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美醜逆転世界の最弱お世話係 ~世界一醜いと蔑まれる最強美女たちに拾われた僕、なぜか全員から溺愛されています~  作者: 虹の箸


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7/19

Fランクの僕、初めてのダンジョンへ

ギルドの重い扉を背にした瞬間、僕は大きく息を吸った。

冷たい外気が、興奮で熱くなった肺に心地いい。

胸元には、鈍色に光るFランクのギルドカード。

そして隣には、まさかのSランクだった僕の師匠。

準備は整った。

「師匠! さっそく魔物を狩りに行きましょう!」

「駄目だ」

即答だった。

「えっ」

「そのまま行く気か?」

セレスティアが僕の腰を指差す。

そこには森でずっと使ってきた短剣がある。

「抜いてみろ」

言われるまま鞘から抜く。

「……あ」

酷かった。

ダートラットやホーンラビット、フォレストスパイダーとの戦いで、刃はあちこち欠けている。

「そんな物で戦い続ければ、次に折れるのは剣ではなくお前の首だ」

「……はい」

「まず武器を買う」

セレスティアはさっさと歩き出した。

僕は慌ててその背中を追った。


大通りから少し外れたところに、その武具屋はあった。

扉を開ける。

カラン、と乾いた鐘の音が鳴った。

店内には鉄と油、それに革の匂いが満ちている。

壁には長剣、槍、斧、弓。

棚には革鎧から金属製の胸当てまで、見たこともない装備がずらりと並んでいた。

「おお……」

思わず声が出る。

「遊びに来たんじゃないぞ」

「分かってますよ」

「目が輝いている」

「だって、こういう店初めてなんです」

「……そうか」

セレスティアは店内を見回し、店主へ声をかけた。

「こいつに合う初心者用の剣と防具を」

カウンターの向こうにいた髭面の男が僕を見る。

上から下まで眺めて、眉をひそめた。

「……細いな、坊主」

「よく言われます」

「長剣はやめとけ。振り回されるのがオチだ」

店主が奥から持ってきたのは、飾り気のないショートソードだった。

「持ってみな」

受け取る。

「重っ……」

森で使っていた短剣とはまるで違う。

それでも、両手なら問題なく持てる。

片手で何度か振ってみる。

重い。

でも――振れる。

レベルが上がる前の僕だったら、もっと苦しかったかもしれない。

現在の僕はLv4。

筋力も6まで上がっている。

まだ人並み以下だと言われたけれど、それでも確実に以前の僕より強くなっていた。

「それ以上重い剣はやめておけ」

セレスティアが言った。

「今のお前なら、それくらいが限界だ」

「これにします」

「即決かよ」

店主が笑う。

続いて渡されたのは、中古の硬革製の胸当てだった。

何度も補修された跡がある。

でも、その分だけ値段も安いらしい。

「剣と合わせて銀貨三枚だ」

「銀貨三枚……」

ポケットへ手を入れる。

そして。

固まった。

「…………」

「どうした」

「師匠」

「何だ」

「僕、お金持ってません」

「知っている」

「知ってたんですか!?」

「昨日、私の金を受け取らなかっただろう」

そうだった。

街へ着いたとき、セレスティアから渡されかけた金は受け取らなかった。

当然、その後に収入なんてない。

つまり現在の僕の所持金は――ゼロ。

「…………」

ものすごく恥ずかしい。

すると。

チャリン。

銀貨三枚がカウンターへ置かれた。

「装備しろ」

セレスティアだった。

「師匠……!」

「勘違いするな」

冷たい声。

「貸しだ」

「え?」

「魔物を狩れば素材が取れる。ギルドへ持ち込めば金になる。その金できっちり返せ」

「はい!」

「利子も取る」

「えっ!?」

「冗談だ」

「師匠、冗談言うんですね……」

「追加で銀貨一枚」

「横暴だ!」

店主が吹き出した。

セレスティアは僕を無視して店を出ていく。

僕は慌てて硬革の胸当てを身につけ、ショートソードを腰へ差した。

自分のために選んだ、初めての武器。

借金だけど。

「ありがとうございます、師匠! 絶対返します!」

店を飛び出して頭を下げる。

「当然だ」

セレスティアは振り返りもしない。

「返せる程度には生き延びろ」

「はい!」

「……借金を背負って、なぜそんなに嬉しそうなんだ」

呆れた声だった。

でも。

フードの下から覗く口元は、ほんの少しだけ緩んでいた。


ルクスを出て歩くこと、およそ一時間。

森の中に、巨大な洞窟が口を開けていた。

