。)
――中に入れてもらうと、意外と中は広く、お年寄り一人では掃除できそうにない長年そこにあったであろうお家というのがわかった。
「これは流石に難しいですね…?」
「そうなのよぉ…。夫も今は他界してもう何年もここに一人でねぇ。あの人が好きだったのがあったんだけど…その時のも掃除できないくらい私もこんな婆さんになってしまってぇ…」
「ふふっ。なら是非綺麗にして何時でも帰ってこれるようにしてあげないとですね?」
「帰ってくる?あの人はもう他界して何年も経つんだけど…」
「そうだったとしても、魂はまだお婆さんを見守るために来てくれてると思いますよ?」
「――…魂は…ねぇ…。」
そう言いつつ、何かを思い出すように家をゆっくりとお婆さんは見回す。
「…そうさね。なら、報酬は少ないけど…出来る限りお願いできるかい?」
「勿論です。一度こっちに持ってくるので、その時に大事なものがあれば言ってくだされば、ちゃんと残しておくので、安心してくださいね」
私はお婆さんに感謝されつつ、皆さんに説明をする。
「では、基本的には私が担当するので、お婆さんの話し相手などになっていてもらって良いですか?」
「それはええけど、あの研究棟以上には広いで?大丈夫なん?」
「大丈夫です。これの3倍くらいのを一人でやってたので」
「え、えぇ…。3倍って…」
「3倍ねぇ…眉唾物だけれど、見てればわかるか…」
「…なら、重いのは言って」
「ありがとうございます。ではちょっとの間寛いでてください」
「無理はしないように、お願い致しますわねセリア?」
見送られて返事をしつつも、まずは雑巾などのを貸してもらったり水を用意したりと下準備だけして一式を持って歩いていく。
――1時間もしない程度の頃、セリアは休みなく何時もの雰囲気のまま働き続ける姿を一行は見ていた。
「…うちらがするより速いのほんますごいな」
「あれって魔法使ってないのにあの速度なのおかしいでしょ…」
実際1時間で6部屋あったうちの2部屋は既に終わり3部屋目へセリアは既に行っていた。
並べるなどは一行に任せていたが、チリ1つないどころか、ピッカピカに磨き上げられており、モダンな雰囲気を残す部屋へと大変身していた。
「…研究棟でも速度はおかしい。」
「それだけ真剣に取り組んでいる所は、私達も見習わなければなりませんわね」
聞いていた数人が頷いているとエルマがお婆さんに話しかけていた。
「あ、あの。このお家ってどれくらいあるんですか…?」
「――この家はねぇ…。私が21の時に初めてあの人と買った家なんだよ」
そう言いながら彼女は懐かしむように天を仰ぐ。
「あの時は資金もギリギリでねぇ…。一緒にお金を出し合ってやっと購入したんだよ…。」
セリアが「大事かもしれない」という理由で机に持ってきた物品を一つ手に取る。
「これは初めてのプレゼント――。…あの人、わからないからって石に刻んで渡してきてねぇ…。本当に、不器用な人だったよ――。」
その婆さんの話始めの表情は、穏やかなものだった。
――――2時間の程。
セリアはやっと全部の部屋の掃除を終えて歩いてくる。
「ふぅ…なんとか終わりましたぁ」
そう言いつつ皆さんのいる場所に戻ると、お婆さんはお菓子を少しとお茶を淹れてくれていた。
「おや、もう終わったのかい?ありがとうねぇ」
「はいっ。あ、それとお婆さん、こんなものがあったのですが…?」
そう言って掃除の最中に棚の裏の隙間に挟まっていた手紙を差し出す。
「ん…?」
ぴたりとお婆さんは止まり、それを受け取り中身を見ていく。
「…――――。ふっ…本当にあの人は…―――。」
そっと手紙を折りたたみ、大事そうに服のポケットに入れる。
「ありがとうね。ずっと探していた手紙を見つけてくれて」
「いえ。きっと、お婆さんに会いたくて、私を通して伝えてくれたんですよ」
「…――そうだと、嬉しいわ。」
私達はお茶をご馳走してもらい、お菓子も貰って軽く休憩をさせて頂いている間に、完了報告書を貰って別れました。
――――君を見て、守っている。ずっと一緒に居よう。 ――愛する妻へ。
――――。
「うちらただ寛いで婆さんの話聞いたりしてただけやったな…?」
「ふふっ。お陰でお掃除に集中できました。ありがとうございます皆さん」
「…ん。まったりできた」
「なんだかセリアさんと居ると、あぁいう時間も苦ではなくなりましたわね?」
「あ、それはちょっとお、思います。その、まったりするのとか…研究棟でもそうでしたし。」
「――…はぁ、なんか退屈だったわ。」
「あはは…お待たせしてしまいすみません」
私達はそういう会話をしながらも、報告書を持ってリリアーヌさんの所へ向かうのでした。




