妖怪と少女と技
魔理沙は迫る妖怪の群れと対峙していた。いきなりぶっぱなす霊夢と違いまずは住み処へ戻るように促す。
「おーい! 何をしようとしてるのか知らんがさっさと帰れー」
呼び掛けるも応答がない。話どころか言葉も通じていないようだ。
良くも悪くもノリがいい幻想郷の妖怪たちは異変に乗じて騒いだり暴れたりすることはあるが、今回は違う。いつもなら目を爛々と輝かせて向かってくる彼らに生気が感じられなかったのだ。
迫る牙や爪の攻撃をかいくぐり、魔理沙は箒で上空へと舞い上がった。
(様子がおかしい。操られているのか……?)
疑問に思った魔理沙だがここはとにかく敵を退けなければならない。懐から八角形の装置を取り出し、構えた。ご自慢のスペルカードの詠唱だ。
「魔符【ミルキーウェイ】!」
見栄えに気を遣っている魔理沙のスペルのなかでも特に派手な逸品。星形の弾幕が天の川のように渦を起こして次から次へと敵に襲いかかる。
野良妖怪もこれにはひとたまりもない。片っ端からバタバタと倒れていった。
「恋符【ノンディレクショナルレーザー】!」
こちらは三方へレーザーを発射するというスペル。ミルキーウェイをかいくぐった妖怪たちをまとめて吹き飛ばす。手数の多い魔理沙らしい攻撃スタイルといえる。
「よーし、さすが私! 次の異変はいただきだな」
その後もスペルを容赦なく撃ちまくって妖怪を全て蹴散らした魔理沙は満足げに頷いた。
妖怪たちの様子がおかしいことは気になったが本来の能力を越えたことはしてこなかったので対処はさほど大変ではなかったことはひとまず幸いだった。
さんざんボコボコにされたことで妖怪たちも目が覚めたとみえて一目散に逃げ帰っていった。
「片付いたみたいね」
ちょうどいいタイミングで霊夢がこちらへやって来た。その後ろには早苗。二人も無事に退治を終えたようだ、
「ケリがついたのはいいんだが、あいつらは何なんだ? 異変でもないし、わざわざ紫に目をつけられるようなことをするなんてわけがわからないぜ」
早苗も魔理沙に同調した。
「倒した妖怪たちから話を聞いたんですけど、急に頭がぼうっとして気がついたら人里を目指していたそうです。人間たちに申し訳ないことをしてしまったと言ってましたよ」
妖怪は人間を食うが、人里を直接襲うことはしないのが一応のルールだ。不本意にせよそれを破ってしまったことについて負い目を感じているのだろう。
「じゃあ何? 妖怪たちは操られてたってこと?」
霊夢が指をポキポキと鳴らす。下手人を吊し上げかねない勢いだ。
かつての対決を思い出した早苗は冷や汗を拭った。こうなった霊夢は本当に恐ろしいのだ。
「嘘を言っているとも思えませんでしたし……そうなると誰がのんなことをしたんでしょうか」
生憎ここは幻想郷。摩訶不思議な能力を持つ者などそこら中にいる。しかしこんなことをしそうな輩に彼女たちの心当たりはなかった。
「ここで話してても仕方ないし、他の人たちと合流しない? 何か見たりしてるかもしれないし」
霊夢の一声で彼女らは人里の中心部へと移動することにした。
***
「いやはや、思ったよりやるみたいッスね」
黄は腕組みをしながらすごすごと帰っていく妖怪たちを見つめていた。
霊夢、魔理沙、早苗の三人の戦いぶりを見てトラブルシューターへの認識を改めた彼は自分が常識から外れた世界にいることを痛感した。
そこへ反対側の様子を見に行っていた桃と緑がふわふわと舞い戻ってきた。
「黄、あっちの妖怪もみんなやられたってさ。ヤバい相手かも」
「私も見ていて思ったんですけどあの夢想なんちゃらのような術について考える必要があるのは間違いないですね。仕組みは分かりませんけど対策がないと……」
緑は頭をかいた。
「むこうでは投げナイフのメイドさんと頭突きのおねーちゃんが暴れてたよ。体術が脆いってわけでもなさそうだね」
これは霊夢たちとは違う入り口で気張っていた咲夜と慧音のことだろう。
「はあ。バケモンじゃないスか……まるで漫画やアニメの世界ッスね」
しかしどんな集団にも頭のきれる者はいるとみえる。
「それなら問題ない。さっき俺と青で計画を練った」
「赤さん!? ホントですか」
リーダーの男、赤に策があるらしい。
「ここ数日で幻想郷の勝手も分かってきたからな。明日の日の入りとともに最初の作戦を決行する。なあに、敵もやるみたいだがスペックならこちらに分がある。幻想郷を落とすことも容易い」
「それはいいんだけどさ。つまり私たち五人でその霊夢とかいうのをシメるってこと?」
「いや違う。詳しいことは作戦の直前に説明するさ」
ここで赤は周りを見渡した。
「それはそうと、どうやら俺らの侵入に勘づいているヤツがいるらしいな。なんでも妖怪の賢者を名乗る大物だとか」
「なるほど。そこまでは気がつかなかった。ならば動くまでは見つからないに越したことはない」
青が頷いた。
妖怪の賢者、すなわち紫のサーチを掻い潜ることが今の彼らの至上命題であることは明らかだった。
人里を背に五人は再び姿を消した。




