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朝は神社で掃除をしていた最弱の巫女見習い、今日から魔法学園に通います。  作者: 九尾


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第27話 「戦術学」

「――では、戦術学を担当します、イリス・ヴァニエールです。」


糸目で艶やかな黒髪のボブカットが特徴の余裕のある大人の女性と言ったイリス先生の下、戦術学の授業が始まる。


「今回は初回という事で、基礎学である立ち回りについてのお話と実践をして頂きます」


「とはいえ、立ち位置というのは組み分けによって毎回変わります。ランクが上位だからと言ってごり押しする方は、ただの宝の持ち腐れです」


ニコニコしながらそう言うと、少しピリッとした雰囲気が生徒に広がる。


「例えば、Aランクが一人。Fランクが四人。」


「さて、どちらが勝つでしょう?」


少ししてからすぐ、教室の中から声が上がり始める。


「Aランクです。」


「Aですね。」


イリスは微笑んだまま頷く。


「ええ。正面から戦えば。」


――――。

「皆さん、とても素直ですね。」


「安心しました。」


「では──そのAランクの方に質問です。」


その指名されたAランクの中のルーテリアさんだけは少し考える様子を見せていた。


「あなたが戦場で四方を囲まれました。」


「敵は弱いので、一人ずつ倒していけばいいですね?」


対して他のAランクのほとんどは頷いていた。


「はい。」


「素晴らしい。」


笑顔のまま手を合わせて、言う…が。


「では。あなたの足元は足場が悪く。」


「敵は4人、四方を囲まれている。更には逃げに徹されたお陰で魔力も半分」


「おまけにそれぞれが巻き込まれないように一定距離を保ち続けている」


「さて。まだ勝てますか?」


誰も答えられない。


「私は強い人間を育てる気はありません。負けない人間を育てます。」


(…あ。確かに、私も将棋を覚えたら隣のおじいちゃんにも勝てましたもんね…?)


「皆さん。勝利とは敵を倒すことではありません。」


「相手に『負けた』と思わせた瞬間に決まります。」


「それと…ルーテリア・ラフテイルさん」


「なんでしょうか?」


「一人だけ首を傾げた様子でしたが、先ほどの回答ではなかった、という事でしょうか?」


「……えぇ。わたくしの家柄もありますけれど、交渉の時と照らし合わせていましたの」


「…確かに。魔力で測れない交渉の場であればそう言った情報戦が起きますね。よい着眼点をお持ちで何よりです」


「それともう一人、えーと…セリア・レインさんですね。あなたは何を思ってました?」


「え?私ですか?私は家事とか将棋とか…?」


糸目のまま口元だけが僅かに上がる。


「ふむ…?家事、ですか?」


「はい。」


「例えば煮込み料理って、一つの鍋だけ見てても失敗するんです。」


「火加減を見ながら、お肉を切って、お皿を並べて、時間も考えて……全部同時に見ないといけないので。」


「将棋も同じで、一つの駒だけ見ていると負けちゃいます。」


少しの静寂が訪れ、ふと言葉が出される。


「セリア・レインさん。あなた、戦術を勉強したことがありますか?」


「へ…?いえ、全く?ただゆっくり周りを見て考えなさいってよく村で言われてて…?」


「なるほど。でしたら安心しました。」


「あなたは戦術を知っているのではありません。」


「ただ、生活を丁寧に積み重ねた結果、自然と戦術的思考が身に付いただけです。」


(…ふふっ。今回の入学制は粒ぞろいのようですね。一部がこういった思考を持っているのならすぐ覚えるでしょう)


