第59話 「損得勘定」
受付嬢の朝は早い。
起床してすぐ、朝食を食べ、朝の支度をし、来た依頼を片手間に見ていき、ランク別に選別していく。
そして少し多めの量の依頼書が机にある中、テレサが頭を抱えいた。
「あ”ぁ~…なんか多いです今日~…。」
「はぁ…テレサさんは――…毎日毎日本当に…。」
リリアーヌは溜息をつきながらそうテレサに言ってから、クレアを見る。
「それで、なんでクレアさんは困り顔でそんな肩を落としてるんですか…」
「それがですね~…?あのセリアさんという子を見てると、最近丁寧とは、と考えてしまいまして~…」
「あ、セリアさんってあのGランクの!」
先ほどまで駄々をこね始めていたテレサが反応して顔を上げる。
「はい♪丁度テレサさんが腹痛で遅刻したあの日ですね~♪」
「だからあの時はごめんなさいって?!」
クスクスと笑うエレアはリリアーヌから紅茶を貰い、感謝を伝えてから一口飲む。
「とはいえ、あのセリアさんは雰囲気は違うのはそうですが。丁寧な所が他よりも群を抜いているなと?」
「あ、それは思いましたっ。毎回来る度に…といっても私はまだ2回だけですが、お願いしますって言ってましたね」
「…見ている感じ、ほぼ全力だったと言った報告内容でしたね」
テレサが首を傾げているのでセリア・レインの完了報告資料を見せる。
「わぁ…。評価が全部5点ですね…?」
そこにあったのは猫を捜索した後も腰が低く、猫自身も怯えた様子はなかったり、畑仕事では率先して依頼以外の事までやってたり、分別まで含めて館を掃除したり、養蜂場では蜂蜜の採取以外の事までするという依頼外まで記された文面がそれぞれに記述されていた。
「筆圧や癖も全部違いますし、後で書き足したりした形跡の魔法感知も反応しなかったので、事実かと」
リリアーヌがそう言うと、クレアも見て唸るようにして見ていく。
「なんだか、謙虚ですね?このセリアさんという方」
「しかもしかも、Gランクだからとかいうのじゃなくて、人として謙虚って感じがしますねっ!」
「で、逆に他の生徒ですが。資料をめくってみて比較してみてください。」
テレサは首を傾げて他の生徒のも開いてみる。
「…必要最低限。完了はしてますが全部が5点満点になってませんね…?」
「えぇ。なんなら真似た痕跡もあったりするので、それが発覚した場合はこちらでポイントを差し引いたりして提供している状態です」
「高ランクはそう言ったのは無いという感じですが…ちらほらと存在しますね?」
実際の所、在籍している生徒の中には虚偽報告をするというのも受付嬢の間でも、教師陣の間でも問題視されていた。
離している中、リリアーヌは「とはいえ」と言いつつ資料を纏めて整頓する。
「やる事は変わりません。受付は滞り無く遂行します。」
二人は頷いて仕事場へと向かう。
受付開始時間になり、すぐに生徒達が入ってきたりする。
「あと20ポイントでランク上のにできるんだよね」
「俺はまだボーダーポイント溜まってねぇからやらねぇと」
「なら3人とかで出来る討伐依頼とか行こうぜ。稼げるし」
そんな会話もある中、リリアーヌの所に依頼書を出してくる。
「ふむ。C、C、D。ランクは問題ありませんね。|縄張り蜘蛛《 トラップ・スパイダー》を5体の討伐依頼を受諾します。無理はしないように」
「「どうもー」」
などと適当に言う雰囲気で依頼に向かう2年生たち。
その様子を見てリリアーヌは資料に目を落として受付時間を記入していると、歩いてくる人物がいた。
「…ん? あぁ、お疲れ様です、ヴェインさん」
彼は「おう、お疲れ」と相変わらずの目の下にクマを作りながらマグカップを片手に、資料を携えて歩いて来た。
「こちらに来るのは珍しいですね。それで、どうしましたか?」
「あぁ。依頼を道中に婆さんから貰って来た。」
「何故そんなものを…」
「薬品調達の帰りにいつも通る道の腰の曲がった婆さんでな。」
そう言いつつ渡された資料は、確かに依頼だが――…。
「…体調不良、腰痛持ちに杖持ちで…報酬金が未定ですね」
「金が無いらしくてな。お茶しか出せないが、出来ればで良いからと家の掃除を手伝ってくれとのことだ」
経験上そんな安請け合いをして、報酬もほぼどころか全く無しでそんな面倒事をするなんて物好きはリリアーヌは知らなかった。
――ただ一人を除いて。
「…良いですが。ほぼほぼこれは指名依頼では?」
「だろうな。最近年寄りの間で噂があるらしい。物凄い手助けをしてくれる依頼受注者の女の子がいるってな」
「…ですが、報酬がお茶ですか…。ポイント発行には少量とはいえ資金を要求しますが…これはポイント無しの内容…。そんなにお人好しでしょうか、あのGランクは」
「まぁ、やってみりゃあわかる。こっちとしてもそれで成果が出た場合、埋もれていつも通り燻ってる奴らのケツ叩くみたいになって一石二鳥だろ」
物言いは乱暴だが、彼の言う事は最もだった。
実際、低ランクがやる気を失くしてしまい自主退学しようとするなどの問題は以前からもあった。
「…はぁ。わかりました。ポイントは一応1としておきます」
そう言うと彼は「任せた」と言って踵を返す。
「そうだ、リリアーヌ。連絡入れて指名みたいな感じで報告もしておいてくれ」
「…良いですが、望み薄ですよ。良いんですか」
「それで受けなきゃその程度ってことだ」
そう言って今度こそ出口へと歩いていくのを見てから溜息をついて、彼女のマテリアルプレートに通知の書類を作成するために二人に言ってから奥へ行く。
―――4クラスの集まっている模擬戦闘施設の奥まった一角。
私達は動きを何となくで教わってから軽く併せる。
「うぅ…」
中でも私を見ていたゼクスさんは頭を軽く抱えたまま、疲労困憊の私を「とりあえず休憩しろ」とベンチに指示し座らせてくれていた。
「もうちょっとランニングしておくんでした…」
そんな事を小さく呟いて上がった息を整えていると、マテリアルプレートがプルルッと鳴る。
「…?」
私は気になって通知を見ると、件名「指名依頼」の文字があり、開いてみた。
そこにあったのは、お婆さんのお片付けの依頼が記されていた。
「…わ、大変そう…」
うーんうーんと外すのもなと思いつつ唸っていると他の同級生も休憩に入ったようで、歩いてくる。
「…どうしたの、セリア」
「あ、ミィさん。え、えーと…指名依頼が入って…?」
「指名依頼?セリアにか?」
「はい。その、お婆さんのお家のお片付けの依頼が…」
「セリアさん的にはどうしたいんですの?」
「私は行きたいですね。お年寄りの方が困っていますし」
ルイネさんは苦笑しつつ「二つ返事過ぎやん♪」と面白そうにクスクスと笑っている。
「…ん。セリアが行きたいならその方が良い」
「ふむ…。どうやら人数的に解散の流れのようですわね。」
ルーテリアさんがそう言いつつゼクスさんの方を見ると、軽く状況説明などをしている様子で解散の意を示していました。
「なら、行っても良いってことですか?」
「ま、そういう事やな。というかよれよれなってたのに大丈夫なんかいな?」
「あはは…程々に倒れない程度にやりますね?」
私は苦笑しつつも、立ち上がり、ゼクスさん達に事情を伝え、受付嬢さんの所に足を向け歩み始めた。




