第21話 「召喚の時」
「――――という事がありまして、お師匠様からも機会があれば会いたいと!」
私は合流したミィさんルイネさん、ルーテリアさんに事の顛末を話していた。
「その雰囲気からするとお師匠様というのは、育ての親…みたいなものですの?」
「というより、近所のお姉さんですかね?修行もさせてもらいましたけど」
「修行という名のあのルーティンやね?」
「はい。特に苦しい事はしてないですけど、継続は力なりってよく言われてたので」
「…意外と難しい。」
「…ちなみに何歳からしていますの?」
「えーと…5歳くらいですかね?物心ついた時にはちょっとずつしてましたね。」
そう言うと3人からぽかんとした雰囲気が漂う。
「ようそんな長年出来るなぁ…。うちそん時遊んでたで」
「…覚えてない。」
「私は勉強をしていましたわね…?」
「ふふっ。今度良ければ小さい頃の事、教えてください」
そう言っていると予鈴が鳴る。
「あ、そういえば今日は召喚をメインにした授業らしいけど…使い魔できるかもな?」
「使い魔…?」
「まぁ担任から聞いた方がすぐわかりますわ」
程なくして少し遅れてメルフィス先生が演習場に来る。
「みんなぁー!おはようなのだ!」
そう言いながら、虹色に煌めく大きい双角を持った鹿さんに乗ったまま手を振って入ってくる。
「今日は召喚獣を出してみるのだ!」
腕を上げながらそう言って、鹿さんから降りて腰に手を当てて胸を張りながら言う。
皆がヒソヒソとする中、私はその鹿さんにお辞儀されたように思い「あ、どうも」とお辞儀し返す。
「コイツは月虹の幻鹿。私と一番仲が良い精霊だ!」
そう紹介されながらも横で佇み、皆さんを見渡している様子だった。
「召喚術には二つあるのだ。」
「一つは魔物を従える《《マナコア契約》》。」
「もう一つは精霊と友達になる《《精霊契約》》。」
「前者は命令。後者はお願いなのだ。私はこいつに命令したことは一度もない。」
「嫌だと言われたら終わりなのだ。」
「召喚獣が命令を聞かないなんて欠陥では?」
「ならお前はしたくないことをしろと言われたらするのだ?」
その言葉に苦虫を噛むようにして黙り込む。
「なんだか人と一緒ですね…?」
「お、そうなのだ!」
私がぽそりと呟いた事に賛同するように指をさしながらメルフィス先生は嬉しそうにする。
「召喚陣は扉なのだ。扉の向こうには精霊も魔物も使い魔もいる。」
「でも呼ぶのはお前達だけじゃない。向こうもお前達を見る。」
「心と魔力に惹かれた相手だけが来る。だから召喚じゃなく契約なのだ。」
そして一泊を置き、一言を出す。
「「命令だけで動く奴なんて私は嫌いなのだ。」
そう言って先生は月虹の幻鹿の首を撫でる。
「餌だけで従う魔物はいても、友達にはなれないのだ。」
その優しい横顔を見て、私は胸が少しだけ痛んだ。
(……きっと先生にも、昔何かあったんだ。)
シンとした空気が一瞬だけ広がるかと思った時。
「さて。話は終わりなのだ!召喚はとりあえず実践あるのみなのだ!」
手をパンと叩くとその場が引き締まる感覚があった。
「さて、まずは前から順番にやっていくのだ。一人ずつ前に出て来い!」
ランク別に分かれて前から順番にやっていく。
「ちなみに、召喚獣は強い奴が来れば良いわけじゃない。」
「お前達に必要な相手が来るのだ。」
生徒達は次々と召喚陣へ立つ。
大きな魔獣が現れて歓声が上がる者もいれば、小さな小鳥一羽に肩を落とす者もいる。
「その鳥、馬鹿にするななのだ。」