入口には古びた看板が立っている。


《始まりの迷宮》


「ここが……ダンジョン」

「初心者向けだ」

セレスティアが言う。

「浅い階層なら出現する魔物は弱い。新人ハンターが実戦経験を積むためによく使われている」

「なるほど」

「ただし」

セレスティアの声が変わった。

「弱い魔物しかいないからといって、死なないわけではない」

青い瞳が僕を射抜く。

「油断した奴から死ぬ。それはどんなダンジョンでも同じだ」

「はい」

「それと、もう一つ」

「?」

「ここから私は戦わない」

「え?」

思わず師匠を見る。

「お前が戦え」

「全部?」

「全部だ」

「師匠は?」

「見ている」

「Sランクなのに?」

「だからだ」

セレスティアが腕を組む。

「私が倒せば、お前は何も学ばない」

それは分かる。

それに――。

僕の《捕食成長》は、自分で倒した魔物にしか発動しない。

「お前が本当に死にそうなら助ける。だが、私に助けを求めた時点で今日の探索は終了だ」

「……分かりました」

「怖いか?」

ショートソードの柄を握る。

「怖いです」

嘘はつかなかった。

魔物は怖い。

噛まれれば痛い。

死ぬのはもっと怖い。

「でも、行きます」

セレスティアが僅かに目を細めた。

「なら行け」

僕は《始まりの迷宮》へ足を踏み入れた。

洞窟の中は薄暗かった。

壁には青白く発光する苔が生え、最低限の視界は確保されている。

それでも暗い。

だけど僕には――。

【夜目Lv1】

がある。

奥まで、よく見える。

「……いた」

通路の先。

半透明の青い塊が、ぷるぷると震えている。

意識を集中する。


【スライム】

【Lv:2】


見える。

僕より弱い。

でも、油断はしない。

ショートソードを抜く。

「行きます」

「いちいち私に報告するな」

「はい!」

地面を蹴った。

スライムが反応する。

身体の一部が伸びた。

その瞬間。

ゾワッ。

【危険察知Lv1】。

来る。

どこから?

見る。

伸びた身体が鞭のように横から迫る。

「っ!」

身を屈める。

頭上を青い触手が通過した。

避けられた。

でも、これは【危険察知】が勝手に避けてくれたわけじゃない。

危険を教えてくれただけだ。

そこから相手を見て、身体を動かしたのは僕自身。

師匠に三日間、何度も何度も叩き込まれたことだ。

相手を見る。

焦らない。

生き残る。

「そこ!」

スライムの中央。

小さな核。

剣を突き込む。

ぐにゅり、と嫌な抵抗。

そのまま押し込む。

パキン。

核が砕けた。

スライムの身体が崩れ、地面へ広がった。

『スライムを討伐しました』

『経験値を獲得しました』

来るか?

『【捕食成長】が発動します』

頼む。

『能力抽出――失敗』

「…………」

外れた。

「次」

「切り替えだけは早くなったな」

後ろから師匠の声が聞こえた。

さらに奥へ進む。

次に現れたのは、小柄な人型の魔物だった。

緑色の肌。

尖った耳。

手には錆びた短剣。


【ゴブリン】

【Lv:3】


「ギィッ!」

ゴブリンが突っ込んでくる。

速い。

でも、森で戦ったホーンラビットよりは見える。

錆びた短剣が振り下ろされる。

避ける。

反撃――。

「追うな」

師匠の声。

ハッとして止まる。

ゴブリンがすぐさま短剣を振り回した。

もし踏み込んでいたら、腹を切られていた。

「……っ」

焦るな。

見る。

二撃。

三撃。

ゴブリンの攻撃は荒い。

そして――大きく振りかぶった。

今だ。

踏み込む。

横薙ぎ。

「ギッ――」

刃が首を裂いた。

ゴブリンが崩れ落ちる。

『ゴブリンを討伐しました』

『経験値を獲得しました』

『【捕食成長】が発動します』

『能力抽出――失敗』

「またかぁ……」

「何を落ち込んでいる」

「こっちの話です」

「そうか」

師匠はそれ以上聞かなかった。

でも。

僕は知っている。

外れることなんて、もう怖くない。

一匹で駄目なら十匹。

十匹で駄目なら百匹。

倒し続ければいい。

さらに奥へ進む。

そして三匹目。

「ゲコォ……」

巨大な蛙が通路を塞いでいた。

紫色の皮膚。

背中には黄色い斑点。

口元から、薄黄色の霧が漏れている。


【ポイズントード】

【Lv:3】


「毒……」

「そうだ」

師匠の声が飛ぶ。

「吸い込むなよ」

「言われなくても!」

ポイズントードの喉が膨らんだ。

次の瞬間。

「うわっ!」

黄色い霧が噴き出す。

慌てて後ろへ飛ぶ。

霧が通路いっぱいに広がった。

どうする?

