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美醜逆転世界の最弱お世話係 ~世界一醜いと蔑まれる最強美女たちに拾われた僕、なぜか全員から溺愛されています~  作者: 虹の箸


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6/19

世界一綺麗な僕の師匠は、Sランクでした

翌朝。

僕は、ハンターギルド・ルクス支部の巨大な扉を見上げていた。

「ここが……ハンターギルド」

母さんを守れなかったあの日から、ずっと目指してきた場所。

その入口に、ようやく立っている。

「何を突っ立っている。行くぞ」

「あ、はい!」

セレスティア――僕の師匠が扉を押し開けた。

途端に、酒と汗と鉄、それに獣の血が混じったような匂いが鼻を突いた。

広いホールには朝から大勢のハンターが集まっている。壁一面の掲示板には依頼書がびっしりと貼られ、武器を背負った男女が報酬について話し合い、奥では朝から酒を飲んでいる者までいた。

そして――ここでも、やっぱり僕は少し混乱した。

「おい、見ろよ。マルダさんだ」

「今日も綺麗だなぁ……あの肩幅、たまらねえ」

「顔の傷がまた色っぽいんだよ」

男たちの視線を集めているのは、僕の胴ほどありそうな腕を持ったドワーフの女性だった。

その隣では、顔を斜めに走る大きな傷を持つ獣人の女性が豪快に笑っている。

二人とも周囲の男たちから熱い視線を浴びていた。

(……やっぱり、慣れないな)

