始動と敗北と夜明け
夜ふけの紅魔館。日はまだ昇っておらず、辺りを闇と静寂が支配している。
美鈴は素振りをしながら周囲に気を配っている。
例の人里を妖怪が襲った騒動のあと、幻想郷の各地で同じような事件が起こっていて彼女も普段より真剣に門番をしていた。
そこへ赤を筆頭とする五人が現れた。
「こんな時間に悪いな。ここのお嬢ちゃんに会わせてほしいんだがね」
「申し訳ありませんがお通しできません」
美鈴からすれば初対面の人間五人だ。彼女は即座に外来人と判断し突っぱねた。時々興味本位でここを訪ねてくる人間がいるのだ。
「そんなこと言わずに。なんとか頼むよ」
ここまでは事務的に対応していた美鈴。侵入者にカウントしたようだ。
「あのですね。外来の方にはピンとこないかもしれませんが、こう見えても私は妖怪ですよ? お引き取りいただけないなら実力行使といきますが」
「それは困ったな。そうだ、じゃあ俺と相撲でもとらないか。紅毛の姉ちゃんが勝ったら俺たちはとっとと帰るからさ」
ただの人間にここまで馬鹿にされたのは初めての経験で、さすがの美鈴も頭にきてしまった。
「力自慢の私に相撲で挑むとはハンデになってしまう気がしますがいいでしょう。ちょうど体を動かしたいと思ってたところです」
美鈴にとっては侵入者退治というより暇つぶし。
おおよその土俵を決め、赤と美鈴が向かい合った。
「紅魔館の門番、紅美鈴。紅の名を持つ者としてあなたに打ち勝ちます!」
「そいつはいい。俺は赤。同じく赤の名を持つ者だ」
「はっけよい! のこった!」
行司を務める青の合図で二人が激突した。いや、それは正確ではなく、勝負は一瞬でついた。
その場から弾き飛ばされ紅魔館の塀に頭からめり込んだ美鈴はそのまま動かなくなった。
「セキュリティが甘いな。ここんちも警備会社と契約したほうがいいんじゃないか?」
指さえ触れずに美鈴を倒した赤。四人を従えて紅魔館内部へと進んでいく。門番を突破した今、妨げるものはない。
「初めて見たときから思ってたッスけどこの幻想郷の和風な世界観に似つかわしくないッスね」
装飾品を眺めながら黄がぼやいた。
「それ。私も思ってましたよ! あれですね、ここの主はセンスがないんですよセンスが」
緑も同調した。
第三の声が割って入った。
「まったく。無粋な侵入者に言われたくないものです」
廊下の角から咲夜が現れた。美鈴が突破されたことは妖精たちによって迅速に伝えられていたらしい。
「美鈴を倒したのは認めますが私に出会ったしまったのが運のつきね。血迷った暴漢として処理させていただきます」
銀髪の三つ編みを揺らして五人の前に立ちふさがった。
「血迷った暴漢は勘弁してくれ。俺たちは正々堂々と侵入者を全うするつもりなんだ。アキバが霞むようなメイドコスも悪くはないが俺たちは館の主に用がある。通してくれよ」
赤が美鈴と同様に説得に臨む。
「通すなんて言うわけがないでしょう。手荒なことはしたくないけど痛い目を見てもらいましょうか!」
床を蹴り壁に張り付いた咲夜。隠し持っていた銀のナイフを五人に投げつけた。
スペースのない廊下にも関わらず五人とも難なくかわし、代表して赤が咲夜に向かっていった。
「丸腰で私に勝てるとでも?」
「勝てるから戦うんだ」
今度は直接ナイフで刺そうとした咲夜だったが、動作に入る前に吹き飛ばされて窓から外へ落ちていった。
五人は割れた窓から外へ飛び降りて咲夜を追っていく。
庭の噴水に落ちた咲夜だったが水を滴らせて立ち上がった。
「なかなかやるみたいね。でも、お嬢様のところへはお通しできませんわ!」
「大層なことを言ってるがあんたは俺一人でじゅうぶんだ。まずは俺を倒してから偉そうな口をきくんだな」