近づけない。

ポイズントードは毒霧の向こう。

このままでは攻撃できない。

「…………」

考えろ。

師匠は助けてくれない。

僕がやるんだ。

ポイズントードを見る。

毒霧を吐く前。

喉が大きく膨らむ。

だったら。

僕は剣を構えた。

「来い」

「ゲコッ!」

蛙がこちらを向く。

喉が膨らむ。

今。

僕は息を止めた。

毒霧が噴き出す。

同時に、横へ走る。

壁際。

毒の薄い場所を抜ける。

苦しい。

喉が焼けるように痛い。

完全には避けられていない。

それでも止まらない。

ポイズントードの横へ回る。

「はあっ!」

剣を振り下ろす。

浅い。

「ゲコォッ!」

太い後脚が僕の腹を蹴った。

「ぐっ!」

吹き飛ばされる。

地面を転がった。

痛い。

息が漏れた。

立て。

すぐ立て。

ポイズントードの喉が、また膨らむ。

「……まだ!」

地面を蹴る。

今度は正面。

毒霧を吐く瞬間、横へ。

一歩。

それだけでいい。

懐へ入る。

両手で剣を握った。

「これでっ!」

喉元へ突き刺す。

深く。

「ゲッ……」

ポイズントードの身体が震える。

剣を抜く。

紫色の巨体が、地面へ倒れた。

「ハァ……ハァ……」

勝った。

そして。

『ポイズントードを討伐しました』

『経験値を獲得しました』

『【捕食成長】が発動します』

心臓が跳ねる。

『能力抽出――』

頼む。

『成功』

「……!」

『【毒耐性Lv1】を獲得しました』

「よしっ!」

思わず叫んだ。

新しい文字がステータスへ刻まれる。


【毒耐性Lv1】


直後。

身体の奥が、僅かに熱を帯びた。

さっき吸い込んだ毒のせいでヒリヒリしていた喉の痛みが、少しずつ和らいでいく。

完全に消えたわけじゃない。

でも――明らかに楽になった。

「……すごい」

また一つ。

僕になかったものが増えた。

弱かった僕の身体へ、魔物の力が一つずつ積み重なっていく。

【夜目】。

【危険察知】。

そして――【毒耐性】。

まだ弱い。

Fランク。

ステータスだって人並み以下。

それなのに。

魔物を倒すたび、昨日までの自分にはなかったものが増えていく。

「……ふふ」

笑いが漏れた。

「おい」

背後から声。

振り返る。

セレスティアが、ものすごく怪訝そうな顔で僕を見ていた。

「何ですか?」

「なぜ笑っている」

「え?」

「毒を吸った。腹を蹴られた。服も汚れている」

「はい」

「なのに、なぜ笑う」

僕は考えた。

でも、答えはすぐに出た。

「師匠」

「何だ」

「ダンジョンって……楽しいですね」

「…………」

長い沈黙。

セレスティアが額を押さえた。

「お前は一度、頭を診てもらえ」

「酷い!」

「普通の人間は毒蛙に蹴られた直後に笑わん」

「でも強くなれましたよ?」

「そういう問題ではない」

「次は何がいるんでしょうね」

「話を聞け」

僕はショートソードについた血を拭った。

もっと先へ行きたい。

もっと戦いたい。

もっと強くなりたい。

次は何が出る?

どんな能力を持っている?

倒したら、何を手に入れられる?

そう思うだけで、胸が高鳴る。

「行きましょう、師匠!」

「待て。勝手に先へ――」

そのときだった。


――ズン。


「……え?」

地面が、微かに揺れた。

ほんの一瞬。

気のせいかと思うほど、小さな振動だった。

「師匠?」

振り返る。

セレスティアは笑っていなかった。

迷宮の奥。

暗闇の向こうを、じっと見つめている。

「……どうしました?」

「いや」

少しの沈黙。

「何でもない」

そう言って、師匠は歩き出した。

だけど。

その手がいつの間にか剣の柄へ添えられていたことを、僕は見逃さなかった。


《始まりの迷宮》の奥深く。

僕たちはまだ知らなかった。


初心者向けと呼ばれるこの場所で――本来、目覚めるはずのない何かが、ゆっくりと動き始めていたことを。

お読みいただきありがとうございました。

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次回もどうぞよろしくお願いいたします。

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