第31話 「価値観という枷」
昼休みが終わり、教室へ戻る足取りは重かった。
クローディアは食事を何時も通り一人で取っていた。
(…言えるわけないじゃない。)
昨日していたのは、本当は不法侵入して増幅陣の設置。当然、言えるはずがない。
勿論、本当の事が知られてすぐに捕まるかもしれないというプレッシャーもあった……が。
それよりも何故かあの見ず知らずの、しかもDの男子生徒を助けたのかもわからなければ、Bランクにまで自分の意見…かどうかはわからないが、言っていた。
(ほんと何なの…アイツ。)
そんな事を思いながら5時限目が終わった頃、通知が入る。
移動教室。しかし20分程講師が遅れるため、その間は自習とする。
その一文を見てまず最初に図書室に行こうと考えた。
人が少ない場所で、誰とも話したくなかった。今だけは誰の顔も見たくない。
この短時間で少しだけでも頭を冷やせる場所としてはそこしかなかった。
――――。
「…ふぅ」
ほぼ人がいない場所、ゆっくりと深呼吸をすると、頭が冷えるような雰囲気があった。
ふと見ると、見知った顔があった。
「ここが図書室ですかぁ…」
そう言いながら入ってくるのはセリア・レイン。とミィ・ラシール。
(は、なんで居るの…?!)
セリアがキョロキョロとしていると、ミィが手を引いて行く。
「…これ、たぶんセリアにわかりやすい」
そう言って一冊の本を抜いて渡す。
「おとぎ話ですか…。ふふっ、こういう方が私は好きですね」
そう言いつつパラっと開く。
「…精霊…ですか…。」
「…おとぎ話。実在するかは不明。」
「あったらすごく平和そうですね…?精霊は争いたくない、とここに書いている通り」
「…ある意味、現代に対しての皮肉。」
そう言いつつ、机に座って童話と呼ばれる絵本を見るセリア。
私は何を思ったのか、ミィが離れる瞬間を見定めて立ち上がり、セリアの方へ行く。
「…何読んでるの、あんた」
「あ、クローディアさん。ミィさんにおすすめしてもらった童話です」
そう言いながら本のページをめくる。
それは昔からある童話。精霊の姫君という自然を愛したとされる子供向けの絵本だ。
【精霊達は争いを好まず、調和を慈しみ、大切にした。】
「…すごく良い物語だなって。絵も綺麗で」
そう言いながらその文章やイラストを見ながらセリアはそっと指でなぞる。
「…現実にそんな奴はいない。」
「かもしれませんね。」
そう言いながらセリアは指で本をなぞり、次のページをめくる。
「でも、見た事もないからこそ、存在しているかもしれない。」
「…根拠は?」
「ありません。でも、こういう精霊達が居たら…仲良くなれそうじゃないですか?」
微笑んで見てくるセリア。その笑顔は今の自分にとっては物凄く釘を打たれるような雰囲気だった。
「…夢見すぎでしょ」
「夢はいくらでも見て良いんですよ。それが好きになりますから」
「そう言って挫折する奴もいるのに?」
「はい。だから次の夢を探す。そうして生きる事こそが人なのだと、お師匠様からも教えられてましたから。私はそれを大切にしているだけです。」
「…っ。……綺麗ごとね。」
そう言ってクローディアは歩いていく姿を見送ると丁度ミィさんが帰ってくる。
「…セリア、時間」
「あっ、もうそんな経ったんですか…!?」
私は慌てて本を元あった場所に返してミィさんと一緒に教室に戻る。
―――場所は変わり教室。ガーバント先生が教卓の前に来て資料を出す。
「自習時間が終わってすぐだが、今日はランク戦について説明する。」
そう言うとプリントを渡していく。
「お前たちもいずれする事になるランク戦だが、原則入学して2週間はできない。場所の把握や知識の差が明確だからだ」
「そしてランク戦に関しての注意事項だが、先ほど渡したプリントを見ながら覚えるように。」
そういうガーバント先生の言う通り見るとびっしりと書かれた内容は色々とランク戦の細かい事が書かれている。
「ランク戦は単なる勝負ではない。お前たちの学園生活に関わる制度だ」
「勝者は上位施設の利用権を得ることもある」
「敗者は逆に失うものもある。所謂ランク降格だ。」
その言葉を聞くと、皆揃ってざわざとしていく。
「とは言っても厳密に精査をしてからの結果になるからすぐに落ちるわけじゃない」
「プリントにもある通り、回数が多い場合での降格だ。一二度三度で落ちる事はない」
「次に、安全面についてだ。2番を見ろ」
「生命結界石を最初に装着する。これは一律と考えてもらっていいが、もちろん防御で守る事もできる。」
「更に戦闘の際に致死的な攻撃を受けてもコイツが砕けて自動的に回避する仕組みになっている。そのため、事故は未然に防がれる。」
全員の反応を見てからガーバント先生は更に続ける。
「次に3番。下剋上についてだ。一番手っ取り早くランクが上がる事だ」
「同ランクはいつでも可能。1階級上、DからCへの場合は実績、勝利数が一定以上ならば可能。2階級以上は相手の同意があれば可能だが、原則禁止だ。無茶はするな」
「また、ランク戦の勝敗に関わらず、一度した場合は一ヵ月はランク戦はできないものとする。」
「そして、一番覚えておいてほしい事が最後の項目だ」
私はその言葉で最後の項目のあるプリントを見る。
「不正行為についてだ。実力主義であるが故、一時的に身体を暴走、底上げする”魔導薬”などの使用は禁止だ。発覚した場合は罰則として強制降格、最悪の場合退学を宣言させてもらう」
「また、殺傷意図の過剰発露。これは言わずもがなだが、八百長に対しては最悪の場合牢獄行きになるケースもある。くれぐれもしないように」
(こうやってみると、いっぱいありますね…。決まり事というのは…)
見ていると懐からキナコが出てきて顔をのぞかせる。
「…?」
私はその様子を見て優しく撫でながら一緒にプリントを見れるよに少し持ち上げる。
「ぴっ」と小さく鳴いて顎下を撫でるように首の下を伸ばす。
私は少し微笑みつつカリカリと顎下を撫でてあげると、少しするとまた木の実をくれる。
「四つ目ですね。ありがとうございます、キナコ」
小さく言って、私はキナコがくれた木の実専用の小さい巾着の中に入れる。
部屋で布地が余ったので、軽く裁縫をして作ったお手製の宝箱だ。
「以上を持って説明を終える。この後は放課後だから、質問や相談については各自来るように」
――そう言って六時限目が終わり、放課後のチャイムが鳴った。