「へ?」
「戦場では一羽の伝令鳥が千人を救うこともある。」
「召喚獣は強さじゃない。役目なのだ。」
肩を落とす生徒にそう言ったりしていた。
中には姿だけ見せて帰ってしまう精霊もいた。
「断られたのだ。」
「えぇぇ……」
演習場は笑いとため息で満たされていく。
「集え、魔の者よ。」
ギルフォードさんも言葉と連ねて言うと、大きい亀さんが出てくる。
「…おぉ!鉄殻の大亀なのだ!」
巨大な鉄鉱石で覆われた甲羅を持つソレは重厚な雰囲気を醸し出している。
「頭が固いって思われたみたいだな♪」
「っ…よ、よろしく。」
少し気を取り直しつつ、亀さんに挨拶をする。
その後3人もやっていく。
「よろしくお願いしますわね。蒼月の霊狼」
大きい青白い毛並みを持つ狼さんを召喚していた。
「はぁ…うちは無しかぁ…」
ルイネさんは少し肩を落としつつもどこか知ってたかのように軽く笑う。
「…本。」
「それは魔道書喰いの使い魔なのだ。知識欲に惹かれて寄ってくる変わり者なのだ。」
「…ん、丁度。」
ミィさんは 古びた革表紙の空飛ぶ本。ページが羽のように動き、中央に一つ目があるちょっと変わったものでした。
そうこう言っていると、私の出番が来ました。
月虹の幻鹿が、ぴくりと耳を動かした。
周囲の生徒ではなく、一人だけを見つめている。
その視線の先にいたのは――私だった。
「……?」
不思議そうに首を傾げる私。
すると先生も、その視線に気付いたようだった。
「……ん?」
先生は月虹の幻鹿を見てから、私へゆっくり視線を移した。
「…………コイツが興味を持ったのだ。」
「え?」
「…まぁとりあえず、やってみるのだ。」
私は頷いてそっと目を閉じる。ふと、生活をする様子を思い浮かべるように。
(風を浴びてゆるやかに、一緒にお昼寝をしたり…笑い合ったり、抱き締めたり…。私がお師匠様にしてもらって嬉しかった事をこの子たちにも)
そしてそっとそれらの情景を思い浮かべながら
「おいで……」
しーん。
召喚陣だけが、ぼんやりと明滅を繰り返す。
光は何度も脈打つのに、何も現れない。
「……つっかえてるのだ。」
「へ……?」
「向こうは来ようとしてるけど、入口が狭いのだ。」
「入口……?」
メルフィスは腕を組み、召喚陣をじっと眺める。
「……んー。珍しいのだ。」
メルフィスは腕を組み、召喚陣をじっと眺める。
「「「「…………。」」」」
「あのー…先生?」
「……んー。」
メルフィス先生は首を傾げる。
「珍しいのだ。」
「え?」
「こんなの初めて見るのだ。」
更に困惑した空気が流れる。
「渋滞なのだ。」
「じゅ、渋滞?」
「入口で順番待ちしてるのだ。」
「そんな事あるんですか!?」
「普通はないのだ。」
その言葉に月虹の幻鹿がこくっと頷く。
「鹿さんも初めてなんですね…」
すると、ゆっくりと小さいのからちょろちょろと出てくる。
小さなオレンジ色のスライムが一匹。
続いて羽をぱたぱたさせる小鳥。
花びらをまとった妖精。
角の小さな子鹿。
ふわふわの白兎。
尻尾が大きなリス。
みんな恐る恐るセリアの足元へ集まる。
演習場は静まり返る。
「…………。」
「……え?」
「小さいのばっかじゃん。」
誰かが思わず笑う。
「…………。」
そんな中、メルフィス先生は。
「そんな馬鹿な。」
「わ…初めまして?」
私はそっと手を差し出し、それぞれを受け入れる姿を見せた。
その瞬間、小さな召喚獣たちは示し合わせたように私の周りへ集まり始めた。