「──では、実際に試してみましょう。」


「ルールは簡単です。」


そう言いながら旗を数本取り出す。


「この旗を五分間守り切れば勝ち。」


「という事で、5人一組で班を作ってください。人数的にあふれる事はないと思いますしね。」


私はローレファルス先生にも言われていた通り、ルーテリアさん、ルイネさん、ミィさんが基本的に味方になる形で組んで残り一人。


「…あ、エルマさん、一緒にしあせんか?」


「え、良いんですか…?」


「はい、是非。その方が楽しいと思いますし?」


「…わ、わかりました」


これで5人になり、班を持つ事になる。


班分けは程なくして終わり、組み分けをランダムで作られ、作戦会議を10分言い渡された。


「初手はギルフォードさんの所ですわね。となれば堅実な事を主軸に動いてくる可能性もありますわね」


「頭固いとかメルフィス先生んとこでも言われてたしなぁ。召喚も象徴の亀やし」


私は少し考えて。


「あ、じゃあ、鏡をいっぱい作るというのはどうでしょうか?」


「…?…鏡?どんな風に。」


「はい。偽物をいっぱい作るんです。 これとは別に」


そう言いながら旗を持って皆に見せる。


「…確かにミィが土魔法もできるし可能ではあるな?」


「えっと私は…治癒をちょっとしかできないんですが…」


「治癒って解すとか馴染ませる…とかってできないんですか?」


「馴染ませるは…揉みほぐし(マッサージ)がありますが…」


「それを使って造形を手伝えば良いんじゃないでしょうか?」


「そうやって使った事ないですね…できるでしょうか…。」


その言葉にミィさんも賛同する。


「…じゃあ、土均し(クレイ)でやって泥濘マッドバインドを繋ぎで使うから…造形任せた。」


「えっ?!あ、はい…!」


「なんだか陶芸みたいで楽しいですね♪」


そうやって楽しむ私達を見ながら


「では、わたくし達は作っている間に戦略を組みましょうか。ルイネさん、陽動で組み込んでもよろしくって?」


「ええよ。その方がうちもやりやすいし」


了承を得てからそれぞれ役割分担していく。


そして、すぐに10分が過ぎ、集められ、ギルフォードさん達との模擬線が開始される。


──模擬戦場は校舎裏に設けられた演習場だった。


縦横三十メートルほどの平地に、ところどころ岩や切り株が残され、周囲は背丈ほどの木柵で囲われている。


中央付近には起伏が少なく、魔法で地形を変えることを前提として整備された土が広がっていた。


見上げれば晴れ渡る空、そして微かな風が草を揺らしている。


「ッ…小癪な。クリアリングで潰しながら行くぞ」


ギルフォードは堅実な事をしながら迷路に入っていく。


ギルフォード隊は迷路の中央付近。その頃、セリア達は土壁越しに位置をずらしながら迎撃態勢を整えていた。


ゆっくり入りつつ的確に場所を見て罠などを確認している最中、ミィの声が響く。


「…砂目潰し(サンドブラインド)。」


「ッ…!?目暗ましか…?!吹き飛ばせ!」


ギルフォードの指示の下、一人が魔法詠唱をする。


「吹き荒れろ…突風ガス…!」

鎌鼬レイザーウィンド!」


発動する前に壁がいきなり空き、ルイネさんが攻撃を入れて壁に対面の壁に入り込む。


「うぐっ!?」


詠唱が中断され、視界もクリアできずにうずくまる。。


「っ…!陽動か…!」


「俺の足なら行ける…!」


「追うな!」


すぐ一人が進むと開けた空間になる。


「旗があった…!……ん?」


男子生徒が言うと首を傾げる。確かに旗はあった。しかし、複数そこには鎮座しており、更には鏡張りのように複数の水鏡が浮かんでいた。


そこにギルフォード達も来る。


迷路を抜けた先には、小さく開けた空間があった。


風だけが静かに吹き抜けたその中央に――旗が並んでいた。


「これは…あの即興で旗を6本も作ったってのか…。」


「どれが本物だ…?」