咲夜の眉がつり上がった。
「奇術【エターナルミーク】!」
スペルの詠唱とともに高速の弾幕が大量にばらまかれ、赤を襲った。
これにはたまらず、赤は彫像の陰に隠れてやり過ごした。
「隠れても無駄よ。これは弾幕ごっこじゃない。私は本気で貴方たちを倒す所存ですから」
「ぜひそうしてみてくれ」
陰から混ぜっ返されさらにこめかみを震わせる咲夜。
「もう容赦はしない。幻在【クロックコープス】!」
再び大量の弾幕が赤に襲いかかるも先ほどの要領でかわされる。庭園にある障害物をうまく使い赤は咲夜との距離を詰めた。
「芸がないな」
「そんなこと言ってる余裕がありますかしら?」
次に赤が気がついた時には周囲をナイフで囲まれていた。
「何だと!?」
「私の『時間を操る程度の能力』。応用すればこんな種無し手品も簡単にできるってわけ。さぁ、終わりにしましょう」
咲夜の合図でナイフが一斉に動き出して赤に突き刺さった。
その様子をただ見ているだけの四人。咲夜は次に彼らを相手取ろうと身構えた。
「さっきの彼は親分さんかしら? 筋はよかったけど。次の挑戦者は誰?」
桃が咲夜をせせら笑った。
「彼は親分じゃないし、次の挑戦者もなにもそっちの負けよ」
彼女は咲夜の後ろを指差した。
「何を言って、ん!?」
背後に立っていた赤が咲夜が振り向く前に彼女を倒した。美鈴の時と同じように館の壁に叩きつけられた咲夜は驚異的な体捌きで何とか受け身をとったがダメージが大きく、動けない。
「時を止めるって厄介な力には違いない。だが能力を過信しすぎたな」
赤は倒れた咲夜を脇へ移動させ、館のほうへ呼び掛けた。
「お嬢様とやら。もうあんたを守る盾はない。さっさと出てきたらどうだ?」
「言われなくてもそのつもりよ」
館の玄関が内側から弾け飛び、レミリアが現れた。それと同時に館の屋根にとまっていた烏たちが彼女から殺気を感じて一斉に飛び去った。
赤が冷やかした。
「門番とメイドがやられるのを黙って見てるというのはさすがに冷たくないか?」
「私が相手をするのは彼女らを倒した奴だけ。それが主というものよ。さて、好き勝手やってもらったみたいね。覚悟はできてるかしら?」
瓦礫を蹴飛ばしてレミリアが身構えた。
「もちろんだ。ただ、そっちにその時間はないみたいだな」
赤の言葉を無視するレミリア。
「夜が終わっても本気で殺すわよ」
何も持っていなかったはずのレミリアの手に深紅の槍が握られた。
「神槍【スピア・ザ・グングニル】!」
多少変則ではあるがこれもスペル。避ける暇を与えず槍は真っ直ぐに赤の腹を貫通した。
「吸血鬼を舐めると高くつくわよ」
「いや、そうでもないみたいだ」
赤は腹に刺さったグングニルを握ったまま東の空を指差した。
まさに太陽が顔を出したところで、紅魔館の庭にも一条の光が差してきた。
「私たちの弱点はたしかに日の光。でもこの程度じゃそっちが先に音をあげると思うけど?」
その途端赤の体が強い輝きを放った。これにはレミリアもたまらない。
「どんな仕掛けか分からないけど日光を増幅させて直接浴びせるとは考えたわね。で、でももう立ってるのがやっとのはず、よ」
レミリアはぐりぐりとグングニルを捻りだめ押しをした。
「それじゃ、第二段」
噴水の水が物理法則を無視して浮かび上がり、レミリアに降り注いだ。赤はグングニルを引き抜いてレミリアを押し退けた。
赤を睨み付けていたレミリアだったが、太陽が完全に昇るとともに精魂尽きてついに崩れ落ちた。
「吸血鬼が史実通りで助かった。日光と流水の二重苦は堪えるだろう」
赤は水浸しのレミリアを抱え、日の当たらない館の内部へと運んだ。
「さて、紅魔館は概ね制圧した。次からは各自で動くことになるぞ」




