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美醜逆転世界の最弱お世話係 ~世界一醜いと蔑まれる最強美女たちに拾われた僕、なぜか全員から溺愛されています~  作者: 虹の箸


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8/19

同じスキルを重ねたら、レベルが上がった

「シッ!」

鋭く息を吐き、ショートソードを振り抜く。

刃がゴブリンの首筋を裂き、緑色の血が洞窟の床へ飛び散った。

「ギィッ……!」

ゴブリンが倒れる。

『ゴブリンを討伐しました』

『経験値を獲得しました』

『【捕食成長】が発動します』

来るか。

『能力抽出――失敗』

「……次!」

剣についた血を払い、僕は顔を上げた。

《始まりの迷宮》へ入ってから、どれくらい経っただろう。

スライム。

ゴブリン。

ポイズントード。

現れるのは低級魔物ばかり。

それでも、最初の頃とは明らかに違っていた。

「左!」

背後から師匠の声。

考えるより早く振り向く。

物陰から飛び出してきたゴブリンが、錆びた短剣を振り下ろしてきた。

ゾワッ。

【危険察知Lv1】。

危険が来ることは分かる。

でも、それだけだ。

避けるのは僕自身。

「っ!」

一歩下がる。

短剣が鼻先を掠めた。

怖い。

だけど、目は逸らさない。

相手を見る。

次の攻撃を見る。

ゴブリンが短剣を横薙ぎに振る。

さらに下がる。

空振り。

体勢が崩れた。

今。

「はっ!」

踏み込む。

ショートソードを腹へ突き刺した。

「ギャッ!」

ゴブリンが暴れる。

すぐに剣を抜き、距離を取る。

追わない。

待つ。

ふらつきながら、それでもゴブリンがこちらへ突っ込んでくる。

今度は正面から避ける。

すれ違いざま、首筋へ剣を振り抜いた。

ゴブリンが倒れた。

「ハァ……ハァ……」

『ゴブリンを討伐しました』

『経験値を獲得しました』

『【捕食成長】が発動します』

『能力抽出――失敗』

「またか……」

「何を落ち込んでいる」

師匠が歩いてくる。

「今の戦いなら及第点だ」

「本当ですか!?」

「最低限、だ」

「それでも嬉しいです」

師匠から初めて及第点をもらった。

ほんの数日前。

僕はダートラット一匹に噛みつかれ、地面を転げ回りながら短剣を突き刺していた。

今だって上手くはない。

剣筋も汚い。

師匠には毎日のように「才能がない」と言われている。

それでも。

昨日できなかったことが、今日はできる。

敵の攻撃が少しずつ見えるようになる。

自分の身体が少しずつ動くようになる。

それが――。

楽しい。

「行きましょう」

「休まないのか」

「まだ動けます」

「……そうか」

師匠が呆れたようにため息をついた。

僕たちはさらに迷宮を進んだ。


「ゲコ……」

「ゲロゲロ……」

少し広い空間へ出たところで、聞き覚えのある鳴き声が響いた。

「……三匹」

紫色の巨体。

ポイズントードだ。

一匹でも苦戦した相手が、三匹。

意識を集中する。


【ポイズントード】

【Lv:3】


二匹目。


【ポイズントード】

【Lv:3】


三匹目も同じ。

「どうする」

師匠が後ろから聞いてくる。

僕は剣を構えた。

「やります」

「一匹でも苦戦した相手が三匹だぞ」

「はい」

「逃げるのも戦いだ」

分かっている。

でも。

今の僕には、さっきまでとは違うものがある。

【毒耐性Lv1】。

それに――。

「無理だと思ったら逃げます」

「……なら行け」

三匹のポイズントードが一斉にこちらを向いた。

喉が膨らむ。

「来る!」

黄色い毒霧が吐き出された。

三方向から。

避けきれない。

僕は腕で口元を覆い、後ろへ走った。

毒霧が追ってくる。

皮膚がピリピリする。

喉も痛い。

でも。

前に受けたときより明らかに楽だ。

【毒耐性】が効いている。

だからといって――。

「突っ込むな!」

師匠の声。

ハッとする。

危なかった。

耐性がある。

だから毒の中へ突っ込める。

そんな考えが一瞬頭をよぎった。

違う。

【毒耐性】は、毒が効かない能力じゃない。

死ににくくなっただけだ。

「……焦るな」

自分へ言い聞かせる。

見る。

三匹。

一匹が毒霧を吐く。

