第35話 「静かに集う視線」
――その頃。
禁書の保管されている一室。権限無しで立ち入れない結界の張られた場所にて、本を見ている老いた者がいた。
「…」
読み進めていると、一冊古びたとある本の1ページで手が止まる。
「…”《《神子》》が神獣を引き連れ統べるは破壊か、再生か”…か。」
そう言うとパタンッと閉じる。
「……豊樹の精霊栗鼠。稀に神樹の種を授ける精霊……か。」
そう呟き、その場を後に歩いていく。
「――さてはて、伝記の通りか。己が道か…。君は伝承をなぞるのか、それとも書き換えるのか。」
――――翌日、ガーバントによるランク戦の開始が言い渡された。
「今日からランク戦参加だ。あくまでも申請を通してからの決闘だ。くれぐれも違反はするなよ」
そう冒頭から言われ、HRが終わり、一限目が終わる頃、周りはざわざわとしていた。
そんな中、キナコは私の手に撫でられて気持ちよさそうに溶けたみたいにふにゃっとなっていた。
「一緒に、色々見ないとですね?」
そう語りかけながらしていると、エルマさんが来る。
「あ、あのセリアさん。その、次の教室、一緒に行きませんか…?」
「勿論良いですよエルマさん」
私はそう言ってキナコを抱えて肩に乗せつつ授業の用意をして席を立つ。
それと同時くらいにミィさんが来る。
「…一緒に行く」
「勿論。あれ、二人は…?」
「…用事。早速申し込まれてた」
「もうそんなに人気なんですね…二人ともかっこいいですもんね」
(セリアさん、たぶんカッコいいからじゃ愛と思いますがぁ…)
そんな事を思っているエルマも引き連れ、次の授業をする闘技場施設へと向かう。
「えーと…。闘技場ではランクでの細かい所とかを教えてくれるみたいですね…?」
エルマさんが説明してくれる中、私は興味深々で聞いていく。
「確かに、トイレに行きたくなったりとかしたら困りますもんね…」
「…そこじゃない。」
「え、困りませんか…?」
「困りますけどたぶんそう言う事じゃないです…」
苦笑しながら言うエルマさんを見つつ首を傾げる。
程なくして、闘技場へ繋がる通路へと足を踏み入れ、施設内へと行こうとする時。
「わぁ…お姫様みたい」
「え?どこを見てるんです…?」
「え?あの部屋の窓に見える…」
「…え。全く見えないんですが…」
「…視力の化け物」
「私は化け物じゃないですよミィさん…!?」
私は身振り手振りで説明する。
「えーと、ルーテリアさんみたいに髪の毛が巻かれたようにウェーブがかかってて、白金のような色の刺繍を付けてて…目が赤い人ですね?」
「白金…?え、SSランクの方…?!」
「…なんでそこまで裸眼で見えるの。」
「村で遠くの山や川を見ることが多かったので、昔から目だけは良いんです」
「…そこまで見えるの、ちょっと羨ましい」
「ふふっ。いつも暗い場所で本を読まないなら、目が良くなるかもしれませんよ?」
「…わかった。諦める」
「断念が速い!?」
エルマさんがそんなツッコミを入れながらも私達は闘技場内へと歩いていく。
程なくして職員さん達や、ルーテリアさん、ルイネさんなども続々と来てから「じゃあ点呼を取りますね」と確認作業をしてから説明を受ける。
「では、本日はランク戦についての話になりますが、担任さん方で軽い説明があったかと思いますが、改めて詳しくさせて頂きますね」
そう言って闘技場の施設内の案内、受付場所や受付時間などを細かに教えてもらえる。
「受付時間は朝9時から…夕方18時ですか…。夜だと眠たくなりますもんね」
「あー…うん。そう言う事にしておきましょう」
悟ったような顔をしながらエルマさんが私を見る。
「…観戦は開始される5分前までに申請。…込みそう。」
「あはは…20分前とかの方が込まずに座れるかもしれませんね?」
「…それより、申請登録が出来るかが心配」
「ミィさん、私そんなに使えないと思ってます…?」
「…うん」
「その通りです…あとで教えてください。」
「…素直。よろしい」
そう言いながら肩をポンポンとされていると、ルイネさんが合流する。
「いやー申請めっちゃ多いんやけど何なんほんま…」
「…申し込む分はタダ。そりゃくる」
「ふふ、人気者ですね」
「うちも来るんはええんやけど通知見たら10件って多すぎやろ!?」
「わぁ…すごい…。でも、私も一件ありましたね…」
「ミィとセリアは来たんか?」
「…無い」
「同じく、無いですね…?」
「この差よ…。偏ってんなぁほんま…」
「…最初はそんなもの。ルイネはしやすい」
「なんやその言い方やと軽い女みたいで嫌やねんけど…」
「ん~…あ、お手頃とか」
「もっと酷い事言ってるでセリア!?」
「あ、ごめんなさい!?」
軽く笑いが出つつもふとルイネさんが周りを見る。
「そうゆうたらルーテリアどこ行ったん?」
「…見てない。点呼の時はいた」
「なら位置的にあそこですかね…?」
「都合よくいますかね…」
「まぁ行くだけ行ってみよか」
そう言いながら私達は闘技場施設の飲み物が売られている場所へと向かう。
「あ、いたいた。ルーテリアさーん」
私が歩いていく。
「…ほんまにおったわ。他もなんかA以上おるけど…。ってセリア、ちょい待ちぃ?!」
その声に気が付いてルーテリアさんが振り向く。
「あら、待たせていたようですわね?」
「探しましたよ。一緒に回りませんか?」
「えぇ、是非。それでは皆様方、ごきげんよう」
そう言ってスカートを少しつまんで優雅にお辞儀をして歩いてくる。
「ふふっ、ルーテリアさんのそれ、凄く綺麗ですね」
「カーテシーというものですわ?」
そう言いながら一緒に向かう時、キナコがひょこっと出てきて頭に乗る。
そのキナコはAランク数名から見られる敵意を感じてか軽く威嚇するような「ぴィッ」という声を漏らす。
私はそんな事も知らずに「キナコ、お腹が空きましたか?」と言いつつ皆で歩いていく。
ゼクス、ギルフォードはその様子を見送った。
「…あれをどう思う。」
眼鏡をかけ直しつつギルフォードはゼクスに問う。
「好ましくはない…が、そう言うという事は教師に釘を刺されたか」
ふっとゼクスが笑うとギルフォードは溜息を一つ。
「そういうお前もあのセリアという存在は謎だろうに」
「皆目見当もつかん。が、イリス教官の支持は受けていた。無視もできまい」
「…今ニナに調べさせている。ゼクスの方も何かあれば頼みたい」
「良いだろう。こちらとしても不確定要素は潰しておきたい。変わりに情報共有を頼むぞ。ギルフォード」




