紫と藍と結界
今回は短め。1話を殺さないためのお話です。
八雲紫といえば幻想郷でも名高い大妖怪だが、神出鬼没の彼女が普段どこで過ごしているのか知っている者は非常に少ない。
「ふぅ。思ったより妖夢ががんばったわね。霊夢のが先に来ると思っていたのだけど」
「それは……まあ」
たった今紫と藍がその住まいに帰って来た。幽々子のいる冥界からここまでは決して近くないのだが、紫の能力を前にして距離は意味を持たない。
「それにしても紫様。どうして急にこんなことをお考えになったのですか?」
藍からすれば朝から本気の妖夢と一戦交えさせられた理由くらいは聞いておきたいところだろう。保険なんて幻想郷には存在しない。
「まあ、藍には言っておいたほうがいいかしらね。実は昨晩のことなのだけど。幻想郷に外の世界から人間が紛れ込んだのよ」
幻想郷と外の世界は結界によって隔てられているが、稀に外の世界から人間が幻想郷に入ってきてしまうことがある。
「それがどうかしましたか?」
「普通なら私もそこまで気にすることじゃないんだけど。今回は5人まとめて入ってきたうえにその足取りも掴めないの」
基本的に迷いこんだ人間は、霊夢や紫の手によって外へ帰されるか妖怪に食われるかのどちらかだ。
いずれにせよ外来人は何らかのかたちで処理される。しかし今回は紫たちが発見すらできていない。これは異常なことだ。
「そもそも外の世界の人間は幻想郷の存在そのものを知らない。なのに姿を隠そうとするほど幻想郷について通じているのだとしたらそれは脅威になりうるのよ」
「だからあんな狂言をして彼らの気を引こうとしたんですね。その混乱に乗じて何かしでかすのではないか、と。幾分お粗末な計画な気もしますが」
「理解が早くて助かるわ」
紫は薄く笑った。藍と長く付き合ううちに考えを共有できるようになったことにささやかな喜びを感じたのだ。お粗末は余計だが。
「だとしたら他の勢力にも伝えた方がいいんじゃ……」
「私もそれは考えた。でもまだね。そもそも相手が何者かも分からない。ここは私たちだけで動きましょう」
「そうですね」
式である藍は基本的にイエスマン(藍は女性だが)。紫に逆らうことはほぼない。
「それにしても霊夢はなぜ気づかなかったのですか?」
「うっ……」
魔理沙からもらった笑い茸を食べてそれどころではなかったから……とはとても言えまい。
妖怪の賢者はその頭脳を駆使して適当な言い訳を探った。




