人里と風祝と五人
幻想郷に住む人間の大部分が暮らしている場所。いわゆる人間の里である。明治期の集落に見られた木造建築と大勢が集まる場所特有の活気が印象的だ。
幻想郷における重要なルールとして『妖怪は人間を襲い人間は妖怪を退治する』というものがある。人里はその例外で人妖が馴れ合う場所としての機能を果たしている。
そこかしこで妖怪が好き勝手に人間を襲っていたら妖怪退治の力を持たない部類の人間は全滅してしまうし、そうなればいずれ幻想郷から人間という種族そのものが消えてしまう。
それを未然に防ぐために用意されたのが人間の里というわけだ。人間が安全に暮らせる場所を作るというだけでなく、妖怪にとってもメリットがあるのだがそれはここでは割愛する。
ここまでの説明ではルールを破る妖怪の存在が不安視されるかもしれないが心配ない。絶対的存在である妖怪の賢者がこの里を保護しているのだ。
***
「えっと。あとはお豆腐っと……」
買い物メモを片手に人間の里をゆく緑の髪の少女。霊夢と似た脇を露出した衣装を纏った彼女は東風谷早苗という。
早苗も霊夢や魔理沙と同じトラブルシューターなのだが普段は妖怪の山に位置する守矢神社の風祝、言ってしまえば巫女をしている。出身は外の世界なのだが事情があって幻想郷にやってきた。
思い込みが激しいところもあって、かつて霊夢の博麗神社を危険視して戦いを挑んだこともあったが現在はすっかり幻想郷に馴染み、もとからいた人妖たちとも比較的うまくやっているようだ。
「咲夜さんじゃないですか! 奇遇ですね」
同じく買い物に来ていた咲夜とばったり出くわした。
メイドルックに買い物袋を提げている咲夜。牧歌的だ。
「あら、あなたも買い出し? 神社からわざわざご苦労なことで。神のもとで勤めるっていうのも大変ね」
この咲夜の言葉は比喩ではない。博麗神社と違って守矢神社には目に見える神が二柱いる。
「それは咲夜さんも同じでしょ。それより聞きましたよ、今朝の幽霊騒動。私も呼んでくれればよかったのに……」
「あんたがでしゃばると私の出番がなくなるのよ」
早苗が幻想郷にやって来てからというもの咲夜は幾度となく異変解決に乗り遅れている。レミリアの命で異変解決に挑んでいる彼女も少しは気にしているのだろう。
咲夜、妖夢、早苗の三人は今でこそトラブルシューターだがかつては異変に加担し霊夢に退治された経験がある。咲夜としては先輩だという自覚があるのだ。
「それにあれはスキマ妖怪が仕組んだ狂言。行っても意味がなかったと思うけど?」
早苗はやれやれと肩をすくめた。外の世界出身者に特有の芝居がかった仕草だ。
「なぁんだ。そうだったんですか……最近平和続きですしそろそろ何かこう、ドーンと起きないもんですかね。私も腕をふるいたいです」
「あなたが言うと本当になりそうね」
世間話を終えて二人はそれぞれの買い物に戻った。
***
「なるほど、あれが十六夜咲夜と東風谷早苗か。奇抜なファッションに目を瞑ればよくいる年頃の娘だなありゃ」
人里にある空き家の二階。博麗神社の裏山に現れた集団の一人が潜伏していた。
リーダー格の男は外で立ち話をしていた二人に興味をもったようだ。
「奴らを含むトラブルシューターには用心しないとな」
突然部屋に姿を現したもう一人が言った。一応彼はサブリーダーの立ち位置らしい。
「そのことなんスけど……」
一人がおずおずと手をあげた。彼もいつのまにか部屋に現れていた。
「どうやらこの幻想郷にはトラブルシューター以外にもいくつかの強い組織、というより集団がいるみたいッス」
「集団って?」
また女が一人。姿を現したり消したりというのは異能によるものだ。
「あるリーダーのもと集まった勢力ッス。吸血鬼やら魔法使いやら面倒な奴らのもと、各拠点で団結しているとか」
「つまりそれらが計画の障害になると?」
「そうッス。俺の調べによると紅魔館、白玉楼、永遠亭、守矢神社、命蓮寺が特に権勢を誇っているらしいッス。人里の住人からもよく認知されていましたッス。俺らの幻想郷での計画を知ったら確実に邪魔してくるッスね」
彼はそのままそれぞれの拠点を床に地図を広げて説明してみせた。
「ここからだとこの命蓮寺ってのが一番近いッス。あと、地底にも妖怪どもの勢力が存在するらしいッスね」
「とにかく厄介な勢力を潰していくことになりますね!」
最後の女が現れ嬉しそうに言った。丁寧な物言いとは裏腹に好戦的なようだ。
「どうするんだ? 各勢力にカチコミをかけるという段階ではないと思うが」
「なあに。時間はたっぷりある。焦らずいこう」
リーダー格の男の一言とともに五人は再び姿を消した。
咲夜は早苗に出番をとられることをなんだかんだ気にしていそう。




