第二十一章 愛の反撃
「……ヒロ、ミチ……消えろ……すべて、無に……」
中田の口から漏れるのは、かつての情熱的な声ではなく、感情を削ぎ落とした機械的な響き。ケイイチの洗脳によって引き出された『アンチ・バイ・モード』は、男への愛も女への情愛も、すべてを負のエネルギーへと変換し、周囲の熱量を奪い去っていく。
「中田くん、目を覚まして! 僕は君とまた、競い合いたいんだ!」
ヒロミチは必死に『ゲイ・リベレーション』を連発するが、中田の放つ灰色の波動が、黄金の光を次々と飲み込んでいく。
「無駄だ。今の私に……ときめきなど通用しない」
中田の冷徹な回し蹴りがヒロミチの脇腹を捉えた。かつてない衝撃。ヒロミチは祭壇の壁まで吹き飛ばされ、血を吐いた。
「あらあら、随分と湿っぽい戦いをしているわね、あなたたち」
突如として、祭壇全体を揺るがすような地鳴りが響いた。天井が巨大な圧力で粉砕され、上空から一筋の虹色の光が突き刺さる。
「この……圧倒的なフェロモンの重圧は……!?」
最高幹部たちが驚愕し、ケイイチでさえもその眉をひそめた。
砂埃の中から現れたのは、黄金に輝く巨大な肉体。ポージング一つで周囲の虚無を吹き飛ばす、世界最強のゲイ――トモヒロであった。
「師匠……! どうしてここに……」
ヒロミチが息を切らしながら見上げる。トモヒロは優雅にターンを決め、弟子の前に立った。
「ヒロミチ、あなたの愛が震えていたから、放っておけなかったのよ。……中田、あなたも随分と悪い子になったわね。私の道場で教えたのは、そんな冷たい拳じゃなかったはずよ」
「……トモヒロ。貴様も来たか」
ケイイチが椅子から立ち上がり、憎悪を露わにする。
「ケイイチ、あとであなたもたっぷり可愛がってあげるわ。でも今は、この迷子になっている子を教育し直すのが先よ」
トモヒロが一歩踏み出す。中田は『アンチ・バイ・モード』を最大出力にし、虚無の奔流をトモヒロへ叩きつけた。しかし、トモヒロはその波動を、鍛え抜かれた大胸筋で正面から受け止め、笑い飛ばした。
「甘いわ! 私の筋肉は、世界中の男たちの愛を、汗を、そして涙を吸収して作られているの! あなたのちっぽけな絶望程度で、この『愛の筋肉』は貫けないわよ!!」
トモヒロが大きく両腕を広げた。
「ヒロミチ! 今こそ私とあなたの愛を共鳴させなさい! 中田の中の『偽りの無』を、本物の情熱で焼き尽くすのよ!」
「はい、師匠!!」
ヒロミチはトモヒロの放つ虹色のオーラに自らのエナジーを同調させた。師弟二人の巨大な愛の波動が、絶望に染まった祭壇を塗り替えていく。
「……うっ……頭が……熱い……何だ、この……込み上げる……感情は……」
中田の灰色の瞳に、かすかな揺らぎが生じる。ケイイチが施した洗脳の回路が、トモヒロの圧倒的な『愛』の熱量によってオーバーヒートを起こし始めていた。
「中田くん!! 帰ってこい!!」
トモヒロの参戦により、戦局は一気に逆転の兆しを見せる。だが、ケイイチはまだ奥の手を隠し持っていた。
「トモヒロ……お前のその独りよがりな愛が、どれほど残酷か……。今こそ思い知らせてやる」
ケイイチがドス黒いゲイエナジーを滲み出す。
トモヒロ、セバス、ヒロミチ、そして救出を待つ中田。すべての愛の戦士たちの運命が、この最終決戦の渦中へと飲み込まれていった。




