第三章 マッスルゲイモード
二人は風を凌げる岩影に座り、旅の必需品である特製プロテインを口にした。冷え切った体に、濃厚な栄養が染み渡っていく。
「……あれ? なんだか、胸のあたりが熱いぞ……」
プロテインを飲み干した直後、大亀が自分の胸板を押さえて呻いた。
「大亀くん!? どうしたんだい!」
ヒロミチが駆け寄ると、大亀の体からこれまでに見たこともないような、濃い褐色のオーラが立ち昇っていた。それはまるで、鍛え上げられた鋼が熱を帯びたような、重厚なプレッシャーだった。
「力が……溢れてくる……。俺、分かった気がします。俺の中にある『もっと強くなりたい』っていう願いが叶ったんだ!」
ドクン、ドクンと、地響きのような鼓動が大亀の全身から鳴り響く。
パァン! と音を立てて、大亀の着ていた予備のシャツが弾け飛んだ。その肉体は以前よりもさらに巨大化し、一つ一つの筋肉が独立した生き物のように躍動している。
「これこそが、俺の真実の姿……。名付けて、マッスルゲイ・モードだ!!」
大亀が拳を握りしめると、周囲の猛吹雪が彼の熱気だけで蒸発し、青空が顔を出した。彼の放つフェロモンは、ヒロミチの優雅なそれとは対照的な、野性的で力強い「生命の輝き」に満ち溢れていた。
「見ててください、ヒロミチさん。これなら、どんな攻撃からもあんたを守り抜けます!」
大亀が地面を軽く踏みしめると、渓谷の氷床がクモの巣状にひび割れた。圧倒的な防御力と破壊力を兼ね備えた、文字通りの「動く要塞」の誕生だった。
ヒロミチはその力強い背中を見つめ、確信した。
「頼もしいよ、大亀くん。君のマッスルゲイモードがあれば、どんな困難も乗り越えられそうだ」
大亀の覚醒により、一行の戦力は大幅に向上した。プロテイン渓谷に影はなかったが、この場所は大亀に「最強の盾」としての自覚と力を与えてくれたのだ。
「さあ、ヒロミチさん! 次の目的地へ行きましょう! このマッスルが火を噴くぜ!」
「うん、行こう! 中田くんを救うヒントを、もっと探しに行かなきゃ」
覚醒した二人の英雄。その前途には、さらなる強敵と、愛の試練が待ち受けている。