二匹目が前へ出る。

三匹目は後方。

なら。

一匹ずつ。

僕は横へ走った。

追ってきた一匹だけを広い空間の端へ誘導する。

「ゲコォッ!」

長い舌が伸びる。

【危険察知】。

身体を沈める。

頭上を舌が通過。

その瞬間に踏み込む。

一撃。

浅い。

ポイズントードが後脚を振り上げる。

「っ!」

腕で受ける。

吹き飛ばされた。

「ぐっ……!」

痛い。

でも、立つ。

ポイズントードが追ってくる。

二度目の毒霧。

喉が膨らむ。

今。

横へ避ける。

吐き出した直後。

僅かな隙。

「はああっ!」

ショートソードを喉へ突き立てた。

「ゲッ……」

一匹目。

でも、休めない。

二匹目が来る。

「くそっ!」

剣を抜く。

横へ転がる。

舌が地面を叩いた。

三匹目まで近づいてくる。

二対一。

怖い。

息も苦しい。

腕も痛い。

それでも。

「……まだ!」

一匹ずつ。

焦るな。

見る。

生き残る。

師匠から教わったことを、何度も頭の中で繰り返す。

それからどれだけ戦ったのか。

最後のポイズントードの喉へ剣を突き刺した頃には、僕は全身を毒と泥まみれにしていた。

「ハァ……ハァ……ハァ……」

三匹目が倒れる。

膝が地面についた。

『ポイズントードを討伐しました』

『ポイズントードを討伐しました』

『ポイズントードを討伐しました』

『経験値を獲得しました』

そして。

『経験値が一定値に達しました』

『レベルが上昇しました』

「……よし」

身体の奥に、確かな変化を感じる。

でも、今欲しいのはそれだけじゃない。

『【捕食成長】が発動します』

来い。

『能力抽出――失敗』

一匹目。

『能力抽出――失敗』

二匹目。

「頼む……!」

三匹目。

『能力抽出――成功』

「よしっ!」

思わず拳を握る。

そして――。

『抽出能力:【毒耐性】』

「……え?」

同じ?

もう持っている。

まさか。

せっかく成功したのに無駄になるのか?

『既に同一能力を所持しています』

「そんな……」

肩を落としかけた、そのとき。

続きが表示された。

『同一能力を確認』

『統合を開始します』

「統合?」

次の瞬間。


『【毒耐性Lv1】』

    ↓

『【毒耐性Lv2】』


「…………」

何が起きた?

その答えはすぐに分かった。

「……あれ?」

さっきまで喉に残っていた焼けるような痛み。

皮膚の痺れ。

吐き気。

それらが急速に薄れていく。

消えたわけではない。

でも、明らかにさっきまでとは違う。

「……強くなってる」

自分のステータスを開く。


【毒耐性Lv2】


間違いない。

「同じ能力を……重ねられる?」

思わず呟いた。

ダートラットから手に入れた【夜目】。

フォレストスパイダーから得た【危険察知】。

そしてポイズントードから得た【毒耐性】。

一度手に入れたら終わりじゃない。

もう一度同じ能力を抽出すれば、強化できる。

だったら――。

【夜目Lv2】は?

【危険察知Lv2】は?

【毒耐性Lv3】は?

その先は?

どこまで育つ?

限界はあるのか?

分からない。

でも。

分からないからこそ。

「……すごい」

胸が高鳴った。

一匹倒して駄目なら十匹。

十匹で駄目なら百匹。

そう思っていた。

でも、違う。

百匹倒すことには、抽選回数を増やす以上の意味がある。

一度手に入れた能力まで育てられる。

「はは……」

笑いが漏れる。

「このダンジョン……」

低級魔物しかいないと思っていた。

でも僕にとっては違う。

「宝の山じゃないか……!」

立ち上がる。

身体は疲れている。

服も汚れている。

腕も痛い。

それなのに。

「師匠!」

「何だ」

「ポイズントード、他にいませんか?」

「…………」

「あと十匹くらい倒したいんですけど」

「休め」

「でも」

「休め」

「あと五匹」

「休め」

「三匹」

「アレン」

「はい」

「座れ」

「……はい」

大人しく座った。

師匠が額を押さえる。

「お前はどうしてそう極端なんだ」

「だって、同じ魔物を倒しても意味があるって分かったんですよ」

「それは分かったから休め」

僕は水を飲みながら、まだ考えていた。

次は何を育てよう。

どんな能力を手に入れよう。

この迷宮には、他にどんな魔物がいる?

