侵入者と酒と鬼
お待たせしました。
幻想郷は霊夢が管理する博霊大結界によって外の世界、つまり妖怪変化や神などの存在が非科学的なものとされる世界と隔離されている。
故に外の人間が幻想郷に観光に来ることはないし幻想郷の人妖が外へ私用で出ていくこともない。
しかし例外もある。結界に不具合が生じて両者の間に僅ながらリンクが生まれることが稀にあるのだ。
霊夢たちが幽霊探しに奔走する前日の夜。その稀が起きていた。
博霊神社裏手の山の頂上に男が一人、突然落下してきた。
「いって……どうだ? 成功か?」
腰をさすりながら立ち上がる。どうやら幻想郷の住人ではないようだ。
「あぁ。間違いない。幻想郷だ」
もう一人現れた。彼は着地をしくじらなかった。
「ふぅん。なかなかいいところじゃない」
「そうッスね」
さらに男女が一組。空中から吐き出されたのかのようだ。
「それにしてもついてますね。まさか今日だったとは」
また女が一人。これで五人だ。
「全員着いたな。じゃあ移動するか」
ところがそれを良しとしない存在が。
五人の前に妖怪が現れた。紫や藍などといった上級の存在とは異なる野良妖怪だ。
うなり声をあげながらこちらを睨んでいる。
人間を襲って食べることもある凶暴さで知られている。幻想郷の外から来た人間が特に被害に遭っている。
「ほー。これが妖怪ッスか」
「なんというか思ったまんまね」
「家に連れて帰りたいです」
「おいおい」
口々に感想を言い合う。
痺れを切らしたようだ。妖怪は久々に見つけた獲物を逃さぬと五人に襲いかかってきた。
「来るぞ! 肩慣らしといこうぜ」
普通ならここで五つの尊い命が別の一つの命の糧となったとするところだ。
しかしそうはならなかった。妖怪は五人に何かを仕掛けられ、その場に倒れ伏した。確認するまでもなく事切れているようだ。
乱入などなかったかのように最初に現れたリーダー格の男が残りの四人に語りかける。
「これより作戦を開始する。目標は幻想郷の制圧だ。文化の遅れている人間など相手にもならないが、注意すべきこともある」
なんと、こともあろうに幻想郷そのものを相手取ろうというのだ。
「いわゆる科学的根拠の無い存在ってやつだな」
もう一人が言葉を継いだ。
「そう。早い話がバケモンだ。どうやら人間のなかにもおかしな術を使ったりする奴がいるらしい。まずはそれを探る必要がある」
霊夢や魔理沙、咲夜などのように人間ながら不思議な力を持つ者もいる。しかし先ほどの妖怪をあっさりと倒したこの五人も只者ではない。
「するってぇと邪魔になりそうなのをピックアップしとくってことッスか?」
「そうだ。時間はたっぷりある。障害にはアタリをつけておいたほうがいい」
他に質問が出ないのを確認したのち彼は号令をかける。
「要はそれだけだ。ここからは各自で動くぞ。解散!」
次の瞬間五人の姿は跡形もなく消えていた。
「健闘を祈ります……」
消えた五人に向かってさらに別の声がしたが声の主の姿は見えなかった。
そしてもちろん、神社で大爆笑を続ける霊夢はそれどころではなかったのだ。
***
幽霊騒動を解決した霊夢。居間で昼食をとっていた。
「まったく……ヤラセなら巻き込むんじゃないわよ……」
文句を垂れながら玄米をかっ込む。働いた後の食事はよりいっそう美味しいというのが彼女の談。
「霊夢ー? いるかー?」
返事も聞かずに入ってきたのは魔理沙。そういえばしばらく姿を見なかった。
「幽霊なら紫と幽々子の共謀だってよ。あんたも文句の一つでも言ってきたら?」
しかし魔理沙は何故か上機嫌のようだ。
「いやいや、さっき行ってきたんだけどな。迷惑料としていい酒をもらってきたんだ。ちょっと飲んでみようぜ」
懐から酒瓶を取り出す。草書体で何か書いてある。
「昼間からお酒ねぇ……」
霊夢は気乗りしないようだ。本人曰く昼間から飲むほど酒に飢えてはいないとのこと。
「そうか? まあ私は遠慮なく飲むぜ」
「ちょっと待った!」
突然障子が開き、奥から少女が飛び出してきて魔理沙の酒瓶にしがみついた。
「この私を差し置いて酒盛りとは人間もなかなか度胸があるじゃないの」
霊夢や魔理沙よりもさらに低い身長に頭から生える大きな角。
「おお! 萃香じゃないか。最近見なかったがどこに行ってたんだ?」
魔理沙は大はしゃぎで萃香にヘッドロックをかける。
「うぐぐ、天界で宴会があってしばらくそこに、うぐぐ」
彼女は伊吹萃香。三度の飯より酒が好きなことで知られる。そして頭の角から分かるようにれっきとした鬼である。
霊夢はそんな二人を無視して食器を片付け始めた。
「あーあ。今回こそ異変かと思ったらただの暇潰しじゃないか。萃香ぁ、お前たちの仲間に異変を企んでる奴はいないのか?」
「そういう話は聞かないねぇ」
魔理沙は腕を振るいたくて仕方無いようだ。ことなかれ主義の霊夢とは正反対。
どさくさに紛れて魔理沙の酒をまるで水でも飲むかのような勢いで飲む萃香。肩にポンと手を置く。
「でも心配することはない。そろそろバカでかいのが来る気がするよ。幻想郷全体を巻き込むようなのがね」
これには無視を決め込んでいた霊夢も黙っていられない。
「あんたそれ本気で言ってるの!?」
「さあね。でも鬼の勘はけっこう当たるよ?」
来年のことを言ってもないのに萃香が笑った。
男三人女二人という編成になったのはこれを書いたのが日曜日の朝だからです。




