第十八章 肯定するものと否定するもの
セバスが幹部たちを圧倒する傍らで、中田はホールの奥底に漂う「完全なる虚無」の源を感じ取っていた。そこには、ただ静かに椅子に座る一人の男がいた。
「お前が……この組織の元締めか!」
中田は残る全エネルギーを拳に込め、背後から襲いかかる。しかし、その拳が届く直前、世界から「色」が消えた。
「無駄だ。愛というノイズに囚われた拳では、私には触れられん」
男が指先で中田の額を軽く突いた瞬間、中田の意識は真っ白になり、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
「中田くん!!」
異変に気づいたセバスが、瞬時に中田の元へ駆けつける。セバスのサファイア色の瞳が、玉座から立ち上がった男を捉えた。
「……その構え、その波動。まさか、あなたなのですか。ケイイチ」
男は仮面を外し、冷徹な素顔をさらけ出した。
「久しぶりだな、セバス。トモヒロはどうした? あの暑苦しい筋肉の塊は、まだ愛だの何だのと戯れ言を抜かしているのか」
セバスの顔に、いつもの余裕が消え、深い悲しみの色が広がった。
「なぜ……。かつて私たちは、偉大なる師・ユウスケのもとで共に励んだ仲ではありませんか。トモヒロ、私、そしてあなた。私たちは三羽烏と呼ばれ、世界に真実の愛を広めると誓ったはずだ!」
かつて伝説の求道者・ユウスケは、タイプの異なる三人の弟子を育てた。
圧倒的な包容力のトモヒロ。
究極の美学を持つセバス。
そして、誰よりも鋭く、繊細な感性を持っていたケイイチ。
「ユウスケは死んだ。愛を説き、世界を救おうとした挙句、その愛によって裏切られ、孤独に死んだのだ」
ケイイチの声には、凍てつくような憎しみがこもっていた。
「私は決めたのだ。愛という病が人を狂わせるなら、この世から愛を……情熱を、色を、すべてを消し去るとな」
「だからといって、愛を否定する組織を作るなど……。ユウスケ師匠が、そんなことを望むはずがありません!」
セバスの手が、かつてないほど激しく震えていた。怒りではない。かつての戦友を救えなかった後悔と、あまりにも深い絶望に対する悲しみだった。
「セバス。お前も無に還してやろう。それが、かつての友としての唯一の慈悲だ」
ケイイチがゆっくりと一歩を踏み出す。その一歩ごとに、周囲の空気が分子レベルで活動を停止していく。
セバスは倒れた中田を背負い、静かに呟いた。
「……なぜ。どうして、私たちはこうも違ってしまったのですか……ケイイチ」
本拠地の深部で、かつての同門同士が対峙する。愛を肯定する者と、愛に絶望した者。
その頃、ヒロミチたちは、アンチゲイ団の本拠地を知り乗り込もうとしていた。
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