第19話 「訪問の先で」
――診察終了。
「…外傷軽微、内傷無し…健康体だな」
カルテを片手に私を見ながら言う。
「魔力がほぼないのは聞いてたから驚かんが、にしては回復が速いな」
「お守りのおまじないが効いたんですかね…?」
「おまじないねぇ…。まぁそのお師匠とかいうやつが来れば分かる事だが」
パタンッっと閉じる。
「お前が学園に来た時は何時間くらいで着いた?」
「えーと…馬車に乗せてもらって2,3時間ですかね…?」
「なら、手紙はまだ着いてない頃か。」
そう言いつつ、椅子に座る。
「…そうか。というか一つ聞くが、掃除したか?」
「あ、はい。勝手ながら…少しだけ」
「……少し…か?」
ヴェイン先生は部屋を見渡しながらそういう。
「ベッドどころかこの机まで綺麗になってるし…」
「す、すみません。迷惑でしたか…?」
「…薬品棚は手を出していない様子だな。なら良い。あそこは劇薬があるからな」
「危なそうだったのであそこは手を付けてませんでしたね」
「…野生の感みたいなもので判断してるのか?お前」
あはは…と苦笑しつつ私は保健室を後にする。
廊下を歩いていると前からミィさんが来る。
「…大丈夫?」
「はい。お陰様でピンピンしてます」
「…なら、良かった。二人も心配してたから。」
「すみません、ご心配かけて」
頷くミィさんに手を引かれつつ、教室に行く。
「あ、セリア。大丈夫やった?」
「はい、お陰様で」
「もう、ほんま心配したからな?!」
「私も完全に守れず、申し訳ありませんわ」
「いえ、ルーテリアさんが居なかったらもっと重症だったってヴェイン先生も言ってたので、そんな謝らないでください!?」
そう言いつつ、朝の予鈴が鳴る頃にガーバント先生が入ってくる。
「お前ら席付け。今日のHRを始めるぞ」
そう言って教卓に行き、点呼から始め、そのまま授業へと入る。
――――――。
授業途中のこと、教室の扉がノックされる。
すぐに入ってきたのはローレファルス先生。
「セリア・レイン。話がある、すぐ来てほしい」
「え、あっはい」
私はノートなどの筆記を止めて纏めてからローレファルス先生についていく。
「…退学か?」
「学園に相応しくないとかじゃないか?」
「防御も出来ないんじゃなぁ?」
「お前ら、ヒソヒソしてるならこの問題を答えれるよな。」
ヒソヒソする声を一喝で指名する事でガーバントは諫めながら授業は進んだ。
――――研究棟。
その扉を開けると、私の見知った顔がいる事に気が付く。
「…!お師匠様っ!」
「ん?あぁ、セリア。元気にしているみたいじゃな」
ローレファルス先生に背中を押されてお師匠様の横に行くと、頭を撫でられて顔がほころんでしまう。
「えへへ…♪」
「本当にセリアは撫でると顔が緩むのはいつまで経っても全く変わらんのぅ。」
そう言っていると対面にローレファルス先生が座り、咳払いする。
「取り込み中の所悪いが、手紙は読んだのでしょうか?」
「あぁ、何か出していたな。道中に見ておいたよ」
そう言って袖口から手紙の封筒を出して見せる。
「…速達だとしても1時間半で来れるわけがないが。」
「ははっ。細かいと将来薄毛に悩むぞ?」
少し伏目になりつつ「ご忠告どうも」と渋々ローレファルス先生は言う。
「で?妾に聞きたい事があるとあったが?」
「…んんッ。彼女に渡したお守りをどうやって?」
咳払いをしながら本題を言う。
「どうやって、とは?質問の糸が理解できんが?」
クスクスと笑いつつ言うお師匠様は、何時も通り楽しそうにしています
「まず確認したい。」
「そのお守りは、あなたが作った物で間違いありませんか?」
「あぁ。」
