第十四章 アンチゲイ団
コレナガは、街の廃ビルの屋上で一人、己の拳を見つめていた。ヒロミチと小林の放った光が、彼の心の奥底で燻っていた情熱に火を灯していた。
「……俺は、何を恐れていたんだ。裏切られることを恐れて、自分自身を裏切っていたのは、この俺の方じゃないか」
彼は大きく息を吸い込み、かつての構えを取った。冷たく閉ざされていた彼のオーラが、徐々に熱を帯び、紫色の炎となって立ち昇る。
「ヒロミチ。お前が示してくれた道……もう一度、歩んでみる価値はありそうだ」
だが、再生を誓ったコレナガの背後に、音もなく不気味な影が伸びていた。
「……実に不快な熱気だな」
突如として、屋上の気温が氷点下まで下がった。
コレナガが振り向くと、そこには真っ黒な法衣に身を包み、無機質な灰色の仮面をつけた集団が立っていた。
「何奴だ!?」
「我らはアンチゲイ団。世界から過剰な情熱を、歪んだ愛を、そして多様な色を排除し、すべてを清浄なる『無』へと還す使者」
先頭に立つ男が、細長い杖を地面に突いた。
「コレナガ。かつて絶望に染まったお前は、我らにとって理想の器だった。だが……今のその『色付いた心』は、我々の世界には不要だ」
コレナガは戦闘態勢に入るが、アンチゲイ団の放つオーラは、彼がこれまで経験したどんな敵とも違っていた。それは、感情そのものを吸い取るような、虚無の波動。
「くっ、体が重い……。エナジーが、吸い取られていく……」
修行に集中しすぎたコレナガは、彼らが街全体に張り巡らせていた結界に気づくのが遅すぎた。アンチゲイ団の目的はコレナガだけではない。この街に住む者すべての情熱を奪い、生ける屍へと変えることだった。
「愛などという不確かなものに縋るから苦しむのだ。無になれば、痛みもない」
仮面の男が冷酷に告げる。
その頃、街の反対側で異変を感じ取ったヒロミチが足を止めた。
「大亀くん、小林さん! 感じるかい? 街の空気が……どんどん灰色に染まっていくみたいだ」
「ああ、ヒロミチさん。俺の筋肉が、かつてないほどの寒気を感じてやがります!」大亀が震える。
「これは……愛を否定する力。コレナガが危ないわ!」小林が叫ぶ。
「アンチ・ラブ・バースト!!」
仮面の男が杖を掲げると、漆黒の雷鳴がコレナガを襲った。
鍛え直し始めたばかりのコレナガのオーラは、無慈悲な虚無の力によってかき消されていく。
「がはっ……! 汚らわしい……。お前たちのような奴らに、俺の魂を渡してたまるか……!」
絶体絶命の危機。コレナガの瞳が闇に飲み込まれようとしたその時、ビルの屋上の扉が豪快に蹴破られた。
「そこまでよ、無趣味な連中!!」
ピンクのリュックを背負った大亀、風に舞うシルクを纏った小林、そして全身から黄金のフェロモンを放つヒロミチが、コレナガの前に立ちはだかった。
「コレナガさん、待たせたね!」
ヒロミチの拳が、アンチゲイ団の闇を照らし出す。
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