第29話 「五人の日常」
エルマはぎこちなく椅子へ腰掛ける。
誰かと向かい合って食事をする。それだけのことが、こんなにも落ち着かないとは思わなかった。
「…あのー、本当に私も一緒に食べて良いのでしょうか…」
そう言うエルマさんを見つつも私達は並んで食事をしていた。
「みんなで食べた方が美味しいですから?」
「え、えぇ…良いんですかそれで…」
「…ランクが色々と言われましたけど…やっぱり食べるなら一緒の方が楽しいですから」
「うちらも気にせんしな。他からはめっちゃ言われるけど、ローレファルス先生から一緒におれって言われてるっていう大義名分もあることやし」
「…ローレファルス先生から?」
「えぇ。1週間、セリアさんと同じ生活をしてほしいと言われていますの」
「…セリアの制御能力が研究対象」
「制御能力が…ですか…。」
「私は変ったことはしていないんですけれどね…」
その言葉を言うとルイネさんが私の肩をポンとする。
「セリア?セリアは普通でもうちらの私生活、結構感覚変わって来とるからな…?」
「へ…?」
もぐもぐと食べるミィさんが私を見る。
「…んくっ。…実際、朝のお茶が無いと…困る。」
「同感ですわね。私も寝付きが以前より良くなっていますのよ」
「そ、そうなんですか…!?」
「いや気付いとらんかったんかいっ!」
その様子を見ながらぼそっと「…良いなぁ…」とエルマさがん言う。
「…たぶん、言えば許可くれる。被験者は多い方が…良い」
その言葉にエルマさんは「えっ、えぇ…?」と困惑しつつも少し期待した様子を見せる。
「被験者て…いやまぁ意味的にはそうやけど言い方…!」
「ミィさんは学者気質ですもの。仕方ありませんわ」
「なら、後でローレファルス先生に言いに行ってみましょうか。」
「まぁうちらで勝手には流石にアカンしな。打診するだけやったらタダやし」
「人数が増えたら、お泊りしてるみたいで楽しいですもんね?」
私がそんな事を言うとみんながそれぞれクスクスと笑う。
「…セリアらしい。楽」
「まぁランクとかでヒリつくよりは全然楽やな確かに」
エルマさんはそんな光景を見つつ「ありがとうございます」と言いつつ食事をゆっくりと再会する。
そんな様子を遠くの席から見ているギルフォードは少し不満に思いながらも食事をしていた。
「…秩序たるもの、乱してはならない…が。あれはローレファルス講師の意向…」
(階級を曖昧にすれば、命令系統は乱れる。命令が乱れれば死人が出る。)
(だから上下は必要なのだ。)
そんな事を思いつつ、呟いて無理矢理納得させようとしていた。
ギルフォードの視線は自然と食堂中央へ向く。そこにはセリアというGからルーテリアというAまで。
本来なら交わるはずのない席で、誰もランクを気にせず笑っている。
(何故あのグループはあんなに格差があるのにあそこまで友人に接するようにできるのだ…。品位の欠如では……だが。)
そう、一度は注意をした身だが、二度目も見た時になっていたため行こうとしていた。
そんな時、ローレファルスに呼び止められて「あれは私の実験の一つだ」と釘を刺されてしまい、歯痒い状態でこうして見ているのだ。
――そんな彼を他所に、食事を終え私達は職員室の方へ向かい、ローレファルス先生の所へ打診に来ていた。
「――それで、一緒にしませんか?と誘ってみたのですが…ダメでしょうか?」
「ふむ…」
ローレファルス先生はミルクコーヒーを飲みつつ大盛りの焼きそばを食べている最中でした。
「いや、構わない。実際、記録は多いに越したことはないしね」
「…!ありがとうございます…!」
「あぁ。こちらからも寮の方には言っておこう。エルマ、君を”研究棟での同棲生活対象”に追加する」
「わ、わかりました…。それで、何を持って行けば…?」
「生活用品程度だ。普段使うそれら以外は”セリアの日課”というものを一緒にして、毎日記録ほしい」
「毎日記録…ですか…」
「具体的なものから感覚的なもの。何でもいい。現に、3人にもさせているが、意外と感性も相まってか、バラバラな部分もあることだしな」
その言葉を聞いてから改めて、私はエルマさんを見る。
