第52話 「順応性」
「じゃあ早速始めようか」
クラウスはそう言って合図を送ると、ローレファルスは頷いてから改良されたフローティングボードに乗る。
「乗るとボードにある魔力石を媒体として浮く仕組みだ。これをご自慢の能力の制御で手懐けてくださいっす」
「と言ってもどれほど出力されるかわからにんだが…!」
両足が乗るといきなり駆動し、浮き上がる。
「なっ…。変な感覚だな…!」
「おー…流石。自分乗った一発目の時に顔から落ちたのに」
「大まかな説明をしろクラウス…」
そう言いつつも少しよろけながらも次第に安定していく。
「魔力誘導を意識する感じっすね。ほら、うちらも魔法使う時にやってるアレっす」
「…ふむ。確かにそうなると…っ。出力を間違えるとぶっ飛ぶな。最大時速はどれくらいだ?」
「ざっと60km。構造的にも馬使うより安価なんでやり方次第では重宝するかなと?」
「最大速度を出そうとするのが出そうだな」
「そこも織り込み済みっすよ。ちゃんとリミッターをかけて20kmまでしか出ないようにするんで?」
「まぁ…そ、そうか。一応聞くがコレは?」
「勿論リミッター外れてます」
ジト目でクラウスを見ながら「おい」と言いつつ空中で静止しながら。
「まぁまぁまぁ、爆発はしなくなったんで?それに調整中って言ってますし?」
「たくっ。調子のいい奴だ全く」
そう言いながらクラウスの読み上げる項目の動きを持前の制御能力でこなしていく。
「すごいっすねぇ。どれも5分くらいやったらものにするなんて」
「クラウスはどれくらいかかったんだ?」
「15分っす」
「そのたびに落ちたりしてたのか?」
「えぇ勿論!」
サムズアップをするクラウスを見て頭を抱える。
――翌日、クラウスは最終調整した、名付けて魔導滑走板をお披露目する授業当日。
「ということで、今回は試作品に乗ってもらう」
私は初めて見る十機の板状の魔導滑走板と紹介されたそれを見る。
勿論、他の同級生もそれを見て口々に色々と呟いたりしていた。
「なんだこれ」
「危なくない?」
「空飛ぶ板?風精の滑走板みたいなのか?」
その言葉が出るとクラウス先生は「ふっふっふっ」と少し不敵に笑う。
「あれは風精霊にお願いする形だ。対するこっちは魔法石で関係なくできる。まぁそのぶん制御は乗り手依存になったので、普通に最初は乗れないけどな?」
それを聞いてゼクスさんが手を上げるとクラウス先生は指名する。
「質問失礼します。練習要求時間は平均的にどれほどを?」
「まぁ2~30分って所かな。ちなみに指標としてはローレファルス先生で落ちずに5分だった」
「ローレファルス先生で5分…?」
「S級で5分って…Dの俺だと何時間かかるんだよ…」
「Cだと40分くらいかなぁ…」
そんな事を言う中、私の横でエルマさんが小刻みにぷるぷると震えていた。
「わ、私…今日中に乗れるでしょう…か」
「たぶん大丈夫ですよ。能力テストの時みたいなバランスを鍛えるような感じだと思うので」
「バランスを鍛える…です…か」
そう話しているとクラウス先生はパンっと手を叩く。
「じゃあまずは挙手性だ。これに関しては全員初見だからな、ランクで先陣切るより情報集めたいだろう?」
そう言うと何人かが挙手して乗りたいという中、私も「はいっ!」手を上げてみる。
すると数人がパッと私を見て驚いた表情をしつつもヒソヒソと言っているように思えたが、私は楽しそうという一点だけで挙手をしていた。
「ひーふーみー…おっ、丁度十人だな?じゃあ前に出てくれ。」
指名され、私はエルマさんに「行ってきますね!」と小さく言ってからキナコに「ちょっとだけエルマさんとお留守番しててくださいね」と一声かけ、エルマさんに預けてから前に行く。
キナコはちょっと嫌がりつつも仕方ない。という雰囲気で肩を落とす。
「じゃ、今回のコイツはめっちゃ暴れ馬ってのも兼ねて、これを支給する」
そう言ってランク戦でも使っていた生命結界石を配っていく。
「万が一顔面から地面に激突してもそれが守ってくれるようにしてあるから頑張ってみてくれ」
私は初めて貰う生命結界石を手に持ちつつぎゅっと握り込む。
「ちなみに、両足を置くと強制的に駆動するから、準備が出来たらやってみろ」
それを聞いた瞬間飛び乗るような風にBランクのギャレットが両足を置いた瞬間。
グンッっといきなり浮いたのもあり「わっあ!?ぐあっ!?」とバランスを一瞬で崩して落ちる。
それを見てかゼクスは少し身長に乗ると駆動して浮き始めるとバランスが上手く行かずによろけてロープの上のように足元が定まらなくなる。
「なっ…、ぐっ…!いう事を…聞け…ッ!」
そんな様子を見つつ私も深呼吸をしてからそっとボード上の靴のようなマークの場所に片足だけかけ、息を整える。
「ふぅ…――よしっ!」
できるだけ優しく乗せるようにするとぐっと浮遊感が少し広がる。
「わった…っと…!」
変な声がちょっと出そうになりつつもゆらゆらと揺れる湖の上の一人用の船のような感覚とロープの上のような感覚を混ぜた不思議な雰囲気を連想しつつも、空中に立つイメージを膨らませる。
「~……あ、ちょっとわかって来たかも…?」
1分もしないうちに自分の中で今まで培ってきた経験を基にバランスを整えていく。
私がゆらゆらとしたり、ピタッと止まったりとしてみると訓練区域の空間が静寂に包まれる。
「「「「………?」」」」
その光景を見て口笛がクラウス先生の方向から聞こえたので、船で旋回するような感覚でゆっくりと回ってみてみる。
「マジか。そんな簡単に乗れるのか…♪」
その様子はまるで子供が楽しんでいるような顔を向けてきているような無邪気な表情だった。
「あ、はい。小型の船とか、ロープの上とかでの感覚に近かったので…?」
「船とロープ…なるほど。面白い観点過ぎないか?というか旋回も教えようと思う前に出来てるしな!」
私はクラウス先生の無邪気に寄ってくる様子に押されつつ若干スーッと横移動で後ずさりしつつ苦笑する。
「Gランクが秒で乗ったぞ…。」
「Sで5分って言ってたよな…?」
「現にAランクのゼクスが苦戦してるのに…」
そんな声を漏らしている中、エルマは割と自由に乗っているセリアを見て空いた口が塞がらなかった。
「…あんな簡単に乗ってる…。キナコちゃんに…頼んでる様子もなかったですし…というかここ居ますし…」
そんなキナコちゃんはすごいすごいと興奮するように尻尾を揺らして興味津々に手のひらの上でセリアさんを見ていた。
結局、15分程度やっても満足に乗れたのはセリア一人。ゼクスは乗れはしたもののまだ上手く制御しきれないのか、低速での動きをクラウスの助言を受けて行っていた。
「ふぅっ、楽しかったです♪ キナコ、ただいまです」
私はキナコをエルマさんから譲ってもらい、頭を撫でるとすりすりとする。
「よく乗れましたね、セリアさん…?」
「たまたまですよ。よく似た経験があったので出来ただけです」
「な、なるほど…」
その後も何人かやるも、やはり数人が乗れる程度で他は転倒したりそもそもバランスを崩したりとしていた。
中でも授業中乗れたのは小さい事を得意とするルーテリア、空中で立体戦闘が出来るルイネ、ロジックで考えるギルフォードなど、数人程度だった。




