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キンモクセイは夏の記憶とともに  作者: 広崎之斗
変わりゆく日常
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変わりゆく日常(4)

「悠人はどうするの?」

「あー……どうしよう。おなかは空いてないから……このフルーツティーで」

 全員のオーダーが決まったことで慎二が店員を大声で呼んだ。

 ぼんやりとしていたことに悠人は軽く頭を振って我に返る。

 外の暑さにやられでもしたのだろうかと思いながら、出された水に口をつけた。


「なんだか面白い組み合わせだねぇ」

 発端である香瑠が言うと、慎二は強く頷く。

「まさかこんなことになるとは思わなかったね」

「俺が一番びっくりしてるわ」

 そういうのは純一だった。

「だからやっぱ外に行くの正解だったじゃーん。あ、こいつね、暑いから出たくないし、昼飯いらないって言ってたんですよ。朝もろくに食べてないのに」

「うっさい」

「朝食べてないなら、昼ぐらいは食べた方がいいよ」

 悠人が言うと純一は肩を竦めた。


「根を詰めると食べなくなるタイプですかね」

 晴樹が問うと純一は頷いて晴樹の方に身を乗り出す。おのずと純一の身体が悠人に当たる。

「そう。そっちのほうが集中できる気がするんだけど、小説書く人とかはその辺どうなの?」

「時と場合によりますよねぇ。やってる作業によるっていうか。食べた方がいいときもあるし。あーでも俺の場合は睡眠不足はダメなんで、そこだけは死守してますよ」

「あー、それは俺も同じかも」

「ねぇ、ちょっと離れろ」


 純一の肩を押し返して、悠人は小さく呟いた。

「あ、ごめん」

 くっつきすぎたことには素直に謝って、純一は少しだけ隙間を空けるように隅っこに寄った。

 その様子を眺めながら香瑠は何か思いついたように声を上げる。

「あ、前に六條さんが好きな子がいるっていってたの、彼のこと?」

「ふぁ」


 思わず変な声を上げて純一が慌ててテーブルに身を乗り出して人差し指を立てるが、慎二がとなりで「そうなの」と肯定する。

「あー、なるほど。なんかずっと好きな人がいるってのは聞いてたけど、なるほど」

「な、なんですか、その、なるほどって……」

 悠人はじっとこちらを見つめる香瑠の瞳に居心地の悪さを感じた。

 だが悪意はないのは分かる。ただ、なんとなく居心地が悪い。


「んー、色々世話になったからぁ?」

 晴樹と悠人が注文していたドリンクが先に運ばれてきた。

 食事はしていたので、飲み物だけのオーダーにしていた分、早く持って来てくれたようだった。

 残る三人にはセットのサラダが配られる。

 各々手をつけはじめると、会話は一瞬途切れていた。


「そうだ、さっきも話ちょーっと聞こえてたんですけど。小説家なんですよね?」

 慎二がそう問うと、晴樹は頷いた。

「食べるには困らずですけど、残念ながら看板作品ってのがまだないんですけどねぇ」

「いやーでも何か創るって大変じゃないです? 俺たちもクリエイターなんていうけど、デザインって結構勉強でなんとかなるっていうか、力業なところもあるっていうか」

「小説も同じですよ。結局は自分が読んできたもの見てきたものが根底にありますし。だから今日も、映画見に行くのに付き合ってもらってたんで」


 そう言って悠人の方を手で指し示す。

 学生の時から悠人は晴樹に付き合って映画に行くことはよくあった。コレといって特筆する趣味がなかったからこそ、映画鑑賞はちょうどいい趣味になっていた。

「晴樹は映画に詳しいんですよ。それで、学生時代から色々見に行ったり、見せてもらったり。今は配信もあるから、色々おすすめ教えてもらったのを見てるんですけど。まぁ、こいつは見る量が半端ないと思いますよ」

「それはまぁ、そういう仕事してる人達ってみんなそういうもんじゃない?」

 サラダを一口食べた香瑠が言った。

「なんだっけ。みんなインプットが大切って、よく言うじゃん? それでしょ?」

 慎二の方を向いて香瑠が問うと首肯した。

「まぁインプットっていうと、純一も結構なもんだと思うけどな」

「は? 俺?」


 突然に矛先が向かったことに驚いた純一は、隣の悠人を見た。思わず同じように見つめてしまった悠人は目が合う。

 ドキリとするが、今の話題については答えを持っていない。

 首を傾げて慎二に視線を逸らした。


「そうなんです?」

「そうですよとも。学生時代も、仕事始めてからも。仕事ももちろんだけどインプットの量は半端ないっすよ。メディアもそうだし、展覧会とかに行くのも忙しい合間をぬっていくし。そういう情報をキャッチするのも早いっていうか、量が半端ないっていうか」

「それはすごい、体力勝負じゃないです?」


 晴樹が感嘆の声をあげる。

 彼はものは違えど、同じように様々なものを見てインプットすることが大切だと昔から言っていた。そういう職なのだとも。

 だから純一の行動は分かるところもあるし、だがそれがどれだけ大変かもよく分かるはずだ。


「まぁ、体力勝負っすね」

 純一が認めると香瑠が意味ありげに声を上げた。

「ふーん。やっぱ、本当に全部彼の為だったんだ」


 そして視線が悠人に向かう。

 その言葉と視線に何も言えないまま、悠人はフルーツティーのグラスに手を伸した。

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