第54話 「私の事」
湯舟の中で皆さんと寛ぎながら私は深呼吸をして息を整えつつ、湯舟の上にある桶の中で寛ぐキナコを撫でる。
「ふぅ…。」
「…ねぇ、これって何のためにしてるの?」
そう言いながらもクローディアさんが片目を開けてみてくる。
「一日をゆっくり振り返る感じですね。こうやってすると覚えも良くなるんです」
「それも修行とかってやつなの…」
「修行…というより、習慣ですかね?」
そう言うとクローディアさんは「は…?」と困惑した表情で言う。
「やり始めたのは小さい頃から、でしたわね?」
「はい。物心着いた時にはお師匠様が居たのでその時からですね?」
「そんなに前から…?」
眉間にしわが寄りつつ首を傾げるクローディアさんに対して頷く。
「本来その時期ってマナコアを育てる時期でしょ?」
「私は家系的にお師匠様の所で修行をするっていうのがありまして…?」
「なんで…?」
「………」
私は少し昔を思い出すように目を閉じてそっと足を湯舟で投げ出すようにしてゆっくりと体重を湯舟へと預ける。
「何故でしょうね。私もそう教えられて来たので」
「なんか訳ありとかか?」
湯舟に浮くミィさんを軽く押しながら連れてきてルイネさんが言う。
「いえ、訳ありという事はないですが、色々と教えはありましたね」
「教え…?」
「私の所だけだとこちらに来てからわかったんですが…物に対して大事にしてると、命が宿るなどですね。」
少しの沈黙がお風呂場に広がる。
「他には、急がば回れ、石の上にも三年、井の中の蛙大海を知らず、猿も木から落ちる、塵も積もれば山となる、二兎負う者は一兎をも得ず。」
「こんな言葉を…いえ、”言の葉”を、小さい時から教えてもらっていたんです」
「…その言い方も昔から?」
「はい。だからお風呂も最初は《《禊》》と言っていたんです」
「何それ…。ただの言い方ひとつの問題じゃない」
「ふふっ。そうかもしれませんね?」
クローディアさんにそう言うと「ほんとわけわかんない」と言いつつそっぽを向いてしまう。
「…でも、何となくですが、こういう積み重ねがあるから、こうやってキナコ達と会えたのかな、と思っていますね」
そう言いながら軽くキナコの尻尾を撫でるようにして洗ってあげつつも可愛がるようにして微笑むと「ぴっ」と返してくれる。
「…セリアの七不思議」
「私は聞いている限りですけれど、物凄く愛情深い家庭で育ったのだと思えましたわね。先ほど言っていたのも何となくわかりますもの」
「諺が分かるんですか?」
「何となくですわ?最後のは、違うものを追いかけてもどちらも得られず終わる。という意味ですわね?」
「わぁ…じゃ、じゃあ石の上にも三年とかはわかりますか…!」
「い、石の…?ん、ん-…耐える…とかですの?」
「大体合ってます!」
「なーんでそんな言葉程度ので嬉しがってんのよ…そういうとこが…――」
「まぁ身の上話は割としてこんかったからなぁ。うちもちょっとそのことわざ?ってのは気になるし、なんやったらそれぞれに合いそうなのを授ける形で選んでみてーや♪」
「え、えぇ…?諺を授けるですか…?」
私は唐突にルイネさんに言われたのもあり唸るようにして色々と考える。
「…あ、ミィさんは花より団子。風流や見た目よりも、実利や実を取るって意味です」
「…セリアのご飯なら取る。」
ルイネさんは「そのまんまやないかいっ」と言いながらミィさんいデコピンをする。
「んー…じゃあ、ルーテリアさんは、点滴石を穿つ…ですかね?意味は小さな水滴でも落ち続ければ、固い石に穴を空ける、努力の継続が大切という教えです。」
「…ま、まぁ…悪い気はしませんんわね?」
「ルーテリア、今照れた?」
ルーテリアさんがニコっと返すとルイネさんはぶるっとしながら「なんでもない!」と目を逸らす。
「あ、ほんでほんで、うちは?」
「ルイネさんは泣いて暮らすも一生、笑って暮らすも一生ですかね? 同じ一生なら、くよくよせずに笑顔で楽しんで暮らす方が得であるって雰囲気です」
「めっちゃ気に入ったそれ!てかうちやん!うち諺におったわ!」
「…能天気ともいう」
そう言った瞬間ルイネさんがミィさんの頭を「誰が能天気や自由人!」と言いながら拳でぐりぐりとして「あ”~…暴力反対ぃ~…」と何とも言えない表情でミィさんが抗議する。
「……私は。」
そう言うクローディアさんの方を向いて少し考える。
「まだまだ私はクローディアさんの事はわかりませんが…直観で言うとなればそうですね…」
少し時間をかけてゆっくりと考えてから諺を紡ぎ出す。
「疑心暗鬼を生ず、ですかね。疑うと何でもない暗闇にまで恐ろしい鬼が見えてしまう、怯えの連鎖を出してしまう意味です」
「――疑心暗鬼を生ず…。」
「あ、え、えっと…あの、セリアさん…私は…?」
エルマさんが小さい声で言いながら少し離れた所から近寄ってくる。
「エルマさんは…。平身低頭ですかね。必要以上にへりくだってしまっている様子をさしますね」
「うぐっ…は、はい…すみません…その、ごめんなさい…」
「はぁ…悪い癖ですわね。まぁ、現代的には仕方のない事ですけれど」
心底呆れた様子でルーテリアさんが言うと口元を湯舟に付けてぶくぶくとなってしまうエルマさんを苦笑しながら撫でる。
「まぁ、色々とそれぞれあるってこっちゃな。てかセリア、思ってたよりもめっちゃうちらの事見てるってなったんやけど♪」
「あはは…、お師匠様に”雰囲気を感じ取れるように共感を強く持て”って言われてたので?」
「めっちゃ詩人みたいな言い回しやな?」
「ある意味詩人かもしれないですね?俳句とか短歌とか歌ってたので」
「「「…?」」」
皆さんが首を傾げると、すぐに察する。
「あ、えっと…短いを並べた歌の事で、5・7・5での俳句、そこに7・7を付け足した短歌をよく言ってたんです」
「ミィ、そういうの知ってる?」
「…文献的には知らない」
「ミィさんはどちらかと言えば動物など中心ですものね。とはいえ、私も初めての単語ですわ?」
「なら、一緒にお風呂上りにでも考えてみましょうか!」
「わぁ…面白そうです…!」
「くだらない…。たかが読むだけでしょ」
「意外とハマるかもしれませんよ?私もやってみて難しいのを実感したので」
「じゃあ実際にやってみなさいよここで」
「ん-…でしたら…」
私はお風呂場の風景、皆さんの表情、そして私自身が思う事を頭の中で紡いでいく。
違い華 色ある思ひは それぞれど 日々を歩むは 小川の畔――。