もっと。

もっと強くなれる。


数歩離れたところで、セレスティアは座り込んだアレンを見つめていた。

「……まったく」

呆れるしかない。

戦いの才能は、やはりない。

三匹のポイズントードを倒すだけで満身創痍。

判断を誤りかければ、すぐに突っ込もうとする。

まだまだ危なっかしい。

だが。

数日前までダートラット一匹にすら命を懸けていた少年が、今は三匹の魔物を相手に最後まで戦い抜いた。

それは才能ではない。

経験。

レベル。

そして――本人の異常なまでの執念。

それらが少しずつ積み重なっている。

セレスティアは小さく息を吐いた。

そのとき。


――ズン。


「…………」

表情が変わった。

まただ。

前にも感じた。

微かな振動。

地震ではない。

長くハンターとして生きてきた直感が告げている。

これは――何か違う。

セレスティアは意識を研ぎ澄ませた。

迷宮の奥へ感覚を伸ばす。

しかし。

「……妙だ」

掴めない。

何かがいる。

それだけは分かる。

なのに、輪郭が見えない。

遠すぎるのか。

それとも――。

気配を隠している?

「師匠?」

アレンがこちらを見る。

「どうしました?」

「静かにしろ」

声の変化を察したのか、アレンがすぐに黙った。


――ズン。


今度はアレンにも分かった。

地面に置いた手へ、微かな震動が伝わってくる。

「……地震?」

「違う」

セレスティアが立ち上がった。

右手が剣の柄へ伸びる。

「師匠?」

「アレン。今日は――」

帰るぞ。

そう言おうとした瞬間だった。


「ギィィィィッ!!」


迷宮の奥から、ゴブリンの絶叫が響いた。

一匹ではない。

「ギャッ!」

「ゲコォッ!」

「ギィィィ!」

無数の鳴き声。

そして。

バタバタバタバタッ!

「……何?」

足音。

大量の足音が近づいてくる。

アレンが剣を構えた。

「魔物!?」

「待て」

暗闇の奥から、最初の一匹が飛び出した。

ゴブリン。

続いてスライム。

ポイズントード。

さらにゴブリン。

十匹。

二十匹。

もっと。

浅い階層に生息する魔物たちが、一斉にこちらへ向かってくる。

「師匠!」

「剣を下ろせ!」

「え?」

「こいつらは私たちを狙っていない!」

セレスティアの言葉通りだった。

魔物たちは僕たちに目もくれない。

横を通り過ぎる。

入口へ。

ただひたすら。

逃げている。

「…………」

僕の背中を冷たい汗が流れた。

ゴブリンが転び、仲間に踏まれても立ち上がる。

ポイズントードが壁へぶつかりながら走る。

スライムまで、不自然なほどの速度で這っていく。

全員。

同じ方向から逃げている。

迷宮の奥。

さっきまで僕が、

もっと魔物を狩りたい。

もっと奥へ行きたい。

そう思っていた場所から。

「師匠……」

声が震えた。

「何から逃げてるんですか?」

セレスティアは答えなかった。

剣を抜く。

初めてだった。

この迷宮へ入ってから。

師匠が、本気で武器を構えたのは。


――ズン。


今度は、はっきり聞こえた。

一歩。


――ズン。


また一歩。

何かが。

こちらへ近づいている。

セレスティアの青い瞳が、暗闇を睨む。

そして、低く呟いた。


「……アレン。私から離れるな」


さっきまで宝の山にしか見えなかった迷宮の奥が。


その瞬間初めて――僕には、巨大な怪物の口のように見えた。

お読みいただきありがとうございました。

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次回もどうぞよろしくお願いいたします。

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