第四章 失われた町
極北のプロテイン渓谷を越え、ヒロミチ、大亀、小林の三人が辿り着いたのは、雪原の中に突如として現れた大都市だった。
街は眩いばかりのネオンに彩られ、人々は笑顔で溢れ、音楽が鳴り響いている。しかし、小林の鋭い感性は、その光景に言いようのない「寒気」を感じ取っていた。
「……変よ。みんな、笑っているけれど、目が全く笑っていないわ」
小林の指摘通り、行き交う人々の動きはどこか機械的で、まるで誰かに決められた振る舞いをなぞっているかのようだった。
「……お前たち、この街の連中に関わるな。早く立ち去るんだ」
路地裏から現れたのは、質素な身なりの男だった。
「僕はソウタ。この街で唯一、正気を保っている男だ」
ソウタは自らを「ゲイでもバイでもない、ごく普通の一般人」だと名乗った。彼は、この街の領主が特殊な「音波」と「微弱なエナジー」を使い、住民たちの思考を奪い、自分の都合の良いように操っているという恐ろしい実態を語った。
「愛も、情熱も、ここには存在しない。あるのは領主への絶対的な服従だけだ。……頼む、あんたたちのその普通じゃない『熱量』で、この街を救ってくれ!」
ヒロミチはソウタの必死な訴えを真摯に受け止めた。
「愛が踏みにじられているのを放っておくわけにはいかないよ。大亀くん、小林さん、ソウタと一緒に領主の館へ行こう」
「合点承知です! 俺のマッスルで、洗脳なんてぶち壊してやりますよ!」
覚醒した大亀が拳を鳴らす。小林もまた、偽りの笑顔で塗り固められたこの街を浄化するため、シルクを手に取った。
「面白いじゃない。私の幻惑と、領主の洗脳……どっちが上か試してあげるわ」
一行はソウタの案内で、街の中央にそびえ立つ黄金の館へと向かった。
近づくにつれ、空気は重く、どろりとした負のエネルギーが肌を刺す。館の門番たちは、感情を失った瞳でヒロミチたちを見据え、無言で武器を構えた。
「ソウタさん、下がっていて。……ここからは、愛に生きる僕たちの仕事だ!」
そう言ってヒロミチは門番を一撃で気絶させた。
ヒロミチの体から、白銀のフェロモンが静かに立ち昇る。
一般人であるソウタとの出会いが、ヒロミチたちに「守るべき日常」の大切さを再認識させた。一行は、街の自由と人々の心を取り戻すため、巨大な門を押し開いた。
館の奥、豪華絢爛な玉座に座っていたのは、優雅にワインを傾ける細身の男だった。
「ほう……旅人か 久しいな。普段なら歓迎したいところだがお前気づいたな。それを阻止にでもしにきたのか。やれやれ 私の完璧なハーモニーを乱そうとするとは、野暮な客だ」
領主の指先がタクトのように振られる。
それは、新たな戦いの始まりを告げる合図だった。




