第48話 「自身の意思で」
結局、自首しようと行った物の、逃げてきてしまった。
「はぁ…」
溜息が零れる中、手摺に体を預けて夕焼けに色づく空を仰ぐ。
「なんでこんなになってるの私…」
そんな事を一人ごちると、夕焼け空に風と共に消えていく。
自首するだけ。私がした。と言えば終わった事。
でもセリアを目にして、あんなふうに接された途端、踏み止まってしまった。
なんとも思っていない。一度は不正を疑った相手だ。
なのに、馬鹿なのかなんなのか、ランクとか身分とか関係なく招いて、カレーまで作って、食べさせて…。
「…馬鹿みたい」
その言葉の対象が誰の事を言っているかは明白だった。
以前なら切り捨てる相手。Gランクなんてその程度の存在。
でも、あのセリアだけは。Gランクなのに、Gとは全く思えない…いや、そんな枠組みにはとうの昔に居なかったのかもしれない。
「…」
マテリアルプレートを開き、メッセージを教師達への相談所という所に送るためにタブを開いていく。
「…アイツのせいでめちゃくちゃ」
そんな事を呟きながら…送信を押す。
正常に送信されました。
その一文が出た時、何故か肩に妙な重みが広がった。
「学園開始早々…終わり、か。」
そう呟いてポケットにプレートを入れ、去る準備をしに自身の寮へと向かって歩いて行く。
『――錬金魔導室の件について、伝えたいことがあります』
――時間を空け、放課後くらいの時間にもう一度職員室に向かう。
(ふぅ。自白を一回すれば終わり。アイツ以外を無暗に巻き込んだんだから。)
コンコンッ。
「入れ」
「お邪魔します。」
職員準備室に入ると、そこにはローレファルスが座って紅茶を飲んでいつつも、対面の席に座るように促され、その場所に腰掛ける。。
「それで、相談に書かれいてた”伝えたい事がある”というのは?」
「はい…実は。錬金魔導室の件で――」
言おうとした時。
コンコンッ。
「ん?すまない。誰だ?」
「あ、はい!セリアです!皆さん見つかったので連れてきました!」
(…?!)
一瞬頭が真っ白になった。
わざわざ時間を変えて、わざわざいない事を注意して放課後に来たのに、なんでと。
「…ふむ。入ってきてもらっても良いか?クローディア」
「……は、はい」
私には否定できるわけがなかった。
「入れ」
中に入ってくるセリアといつもの4人。
「あれ、クローディアさんも居たんですね?お邪魔、でしたか…?」
「…い、いや」
「んん”。それで、二人の感想から先に処理しようか」
ローレファルスがそう言うと、ルーテリアとルイネが頷く。
「うちはなんか知らんけど前より練りやすくはなったかな?普段よりこうスッキリした感じで魔法打ててた感じです」
「私は以前よりも落ち着いて先読みができるようになりましたわね。」
それを聞いてローレファルスが足を組みつつ顎に手を当てる。
「精度が上がったのか、それともセリアの私生活がそうしたのか…。いや、制御能力が異常値になる前触れか…?」
そんな事をぶつぶつと言いつつ少ししてから頷く。
「そう言う事なら実験は続行させよう。食材も後で持っていく」
「良いんですか…!ありがとうございます!」
綺麗なお辞儀をして喜ぶセリアを見ていると、何か自分自身がこう…。
(なんでこんな気分に…)
そんな事を思っているとローレファルスが私に振り替える。
「…どうせなら同級生である彼女らにも聞いてもらうか?クローディア」
「ッ…」
(言えば、終わる…いや、どうせ退学なんだから、聞かれても何にも影響はない…か)
溜息をはぁ…と大きく出し、頷く。
(……どうせもう、逃げ切れるとは思っていない。ここで言わなければ、私はまた同じことを繰り返す。…それこそ、Gランク…犯罪者予備軍じゃない。)
そう考えているとローレファルスが座り直して聞く体制になる。
「それで連絡にもあったが、錬金魔導室の件について、何かあるのか?」
「……私が」
視線が気になる。5人の視線が。
「あの――」
コイツたちは何も悪くない。悪いのは私…それだけ、それだけなのに。
「…その……――?」
言い淀んでいると何故か暖かい感触が頭に広がる。
「何か言いたい時は目を閉じて言うと良いんですよ」
セリアの声が後ろから聞こえる。
「セリア…部外者だろう、一応口を慎んでくれると嬉しいんだが」
ローレファルスがそう言うと「だって、すごく辛そうな感情に思えたので…つい」と言いつつまだ頭を優しくセリアの手は撫でている。
(…目を…閉じて…)
何故かスッとその言葉が染みるように入り、私はすっと目を閉じる。
「……私が、きっかけを作りました。」
「きっかけを作った…?」
「…はい。」
「具体的に頼めるか、クローディア」
「…はい。」
私は促されるままに事の顛末を伝えた。
セリアに対して痛い目を見ればいいと思っていた。だから2回目に席が変わる事がないと踏んでその日の前に仕込んだ事も。
なのに…。
(――なんで、まだ撫で続けられているの)
理解が及ばなかった。
本来、人なら自身を陥れようとした相手に対してこうして優しく接し続ける事など絶対ない。ましてや怪我を負わせようとしてきた相手をこんな風に、変わらずにずっと撫で続ける奴なんて、親でさえもそんな事は無かった。
そうしているセリアを見て、ローレファルスが言う
「…セリア、お前は対応は何も変わらないのか?」
「最初なら変わってたかもしれません。でも、私も気が付いていないわけじゃないんです」
「ふむ…?」
「皆さんが言うランク差別。実は色々と聞こえてましたから」
(ッ…)
「でも、それがお師匠様が言っていた。”外を見て来い”という事なら…これが現状の世界なんですよね」
「…あの人物の言葉と改めてわかると…耳が痛いな」
(え、既に会った事があるの…?)
そんな困惑を他所にローレファルスが続ける。
「なら一つ。我々の価値観だけでは”枠組みにはめてる”事になるからな」
「…?そ、そうですね…。私なら一度だけチャンスをあげます」
「チャンス…?」
「はい。嫉妬や意地悪、嫌悪などからやっぱり虐めというのはありますから。なら次からはしないように、と一度だけ償える機会をあげた方が、人は成長すると思うんです」
「ふむ。一理あるが…それも”お師匠の”か?」
「あはは…実は、はい。」
苦笑いをしながら言っているであろうセリアの声を聴きつつ、私は少し俯いていた。
「人は過ちを犯す生き物。それを償い、どう生かすかによって、価値が定義される。と、よく言っていました。なので、私は一度だけ許します」
セリアは芯を持ったように続けて言う。
「――だから、これで終わりという意味じゃありません」
「…だそうだ。クローディア」
「――はい。」
ローレファルスがそう言いつつ資料を書き込み、メモを閉じる。
「なら、それを少し取り入れようと思う。ただしここの学園の規定でな」
「わかりました――。」
「ランクの一段階降格。DからFに。それとガーバントのいる最中、教室で自白する事。その後はそうだな…」
(まぁ当然よね…。蔑視対象のFランク…いや、軽蔑対象…か。)
目線を上げると少し考えるようにして後ろにいるであろう数名の顔を見る。
「セリア達と一緒に研究棟で過ごせ」
「はい…て、え…はァ?!」
あまりの突拍子もない言葉につい素の反応で返してしまった。