「では、今日からよろしくお願いしますね、エルマさん」
「よ、よろしくお願いします…その、セリア…さん」
ランク制度上、他ランクがGランクにさん付けをするというのは本来無いが、この5人の中では”普通の日常”となりつつあった。
――それから程なくして、私達はエルマさんの荷物運びも含めて研究棟へ少し早めに行き、整理整頓をしてやっと5人での共同空間が出来上がった。
「ふぅ。こんな所ですね」
「すみません…あ、あの、Aランクのルーテリアさんにまで…」
「ここではそう言ったのは無しですわよ。セリアがそういうのを気にしていないんですもの。」
「…ん、ここだと、場違い。」
「なんやったっけ。郷に入っては郷に従え…とかやったっけ?セリアが言ってたの」
「はい。と言っても、私もまだまだ出来てませんが…」
苦笑しながら言うとクスッと反応が来る。
「…悪い間違いじゃ、ない…。心地いい」
「気にせず話せますものね。同感ですわ?」
「うちはこっちの方が性に合ってるしな?細かいの気にしてるとめっちゃ疲れんねん」
そんな様子を見ながら少しぽかんとするエルマさんを「どうしたんですか?」と見る。
「えっ、あ、いえ…その…差別とか一切してないんだ…って、ちょっと新鮮で」
「…学園内はそれが多い。面倒くさい。」
「私もこの前、Gの癖にって言われましたけど、力が無いのは事実ですし…守ってくれてるのかと思っていたのですが」
「ブレへんなぁ…」
「村でもありましたからね。子供に”俺の方が強いから姉ちゃんは見とけ!”って荷物運びしてくれてた事とか」
「…村ぐるみ。平和」
「ある意味、なるべくしてなったような感じですわね。セリアさんの場合は」
少ししてからひょこっとキナコが顔を出して首を傾げながら見たりしていく。
「可愛い」と言われながらもキナコも含めて談笑を楽しむ。
そうやって普段通りの会話を今日からはエルマさんも交えて。
そしていつもの日課が加わった。
セリアが郷土料理を再現した料理を提供し、皆で囲んで食べ、ゆっくりしてから今日は散歩を追加した。
「たまには花壇の道を歩くのも良いですね」
私達は花々が広がる場所に来ていた。
頭の上ではキナコが風を気持ちよさそうに座りながら感じている雰囲気がありつつ、皆でとぼとぼとゆっくり歩いて夕焼け空の下、安心感が広がるこの場所を楽しんでいた。
「勉強も程々で、めっちゃゆったりしてる感じするわぁ…」
「…眠たくなる。」
「ミィ、歩きながら目を瞑っては危ないですわよ」
(…本当に、不思議…。争いも無ければ、差別もない…セリアさん…いや、この皆が、それを望んでいるから…なんでしょうね…。)
そうやって軽い散歩を終え、《《セリアの言う禊》》、基いお風呂で数秒の各々の瞑想。上がってお茶をゆっくり飲んで、落ち着いてから寝る前に5分程度の瞑想。
「おやすみなさい」
ノートをそれぞれ記述し、就寝する。
――職員室。
「ふふっ…面白いなぁ…、あのセリアという生徒は。」
イリスがそんな事を言うと、ガーバントは飲んでいたコーヒーを置く。
「急にどうした…」
「いえ、日常生活を基盤に戦術を考えれると思いまして。それよりも、《《将棋》》というのを言っていたのですが、知っていますかぁ?」
「いや、知らないが…よく幻影魔導遊戯盤をしているのに、なぜそれが話題に?」
「聞いてくださいよガーバントさん、あのセリアさんが村でしていたという娯楽遊戯の一つだと私は仮定した時に戦術型の―――」
「あぁいいからいいから!要するに内容が知りたいんだろう!?」
ちょっと熱弁しようとするイリスをガーバントは静止しつつ溜息をつく。
「一応クラウスも興味を持ってる感じだったから、資料さえ渡せばすぐ作れる」
「なら早速研究棟に!」
「今ローレファルスの実験中だ。我慢しろ」
「うぐっ……はぁい、わかりましたよぉ…」
少し不服そうなイリスを横目に空になったカップを置く。
(まさか、Gランクがここまで影響を出すとはな…世の中わからんものだ。)
(力ではない。それでも、人を変えていく。……あの娘は、一体何なんだろうな。)




