第二章 賢者タケダ
ヒロミチたちが旅立った後、コレナガは一人、街のさらに奥にある隠里へと向かっていた。
そこには、かつて彼に「愛の論理」を説いた恩師、タケダの庵がある。
「タケダ先生なら、中田の魂を呼び戻す方法を知っているはずだ……」
タケダは格闘家ではないが、古今東西のゲイの歴史と精神構造を研究し尽くした知識人であり、かつてトモヒロや尺田、セバスら三羽烏にも助言を与えていた隠者であった。
しかし、辿り着いた竹林の庵は、不自然なほど静まり返っていた。
「タケダ先生! コレナガです、戻りました!」
戸を開けるが、返事はない。部屋の中は整理整頓されており、争った形跡はなかったが、主の気配だけが消えていた。
机の上には、一枚の古びた和紙が置かれていた。
『愛の均衡が崩れた。私はその源流を突き止めるべく、旅に出る。追うことなかれ。』
達筆な文字で書かれたメモ。コレナガは拳を握りしめた。タケダほどの慎重な男が、自ら庵を捨てるほどの事態が起きている。それは中田の異変、そしてケイイチが倒れたことと無関係ではないはずだ。
コレナガは部屋の隅から筆と墨を取り出した。
タケダが旅に出たのなら、自分もそれを追うべきか。だが、今この庵を離れれば、もし先生が戻ってきた時に手がかりが失われる。
コレナガはメモの余白に、力強い文字でこう書き記した。
『コレナガ、帰還せり。先生を待ちつつ、この地で中田を救う術を模索する。』
「先生……あなたが何を追っているのかは分からない。だが、俺はここで、あなたが戻るのを信じて待つ。それが、一度道を外れた俺にできる唯一の『誠実さ』だ」
コレナガは庵の周囲を清掃し、中田を救うための瞑想を始めた。
タケダが残した膨大な書物の中には、深層心理や魂の結合に関する記述が山ほどある。コレナガはそれを一つずつ紐解き始めた。
「中田……必ずお前を呼び戻してやる。ヒロミチが最強のゲイになって戻ってくる、その日までに」




