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キンモクセイは夏の記憶とともに  作者: 広崎之斗
変わりゆく日常
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変わりゆく日常(3)

 晴樹が言う店というのは、悠人の勤め先の方向だった。確かにあの辺りは雑居ビルが建ち並びショップも多い。

「だから偶に冬真さんの店行く時に寄ってる店ってのが、ソコ」

「あーなるほど」

 悠人の勤め先が変わった時、晴樹はすぐに顔を出した。その時にも、近くに行きつけの店がある、と話していた記憶が朧気にあり、点と点がつながる。

 何度かそうやって立ち寄ってくれたことで、晴樹は冬真といつの間にか意気投合してゲーム仲間になっている。

「ここなんだけど」

 そう言ってたどり着いたのは、路地の角にある半地下の店だった。

 近くにはこの辺りで一番大きなビルがある。大手の企業の持ちビルらしく、そこの社員が店に来ることも多い。

 そして店の方はコンクリートの階段を降りると小さいフロアがある。が、入口には「close」と書かれた札が下げられていた。

「休みなんじゃない?」


 悠人がそう言うと、晴樹は中を覗き込みながら「そんなことはないはず」と呟く。

 手を振りながら中を覗き込んでいると、誰か人影がこちらに向かってきた。

 ドアが開くと、明るい金髪に細身の男が顔を覗かせた。

 印象的に間延びした声が晴樹の名字を口にした。

「ああ、宮本さん。悪い、これから昼行くところでさぁ」

「あー、お昼かぁ」


 時刻としては昼を過ぎているものの、店としては確かに時間がずれることは多々ある事だ。

 販売系も大変だな、と思いながら、晴樹と店員が話をしているのを横目に、悠人は空を見上げていた。

 昼が過ぎると太陽は徐々にさがっていく。夏の日射しがまだ残る時期、その陽はまだまだ明るい。

 だが確かに、日暮れは早くなっている。もうすぐ秋がくるのかと思うと、次のメニュー開発のためにキッチンが色々試行錯誤する季節だなとボンヤリと思考を巡らせていた。

 その時だ。


「あれ、悠人?」

 聞き慣れた声がして、後ろを振り向くと純一がいた。

 その後ろには、最初に店に来たときに一緒にいた慎二がいる。二人を見て悠人は驚いて目を丸くして声を上げた。


「なんでお前がいんの?」

「なんで悠人がいるの?」


 互いに異口同音に言ったところで、話をしていた晴樹と店員も二人の方を振り返る。

 ついて来ていた慎二は、こちらを向いた店員に向かってぶんぶんと手を振る。


「あ、連れが来たわぁ」

 店員がそう呟くが、晴樹は悠人と純一を見て眉根を寄せた。

「え、もしかして、その人が言ってた……幼なじみ?」

 小さな晴樹の声に悠人は振り返ってうなずいた。


 ※


 どうしてこうなったのだろう。

 連れてこられたレストランは、すでにランチ営業終了間際のラストオーダーの時間だった。

 行きつけらしい慎二が無理を承知で、と両手を合せてお願いすると、大袈裟だと笑いながら店員はメニューを二つ持ってきた。

 一つはラストオーダー間際のランチ。一つはこれから始まるスイーツ系のメニューだった。

 悠人は隣をちらりと横目で見た。

 隣りに座っているのは純一である。その向かいにはあの店員と慎二が。そしてテーブル席に無理矢理くっつけた形で、椅子を持って来て座っているのが晴樹だった。


 店の前で会った二人は店員――田所香瑠(かおる)と昼に行く予定だったという。

 偶然のことに純一は口を開けて驚いた顔をして停止した。

 悠人も同じく突然のことに驚いていたが、その後ろに居た慎二と目が合うと思わず会釈をした。

 そうして、眠たげに香瑠が提案した、「全員で店に行けばいいんじゃん」という話で今に至る。

