第55話 「記事」
「何これ…」
1組に在籍しているSの一人、ヴィクトリア・フォン・レグニッツ。
彼女は4組に在籍しているセリア・レインに対しての記事をマテリアルプレートで観覧していた。
「Sランク教師の技術を超えたGランク…?」
にわかには信じがたい事が羅列されている記事を見ながら親指が止まっていた。
「何このデマ情報…。」
そう言いながらスクロールして今日の一限目の錬金魔導室への移動をする為、席を立つ。
言質に着くと、そこには教師のクラウスが居た。
「それじゃあ今回はこの試作段階の魔導滑走板を利用した授業だ」
その後、説明を受けてから生命結界石をクラウスが渡していき、順番に乗っていく。
(これが言ってたボード…?)
ヴァルザードの方を見ると、同じように初見で乗っているようだが…――。
「ッ…」
浮き上がるのを押さえつけるようにしてやるも、バランスが定まっていないらしく、無理矢理捻じ伏せるようにしており、ふらふらとしていた。
(くだらない。Gがそんな簡単にできるなら――)
そう思いながら自身も両足をつけると、その思いを嘲笑うかのようにいきなり空中に浮くボードに翻弄される。
「!?…ッ…!」
構造を見て掌握しようとするほどに暴れる《《ソレ》》は、既存の制御とはまるで違う事を嫌でも認識させられる。
(なんだこれは、これを1分以内だと?!)
そんな事を思いつつも、歪みを修正しようとすればするほど、まるで意思を持って拒むかのようにぐらぐらと揺れてしまう。
「あ、そうそう。ちなみにこれはローレファルスで5分かかった」
《《ソレ》》自体は記事でも見た、がそれ以外はフェイクのお遊びの――。
「あの…1分以内のやつがいたと記事にあったんですが…しかもS以下で」
「あぁ、居たよ?何なら何も教えずに旋回やらなんやら全部してたよ」
その一人の生徒の発言をさも当然かのように言うクラウスの発言の瞬間、フェイクだという武装が一瞬にして砕け散った。
「は?そんな――ッ!」
慌てて制御外に放り出されるような感覚を覚え、戻す作業にシフトした時、言葉が途切れてしまう。
「まぁまぁ世の中適正問題ってのがあるから?」
「クソが…そんなでたらめ扱いてんじゃねぇぞ、ッ!?」
「集中途切れると一瞬で制御失うぞー」
淡々と言うその発言に苛立ちを隠しつつも、事実この魔導滑走板は力むほどに反発してバランスを崩しやすくするような反応を示していた。
――授業が終わってから統計が取られていた。
その数値は、平均6分。
教師のローレファルス5分というのが腑に落ち、低級のGランクが1分というのが腑に落ちない結果となっていた――。
(セリア・レイン。なんだコイツは…詐称…?いや、軽率か…)
そんな事を考えつつ、最新の記事を読んでしまっていた。
――時刻は変わり、3クラスの授業の番。
「はい、じゃあ皆も乗ってもらおうか」
淡々と進められ、その学年唯一のSS、エレアも実際に乗る所だった。
「まぁ…これが…」
上位0.001%の選ばれた存在にとって、この程度は赤子の手をひねる程度に容易い。
そう思いつつ足を乗せると、制御が上手く行かずにぐらついてしまう。
「っ…」
大きく崩れはしない。だがその一矢を報いたような雰囲気のそのボードに対して腹立たしさが少し胸の奥で沸き上がる。
「おぉ、流石SS。初見でそこまで乗るか」
そう言いながらクラウスは資料を纏めるようにペンを走らせていた。
目を細めてしまうのをぐっと堪えつつ、整えるようにして制御の感覚を広げて、完全に掌握していった――。
――その記事に乗っていた結果は2分半。
(……SSで2分半…。あの暴れ馬をそれで手懐ける…でも)
例のGランクは1分未満。
その事実がどうにも引っ掛かり、ヴィクトリアは午前の授業を受けた上で、普段は行かないA以下の食堂風景を見に行く事にした。
(数値だけでは判断できない。なら、本人を直接観察すればいい。)
(戦闘ではなく、日常で何をしている人間なのか。それを見れば、少なくとも偽装か否かくらいは判別できる。)
そんな理路整然を構想しながら、行くと食堂の方には既に人だかりができていた。
疑問符が過りつつも向かうと、当然のよに見えた下級ランク達はススッと道を開けていた。
そこに居たのはレオニダス・ノルディン。
2クラスに在籍している1年のSと…例のGランクだ。
「ふむ。面白いな」
「ふふっ、レオニダスさんもあれでしたら一緒にお食事でもどうでしょうか?」
(…?)
思考が途切れた。何を言っているんだコイツは、と。
普段から多数の演算を考えたりしていたが、始めてぽっかりと空間ができるようにそのセリア・レインという存在から放たれたレオニダスへの言葉に、思考が飛ぶ。
「おや、良いのかい?なら、僕も少し気になるからお邪魔させてもらおうかな」
黄色い歓声、困惑、嫉妬のような声が所々に聞こえる中、レオニダスはセリアと肩を並べて座る。
――。
「人気者やなセリア?」
「何故かはちょっとわかりませんけどね…?」
エルマさんは終始ちょっと震えつつも同席してくれていた。
「ふ、普通にランク関係なく座ってる…。」
「そんなに怯えないでくれ。捻り潰すとかの物騒な事は考えて無いから」
その言葉を聞くと、キナコもジーっと見るだけで威嚇はしなかった。
「キナコも挨拶しましょうか?よろしくお願いしますね」
そう言うと「ぴっ」と一鳴きする。
「これは、小さいお客人だ。セリア君の契約獣かい?」
「そうですね?」
「ふむ…――。」
「レオニダスさんは、食堂に来るのは初めてなんですか?何回か来てますが初見だったので」
「あぁ。普段はダンジョンに潜っていたりしていてね。風の噂を聞いて興味が湧いたんだ」
「…記事?」
そのミィさんの言葉にレオニダスさんは頷く。
「どんな記事ですか?」
「魔導滑走板の掌握時間という記事でね」
そう言ってマテリアルプレートをぽちぽちと操作して記事を見せてくれる。
「わぁ…こんな記事があったんですね…?」
「え、知らんかったん?!」
「はい。連絡と、時間割…あとは皆さんからのメッセージくらいでしか利用してなくて…?」
「本当に最低限ですわね」
私はその言葉に苦笑しつつも記事に目をやる。
「あの、レオニダスさん。こういった記事の見方、教えてもらって良いですか?」
「あ、あぁ構わないけど…。本当に物怖じしないね?」
「ご迷惑でしたか…?」
「いや、他とは全然違うと思っただけだ。――早速一緒にやろうか?」
私は頷いて自身のマテリアルプレートを出して記事一覧の見方を教えてもらう。
――何もないアプリ項目の中にまた一つ、項目が増えて少し満ち足りた表情の中、皆さんと一緒に食事を楽しんだ。




