第25話 「セリアという存在」
「伏せろ!」という声に咄嗟にキナコを抱えるように体を横倒しにして地面に伏せる。
バゴォーーーンッ!!
爆発の音と煙が一気に若干横になるようにして目をぎゅっと瞑ると埃っぽいような煙が広がってすこしむせる。
耳鳴りがする。
誰かの悲鳴。
「助けて!」
「煙で前が見えない!」
焦げ臭い匂いが鼻を刺した。
「けほっけほっ…何……が」
私は目線を上げると火の手が上がっているのと魔法を行使して鎮火する様子が見えた。
「授業中止だ!お前ら大丈夫か!」
「い、痛い…」
「何が……」
そんな声が広がったかと思うとすぐにクラウス先生の声が響く。
「授業中止だ!そこの!ダッシュでヴェイン呼べ!他のやつらで出来る奴は周りの生徒を見ろ!3班のやつはこっちきて動かせ!」
私は何が起きたかわからずに起き上がると、席の一つが爆発しているのを見つけた。
「…!私も手伝います…!」
ハッと我に返った私は起き上がって近場に居た人の安否を確認しに行く。
「大丈夫ですか。痛い所とかは…!」
「い、痛い…」
私は傷の具合を見ていく
(傷がある…これはかすり傷ですね。爆発の破片を受けた程度なら…)
クラウス先生が指示を出している中、その傷を見た瞬間、お師匠様の言葉が蘇る。
——『痛みを抑えろ。まずは汚れを流すことだけ考える』
幼い頃、私は深く肉が見えるくらい派手に膝を擦りむいて泣きじゃくっていた。
その時、お師匠様は傷口を覆い、『流れる水を思い浮かべろ』と言った。
水が汚れを流し、傷が少しずつ塞がっていく。
――あの日の感覚を思い出す。
「…大丈夫ですよ。ゆっくり息を吸って堪えてください。」
私はその時のお師匠様を思い出して…実践する。
(手で隠して汚れを禊で落とす。傷口をゆっくり修復するイメージを広げていく…あの時の私のように。)
私がそうやって思いながら触れていくと「うぐっ…ぅっ…!」と声を漏らしつつも、次第に息が整い始める。
「……痛いの痛いの、飛んでいけ。」
そう呟いて手を除けると、そこには傷が無くなっていた。私の時と同じように。
「…あ、あれ?」
「ふぅ…動けますか?」
「え、お前回復できたのか…?」
「それよりまずは先生の指示に従って移動してください」
「あ、あぁ…わかった…!」
黒色の刺繍をした生徒を起こして救助活動を再開する。
クラウス先生に聞きながら怪我人がいないかなどを見ていく。
(ん…?アイツ今、回復を使ったか…?いやそんな事より、まずは安全確保か。)
私はその後もヴェイン先生の指示に従い、軽傷者の手当や避難誘導を手伝い続けた。
幸い大きな怪我人は出なかったものの、一限目は中止となった。
その後、私達は軽くヴェイン先生に診察を受けて保健室を後にした所でミィさんが呟く。
「…仮説がある」
「「「?」」」
「…たぶんセリアが狙われた。」
「え?」
「…あの位置、この前のセリアの位置」
「…てことは誰かやったって事なんか?」
「…そう思ってる」
「セリアさんに心当たりは…ありませんわよね。当然」
「ふぇっ、断定…?!」
「まぁ、うん。しゃーないと思うで…?」
肩をポンポンとされる。
「というより、私、そんな目立って無いような…?」
「……セリアは本人が思っている以上に目立ってる。」
「えぇ…」
――――――――――――。
そう言いながら歩く4人が出た後の保健室、ヴェインとクラウスは話し合っていた。
「そんで、今回の事故の原因は魔力暴走か?」
その言葉にクラウスは頷く。
「あぁ、一応そうだな。だが、違和感があってな」
「んで、その違和感っつーのは?」
「手を加えられた可能性がある。」
「…ガキ共が絡んでるのか?」
「そこはわからんが、視野に入れておくべきだろうな。」
そう言いながらクラウスはマテリアルプレートを出しつつ今回の報告を送る。
「そういえばだが、クラウス。」
「ん?」
「一人がなんか言ってたんだが、セリアに治してもらったって証言があってな」
「は?セリアって、通達であったGのやつか?アイツ回復出来るとか聞いてないが」
ヴェインもその言葉に頷く。
「俺も疑って傷口を見せてもらった身からすれば、まるで自然治癒をしたような形状だった」
「アイツの事もなんか俺自身も見つけたが…ともかく。」
端末を仕舞いつつ。
「…まずはもう一度現場を見るか。」
――――――――――。
一方その頃、クローディアは廊下で少し外を見ていた。
(…こんなに大事になるなんて…。あのGランクにだけにしようと思ったのに…)
色々と考えていると、ふと最悪な考えがよぎってしまう。
(…まさか、退学…。せっかく入ったのに…絶対嫌、そんなの…ッ!)
そんな事を思いつつ足早に移動する。
クローディアの背筋に冷や汗が伝う中、ふと見ると、そこにはあの小さいキナコを乗せたGランク、セリア達がいた。
キナコはクローディアをセリアの頭の上から見つけると毛を逆立てて威嚇する。
「え…?キナコ?また唸ってどうしたんですか?」
ぴィっ!と唸り声をあげながらまっすぐにクローディアを警戒する様子でいる姿はセリア以外の3人にもわかった。
「…めっちゃ怒っとるな」
「……あの人?」
ミィさんが見ると、ビクッとクローディアが肩を震わせる。
「な、何よ…」
「あれだけ人前でも大人しいキナコが敵意を剝き出しにしていますわね?」
「…は、はぁ?意味わかんない。私が何したって言うのよ」
「…前にも食堂でぶつかってた。その後は水をかけてた」
「た、たまたまそう言う事もあるでしょ。何?私が悪者なわけ?」
言い争いに発展しそうな時、セリアがそれを断ち切るように少し大きめに言う。
「いい加減にしてくださいっ。」
「「「「………。」」」」
廊下はシンとした雰囲気が一瞬過る中、私はキナコを抱えて下ろしつつ撫でる。
「さっきから何を言ってるんですか。悪者がどうとか、敵意がどうとか」
「彼女はたまたまぶつかっただけです。それに、水の件は失敗しちゃったから、と聞いています。それで良いじゃないですか?」
(この子…本当にあの嘘を聞いて信じたの…?しかも今回最悪大けがまでするかもしれなかったのに…?)
クローディアの中で何かが決定的に違った。このセリアという存在が本当にわからなくなってしまったのだ。
「それに、怪我人は出てしまいましたが、危険な事と言っていたのも事実です。幸い死傷者などが出なかったので、次は気を付けましょう。で良いじゃないですか?」
「…セリア…。あんた…」
「……。」
「…本人がこう言っているのに蒸し返すのは確かに不適切ですわね…。謝罪致しますわ」
キナコも含めつつも、3人は物言いたげなのをぐっと堪える様子を見せながらクローディアの方を見る。
「えっ…え…?」
だが、一番理解が出来なかったのはクローディアだ。
「…改めて、セリア・レインです。あなたのお名前は?」
「……クローディア・バロウズ」
「クローディアさんですね。これからよろしくお願いします」
私はそっとキナコを抱え直して近くに行き、手を差し出す。
「…は?なんで手を…」
「握手ですよ。友達なら普通にすることですよ?」