ギルフォードが少し考えて言う。


「たぶん、ここに本物はない。手持ちに置いておくはずだ」


「…なら、水鏡を破壊しながら…?」


「それが懸命だろう。前から潰して候補を絞って行こう」


ギルフォードは壁ではなく足元を見た。罠はない。


次に視線を左へ流す。そこにも異常はない。


だからこそ、不気味だった。


「待て。」


ギルフォードが手を上げる。


「……これは時間稼ぎだ。」


全員が止まる。


「相手は旗を守れば勝ちだ。」


「つまりこちらが焦るほど向こうの勝率は上がる。」


「全員、一度戻れ。鏡は無視する。」


「鏡の配置だけ覚えろ。」


ギルフォードの指示の下、破壊をせずに周りを見て覚えながらそれぞれは歩いていく。


「残り3分」


イリスのアナウンスが無常にも流れる。


「…!いたぞ!」


見えたセリアに対してギルフォードが拘束魔法を詠唱する。


聖壁セイクリッドウォール!拘束させてもらう!」


「あっ…!?」


聖壁が形成されて動けなくなった瞬間、ミシッっとセリア?にヒビが入ると同時にギルフォードが叫ぶ。


「待て!それは本人じゃない!」


内側から光が漏れた瞬間、内側から氷と雷、そして聖壁で逃げ場が無くなった結果、乱反射した光が飛び交い視界を暗ませる。


「なっ?!罠!?」

「「目が…!」」


刹那、ルイネの攻撃が入る。


二連デュアル跳躍風エアジャンプ!・電光石火ボルトダッシュ!」


空中を瞬歩しながら奇襲を放った瞬間ルーテリアの声が響く。


氷床アイスフロア!」


床が氷張りになり、バランスが崩れ、倒れ込むとミィの声が入る。


「…二連デュアル虚弱ウィークネス泥濘マッドバインド


土壁から飛んできた泥が枷のようになり、闇魔法で筋力低下をさせられる。


エルマがそこに追撃する。


止血ストップブリーディング!」


ルイネが付けた傷からの血を凝固させ、更に細かな部分の阻害を入れる。


「…!?」


なすすべなく、逆にギルフォード達全員を生け捕りにする。


「っ…!動けない…!」


全員が地に伏してそれぞれ拘束されてる所をセリア達は少し離れた場所から見る。


「…セリアの考案。上手くはまった。」


「うわぁ…可愛い顔してえげつない事ほんま考えるわぁ…」


「私は目暗ましとか妨害とか、攪乱をって言っただけですよ…!?」


「まぁ、その結果、全員の分野が噛み合ったのも事実ですわ?」


藻掻くギルフォードチーム達は口も押えられ詠唱も出来ない状態。要するに、積みの状態で拘束されたまま、開始4分でイリスの声が響く。


「そこまで、チェックメイトと取り、勝者ルーテリア・ルイネ・ミィ・エルマ・セリアのチーム」


「ま、参りました…。」


なんと、セリアのチームが勝利を上げたのだ。A、B、C、F、Gという、合算ではランク評価は中寄りなのに、A~Dで構成されたものを完封したのだ。


「ルーテリアさん、あなたの立案です?」


「いえ、セリアさんですわ。と言っても大本の立案は、ですけれど」


「ふむ…ではセリアさん。どのような作戦を?」


「えーと…最初は旗を作って攪乱させる所からだったんですけど…」


「鏡や迷路を作って攪乱をしながら拘束すれば…と思ったのですが…思ったよりも皆さんの案が入って…?」


「ふむ…水鏡と土壁の迷路…しかも泥人マッドパペットを使って…あの造形はどのように?」


エルマさんが小さく手を上げる


「私の揉みほぐし(マッサージ)を利用して造形を手伝いました…それもセリアさんの案で…。」


「生活魔法まで利用して…。発想の勝利という事ですね。実に素晴らしいです。」


微笑んだまま手を合わせてイリス先生は満足そうに言う。


「今回の勝因はセリアさんではありません。」


「セリアさんの発想を、全員が信じて動いたこと。」


「そこが勝因です。」

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