 香瑠の言い分としては、そのまま店に戻れば晴樹が店を見ることも出来る。晴樹のほうも目的はそこにあったので異論はない。

 悠人は特になにもなかった。この後の予定も晴樹との予定が終わったら純一と会う約束だけだ。その間には特にないので別段問題はない。

 純一は昼を食べたかったので問題はなく、むしろ悠人が居るならそれは嬉しいとばかりの瞳が見てきてイヤとは言えなかった。

 結局香瑠の提案に乗る形になり、始めて会う者もいる中、店へと向かうことになった。


 歩いて店に向かう最中、悠人に声を掛けてきたのは慎二だった。

 いつの間にか隣りにいた。

「こんにちは、お店以来です」

「この間は、どうも。また是非来て下さい」

「行きます行きます。っていうかマジでテイクアウト? お願いしたいんですけど。電話とかで注文とかアリです?」

「ああ、そっちの方が早く渡せますよ」

「マジ夜食べるもんなさ過ぎなんすよ、あのコンビニ」


 店の話を出してきたからか気軽に話が弾む。

 これから行く店は店とは反対側なので悠人にとっては未開拓の店が多い方向だった。

 そう告げると、慎二は今、この辺りの店をアレコレと開拓中であるという。そしてその一つがこれから行く店で、ランチのメニュー制覇目前なのだという。


「でもやっぱ季節物のメニューってあるでしょ? 夏物がもうすぐ終わっちゃうから、気に入ってるの食べたくて。もうそろそろ食べ納めっぽいから」

「あー、確かにそうですね。そろそろ食材も変わってきますから」

 そんな風に話をしていながら、チラリと後ろを見た。


 純一から話しかけたのか、晴樹は大学時代の友達だと言って名乗っていた。

 そこで職の話をすれば、おのずとその話になる。

 問題なくと言うべきか、互いの職の話をしながら悠人達の後ろを歩いている。

 そしてこの四人の先頭を率いていた香瑠は、相変わらず間延びしたしゃべり方で悠人に話しかけてきた。


「お店って、神木さんのところですよねぇ」

「あ、はい。え、来られたことあります?」

「偶に行ってますよぉ。昼ばっかだから、お兄さんのこと何回かしか見たことないですけどぉ」

「え、本当に?」

「うん」


 歩きながら細い金糸がふわふわと揺れる。

 細い身体の線と雰囲気で彼がΩだろうとは想像できた。

「あと神木さん、ゲーム仲間だから」

「……あの人マジどんだけゲーム仲間いるんですか」

 歩きながら慎二が少し顔を近づけ、声を落として囁いた。

「ところで、この前あのレストラン行ったんですか?」

「え? あー……はい」

「半ば拉致られて」

「ら……まぁ、そうっすねぇ。でも、あのお店は凄くよかったです。二人で作られたんでしょう?」

 悠人も思わず小声で答えると、チラリと香瑠が振り向いた。

 その目を見て、悠人は反射的に慎二を見やる。


「まぁ、大変だったけど、楽しかったッスよ。イヤやっぱ大変だったけど」

 笑いながらそう答えた慎二の顔を見ると、彼が本当に仕事が楽しいのだろうことは伝わってきた。

 アシメントリーの前髪は、この前店に来たときの記憶と異なる。服装もシャツに半パンにサンダルという体ではあるが、一応ジャケットを着ている。なんとも不揃いな感じがするが、それを着こなせている感じは確かにある。

 不揃いこそがこのファッションなのだ、と言われたら納得してしまう。

 純一と真逆そうだと思ったが、だからこそ仕事ではちょうどいいのだろうか。

 どういう経緯で二人が組むようになったのかの詳細は分からないが、お互いに真逆だからこそ仕事をこなす上ではプラスになるのかもしれない。

 そんなことを考えていると、慎二がもう一つ言葉を囁く。


「今日の約束、めっちゃ楽しみにしてますよ、アイツ」

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