第二十章 決戦
アンチゲイ団の最深部、虚無の祭壇。
中田が意識を取り戻すと、そこには氷のような眼差しで自分を見下ろすケイイチが立っていた。
「……ヒロミチは、どこだ……」
中田が掠れた声で呟く。しかし、ケイイチは何も答えず、ただ静かに右手の指を中田の眉間に近づけた。
「お前の情熱、お前の葛藤……すべては無へと還るためのノイズに過ぎない。愛を捨て、完璧なる虚無の器となれ」
パチン――。
ケイイチが指を鳴らした瞬間、中田の脳裏で火花が散り、ヒロミチとの思い出や修行の日々が急速に色褪せていく。
「あ……ああ……ヒロ、ミ……」
中田の瞳から光が完全に消え、その双眸はケイイチと同じく、深い闇を湛えた灰色へと変わった。
「ケイイチ様、準備が整いました」
玉座の周囲に、ヒロミチたちの追撃を振り切った最高幹部、**『虚無の三騎士』**が跪く。
「侵入者たちはまもなくここへ。セバスも、かつての情念を捨てきれずに追ってきております」
ケイイチは、自我を失い操り人形のように背後に立つ中田を一瞥し、冷酷に命じた。
「いいだろう。セバスは私が直々に引導を渡す。残りのゴミ共は、お前たちが処理しろ。この世界から、最後に残った『愛』という名の火種を消し去るのだ」
「……ケイイチ、あなたはどこまで堕ちてしまったのですか!」
祭壇へと続く回廊を、セバスが駆け抜ける。その目には、いつもの優雅さはなく、親友を救えなかった悔恨の涙が光っていた。
背後から、ヒロミチたちの戦闘音が響いてくる。自分たちがここでケイイチを止めなければ、世界は永遠に凍りついた「無」に支配されてしまう。
「私はもう、あなたを友とは呼びません。……一人の格闘家として、あなたの絶望を粉砕します!」
「行かせないと言ったはずだ、若造!」
最深部への門の前で、再び三騎士がヒロミチたちの前に立ちふさがった。
「中田くん!!」
門の隙間から、変わり果てた中田の姿を捉えたヒロミチが叫ぶ。しかし、三騎士の連携攻撃が彼の行く手を阻む。
「大亀くん、小林さん、コレナガさん! お願い、力を貸して!」
ヒロミチの体から、これまでで最も激しい黄金のフェロモンが噴き出す。それはもはや、自分のためではなく、奪われた親友の心を取り戻すための、魂の叫びだった。
「当たり前だ、ヒロミチさん! 俺たちのパワー、全部あんたに預けるぜ!!」
大亀が叫び、小林が布を舞わせ、コレナガが紫の炎を放つ。
祭壇の扉が開き、ついにケイイチとセバスが対峙する。
そしてその横には、虚ろな瞳で構えを取る中田の姿があった。
「中田くん……嘘だろ……」
到着したヒロミチの言葉に、中田は反応しない。ただ、ケイイチの命に従うだけの破壊兵器として、静かに拳を固めた。
愛を信じる者たちと、愛を捨てた者たち。
決戦が始まった




