第26話 「変な奴」
(握手って…何を言って…私はコイツに怪我をさせようとしたのに…)
差し出された右手を見て固まりつつクローディアは裏が無いかなどを考察する。
「…なんで握手…?」
「友達になりたいからですよ…?」
「…は?」
困惑するクローディアさんを見て溜息交じりにルーテリアさんが言う。
「何か探っているんでしょうけれど、無駄だと思いますわよ」
「…気は乗らないけど、セリアが言うなら。」
唇を尖らせつつミィさんは言う。
未だに手を取らないクローディアさんの手を取って握る。
「はい。これで喧嘩は無しです」
「…。」
渋々と言った表情だが、私にとって喧嘩はあまりしてほしくないので、無理矢理にでも納得してもらう。
「…三時限目は教室ですけど、一緒に行きませんか?」
「…い、いえ。お手洗いに行きたいから」
「なら仕方ないですね。ではまた教室で」
軽く手を振って歩き出す。
その後ろをミィとルーテリアが付いていきつつ「本当に良いんですのアレで…?」などを言いつつ歩いていく。
「…まぁセリアがあぁ言うんやったらなんも言わんけど」
ルイネは頭を掻きつつクローディアを見る。
「セリアにちょっかいかけるんやったらうちらも容赦せんからな。妬みも大概にしときぃよ」
それだけ言ってルイネは3人を追いかけるようにして歩いてく。
クローディアは握られた手を見つつその場立ち尽くしていた。
「…変な奴。」
前にも言っていた言葉、その意味はあの時とは違ったものになっていた。
セリアのような存在は会った事が無かった。
「…本当にあぁいう人間がいるの…?」
そう思うと、胸の奥がざわついた。
それは怒りではない。苛立ちでもない。
もっと曖昧で、もっと厄介な感情だった。
(――信じられない。)
けれど、手のひらに残る温もりだけは、どうやっても消えなかった。
――――その頃、爆発現場では解析をするためにローレファルスがクラウスに連れられ来ていた。
「確かに書き込んだ痕跡があるな」
「やっぱりか」
「一度部屋に侵入してからここに刻み込んだ感じだな」
「…内容まではわかるか?ローレファルス」
「状態から見るに…。乗ったものを増幅させるとか可変させる系統式だな。」
「…となると、探す方が良いが、追えるか?」
「…無理だな。」
「となると、学園内で探すか?」
「一応告知はしておいた方が良いだろうが、大事にする程に逃げるのが人の性だ。まずはクラスを絞って探すのが良いだろうな」
「となるとまずは被害を受けたクラスに絞ってか」
――――。
そして3時限目の始めに、ガーバント先生が教卓に立って資料を渡す。
「今日は爆発事故があって辛いと思うが、プリントはそれについての知らせだ。」
「もしかしたら、故意にされた可能性がある。」
ざわざわとする教室の中「静かにしろ」というガーバント先生の一声で消えていく。
「心当たりがある者は自主するように。時間が解決するとは思わない事だ」
その後、授業が始まる。
(仕掛けをして、皆を危険に晒す人もいるんですね…。)
私はそう思いながらも授業を必死に聞いていく中、キナコが懐から出てきて机に乗って座る姿を見て優しく撫でつつもノートを取っていく。
「…しーっ」
人差し指を唇に添えると、キナコは「ぴっ」と小さく鳴いて私の腕にもたれかかった。
しばらく私がノートを書いているのを眺めていたが、どこからか木の実を取り出して机の上にちょこんと置く。
「いつもありがとうございます」
木の実を大切に懐へしまう。
(これでもう三個目ですね。そろそろ専用の宝箱を用意した方が良いかもしれません。)
「――というふうに、魔術式には系統がある。強化する内容を取捨選択し、組み込む事で通常よりも違う挙動を促す事もできる」
――キーンコーンカーンコーン、とそう言う頃に終鈴が鳴り3時限目が終わる。
「ふぅ…、何とか書き終えましたが…うぅ…全然覚えれないですぅ…」
私は溜息をつくとキナコは腕にしがみ付くようにして私の顔を「ぴっ?」と見上げる。
「…ふふ。慰めてくれてるんですか?ありがとうございます」
私は筆記用具を直してからそっと撫でるとキナコは気持ちよさそうにする。
そうやってしていると「あの…」とエルマさんの声に振り向く。
「あ、エルマさん。授業お疲れ様でした」
「あ、はい…お疲れ様…です。」
「え、えと…あの…昼食、一緒に…その、良いですか…?」
「もちろん良いですよ…?といってもまだ1限残ってますが…」
「あ、いや、急かすとかそういうのじゃなく…!?」
「ふふっ、大丈夫ですよ。じゃあ昼食は一緒に食べましょうか」
「…あ…は、はい。そのすみません…」
「謝らなくても良いですよ」
そう言っているとキナコがよじ登って私の頭の上に乗っかる。
「あの。なんで普段からずっといるんですか…?その…契約獣が…。」
「契約…と言っていいのかはわからないですけど、居心地が良いのかキナコだけはなぜかずっといるんですよね。」
「…契約していないんですか?こう、陣とか使って」
「特にはしてないですね…?撫でたりした程度なので、付き添ってくれてる感じです」
「付き添う…。ペットとか…みたいに?」
「感覚的には近いのかもしれませんけど、私は家族の一員として受け入れてます。もちろん、あの時来た他の子たちも全員含めてです。」
「家族…。メルフィス先生みたいに言うんですね…セリアさんって」
「動物も私達も、同じ生き物ですからね。感情もあれば、生きる為に必死なのも全部一緒ですよ。見た目が違うだけです」
「見た目……。」
そう呟きながらエルマさんは自身の手を見つめる。
「……何か話してる。」
「ひょあっ!?」
「あ、ミィさん。はい、キナコの事でエルマさんと少し」
「…ふーん。」
眠たげな表情をしながら机を挟んだ前から見上げるミィさんがそこにいた。
「…次、移動教室。」
「えーと…戦術学…でしたっけ?」
「…ん。」
「なら折角ですし、エルマさんも一緒に行きましょうか。」
「え、い、良いんですか…?」
「もちろん。その方が楽しいですし」
「……。はいっ」
私はエルマさん、ミィさんと一緒にルーテリアさん、ルイネさんの所に行って移動する。
そんな後ろ姿を見るクローディアは更にセリアという存在がわからなくなっていた。
(…もし、本当に善意だけの存在なのだとしたら…いや、本当はありえないけれど…。もしそうなんだとしたら…)
きゅっと拳を握り、少し俯きつつも、教室へ向かう五人の笑い声が廊下の向こうへ消えていく。
(――取り返しの付かない事をしたのかも…。)