お師匠様は椅子に深く座りつつお茶を飲みながら寛いだ様子で言う。
「それで?」
「解析不能でした。」
「ふむ。」
「魔法式が存在しない。」
「ですがSSの解析でさえも理解不能な事が起きてるんです」
「だから?」
「………。」
「質問はそれだけか?」
「…えぇ。こちらで解析をしても内容がわからなかった。いやとてもじゃないが守れるような代物ではない。当時の彼女の距離的にもっと重症になってもおかしくはないと思うのですが」
「運が良かったんじゃろうな。そういう事もある。」
そう言いながらもう一度茶を飲む。
「…ふむ。悪くはないが荒いな。セリア、これで茶を作って貰えるか?」
懐から何時もミカヅキ村で作っていた茶葉を出してくれる。
「あ、はい。わかりましたお師匠様。ローレファルス先生、少し給湯室を借りますね」
「あ、あぁ…それは構わないが…」
セリアは嬉しそうに茶葉を受け取り、お辞儀をしてから給湯室へ向かって歩き出した。
その背中を見送りながら、ローレファルスは小さく息を吐く。
(……話が、一歩も進まん。)
対するクミホは、何事もなかったように湯呑を傾けていた。
「知ってどうする。仮に掻き消す力があるとして、その様子であれば再現もできまい?」
「……。何者なのですか、あなたは。ここに来る時も気配がまるで無かった。ふとした時に居たような感覚…。セリアのように常に其処に居た。という雰囲気のような」
「ま、一つ言うなら。焦り過ぎなのが今現代、という所であろうな?」
「…焦り過ぎ…?」
「測る事に夢中なうちわからんよ」
軽く湯呑を回しつつクミホはクスッと笑う。
「セリアを見てもわからんならそこまでだ。ランクという肩書が曇った眼にはお似合いなのであろう」
「……一応これでも相当思慮深くは見ているのですが?」
「それで?」
「……教育機関として、知らなければならない事もあります。」
「ならそちらも同じことをすればいいだろう?」
「…こちらで独自で作れと?」
「一度でもそういう物体を作ったか?便利な物差しがあると、それだけ見てしまうものじゃ。」
「ッ……。こちらでもいろいろと対策は取っています。警備も厳重にしており、我々のランクに恥じない学園生活を――」
「あぁよいよい。長くなりそうじゃ」
(…私の土俵に連れ込めない…なんなんだ、このクミホという存在は…)
「それよりもっと肩の力を抜いたらどうだ?ローレファルス先生?」
とりあえず無言で落ち着く為に、ローレファルスは座り直して深呼吸をする。
「…セリアの事についてですが、あの制御能力は?」
「ん?」
「揺れもしない、漏れもしない、無駄もない。そんなものは聞いた事が無い」
「そう思うなら、その程度じゃ。さて、そろそろセリアが帰ってくるぞ?」
そう言うとノックする音が響き、本当にセリアが帰ってきた。
「お待たせしました。お茶、作ってきましたよ」
そう言ってローレファルス先生とお師匠様の前にお茶を出す。
「うむ。やはりこの匂いじゃな?」
湯呑を持って軽く匂いを楽しんだ後、お師匠様は何時ものように軽く飲む。
「ローレファルス先生もどうぞ」
「あ、あぁ」
ローレファルス先生も一口飲む。
「…スッキリした味だな」
「…。好んで飲むくらいには好きでの?」
「ふふっ。嬉しいです♪」
「と、そうじゃ。セリア?お守りは大事にしているか?」
「あ、はい。ちょっと焦げちゃいましたけど、今も付けてます」
両手に乗せてお守りを見せる。
「うむ。ならそれで良い」
その手を包むように上から手を置き私の目を見ながら微笑んでくれる。
「ふふっ。大事にすると付喪神が宿るって言いますもんね?」
「うむ。」
(……付喪神?)
――――――。