昨日見たオークのガルガダもそうだった。

僕とこの世界では、美しいと感じるものがまるで違う。

そして、その証拠に。

「……おい」

「あれ、エルフじゃないか?」

僕の隣を歩くセレスティアへ向けられる視線は、正反対だった。

彼女は外套のフードを深く被っている。

それでも細い身体や、時折覗く長い耳だけで種族が分かるらしい。

「朝っぱらから縁起悪いな」

「顔くらい隠してろよ」

「隠してるだろ」

「そういう問題じゃねえよ」

笑い声。

僕は思わず振り返った。

「アレン」

師匠が僕を呼ぶ。

「放っておけ」

「でも」

「昨日言っただろう。慣れている」

その一言が、やっぱり僕は嫌だった。

師匠は周囲を完全に無視して受付へ向かう。

「新規登録を一人」

受付にいたのは、肩幅の広い、がっしりとした女性だった。

「あら、新規?」

彼女が僕を見る。

「坊やが?」

「はい」

「何歳?」

年齢を答えると、受付嬢は少し眉を寄せた。

「……まあ、規定上は問題ないわね。登録料は銀貨一枚。そこへ血を一滴落として」

差し出されたのは、薄い羊皮紙のようなものだった。

「これは?」

「魔力紙よ。血液から基礎情報を読み取るの。ほら、指を」

針で指先を刺す。

一滴。

赤い血が魔力紙へ落ちた。

ぼんやりと青白い光が広がる。

やがて、文字が浮かんだ。


【名前:アレン】

【Lv:4】

【職業:なし】

【筋力:6】

【魔力:3】

【敏捷:8】


受付嬢の眉間に皺が寄った。

「…………」

嫌な沈黙だ。

「あの?」

「坊や」

「はい」

「悪いことは言わないから、別の仕事にしない?」

「えっ」

「レベル4で、この数値は……かなり低いわ」

分かっていた。

分かっていたけど、改めて他人に言われるとちょっと傷つく。

受付嬢は僕を馬鹿にするでもなく、本気で心配そうに続けた。

「ハンターは死ぬ仕事よ。才能のない人間が無理をしても、命を落とすだけ」

師匠を見る。

「…………」

目を逸らされた。

「師匠?」

「私は何も言っていない」

「顔に『だから言っただろう』って書いてあります」

「気のせいだ」

絶対に気のせいじゃない。

受付嬢がため息をついた。

「それでも登録する?」

「します」

即答した。

「……そう」

彼女は少しだけ困った顔をして、それから一枚の鈍色のカードを差し出した。


【ハンターランク:F】


「新人は原則Fランクからよ。単独で受けられるのは採集、荷運び、清掃なんかの低危険度依頼。魔物討伐は基本的にEランクから」

「じゃあ、僕は魔物を倒しちゃ駄目なんですか?」

「上位ランクのハンターが監督につくなら別。あとは緊急時の自衛ね」

なるほど。

師匠と一緒なら問題ないらしい。

カードを受け取る。

鉄のように鈍く光る、小さなカード。

でも僕には宝物に見えた。

ようやく。

ようやく僕は、ハンターになった。

母さん。

僕、ここから始めるよ。

「……Fか」

背後から声がした。

振り向くと、近くにいた大柄な男が僕のカードを覗き込んでいる。

「その身体でハンターか。悪いこと言わねえから、死ぬ前にやめときな」

嘲笑ではなかった。

むしろ本気で忠告しているらしい。

別のハンターも苦笑する。

「新人なんて毎年死ぬからな。特に自分だけは大丈夫って思ってる奴から」

「ありがとうございます。でも、やります」

「……そうか。なら死ぬなよ」

男はそれだけ言って離れていった。

僕は少し驚いた。

怖そうな人だったけど、悪い人ではないらしい。

「手続きは終わったな」

師匠が言う。

「次はパーティー登録だ」

「パーティー?」

「お前一人では討伐依頼を受けられん。私の監督下に置く」

「なるほど」

受付嬢が手を出した。

「では、そちらの方もカードをお願いします」

師匠が懐へ手を入れる。

そのとき受付嬢が続けた。

「監督者として登録できるのはCランク以上です。念のためランクを確認しますね」

「分かった」

師匠がカードを取り出した。

僕は何気なくそれを見た。

次の瞬間。

「…………え?」

僕のカードとは全然違った。

白金色。

表面には複雑な紋様が刻まれ、淡い魔力の光を放っている。

師匠はそれを無造作にカウンターへ置いた。

カチン。

小さな音。

たった、それだけだった。

なのに。

ギルドから音が消えた。

「…………」

受付嬢がカードを見る。

瞬きをする。

もう一度見る。

顔色が変わった。

「え……?」

近くにいたハンターが立ち上がる。

「おい、あのカード……」

「まさか」

「白金……?」

ざわめきが広がる。

受付嬢の唇が震えた。

「セ……」

師匠が眉を寄せる。

「早くしろ」

「セレスティア・アルヴェイン……」

初めて聞いた。

師匠の姓。

そして。

受付嬢がカードに刻まれた最後の文字を読み上げる。

「ギルドランク――S」

「…………え?」

今度は僕が固まった。

S?

確かハンターランクは、

F。

E。

D。

C。

B。

A。

そして――S。

一番上。

「えええええええっ!?」

思わず叫んだ。

「うるさい」

「いやいやいや! S!? 師匠、Sランクなんですか!?」

「そうだが」

「そうだが、じゃないですよ!」

ギルド中がざわついている。

「アルヴェインって、まさか……」

「あのセレスティアか?」

「嘘だろ」

「『千年に一人の醜女』……」

その言葉に、僕の眉が動いた。

「何、それ」

近くのハンターが僕を見る。

「あ? 知らねえのか? エルフの中でも特に――」

「黙れ」

師匠の一言だった。

大声でもない。

怒鳴ってすらいない。

なのに。

空気が凍った。

男の顔から血の気が引く。

師匠は男を見てもいなかった。

ただ受付に立っているだけ。

それだけなのに、誰も続きを言えなくなった。

「手続きを」

「は、はい!」

受付嬢が慌てて書類を取り出す。

「Sランクであれば、もちろん監督者資格に問題ありません!」

「そうか」

「それどころか、Fランク一名の同行申請なら――」

受付嬢が説明を続けている。

でも僕の耳には半分も入ってこなかった。

師匠を見る。

あの夜。

ブラックウルフの群れを、一瞬で殺した。

シャドウバイパーも、僕には剣を抜いた瞬間すら見えなかった。

強いとは思っていた。

ものすごく強いとは思っていた。

でも。

まさか一番上だなんて。

「師匠」

「何だ」

「どうして教えてくれなかったんですか?」

「聞かれなかった」

「いや普通言うでしょ!」

「自分から『私はSランクだ』と名乗る方が変だろう」

「それは……そうかもしれないけど!」

師匠が僕を見る。

そして、ほんの少し目を細めた。

「何だ。怖くなったか?」

「え?」

「私が何者か分かっただろう」

周囲が静かになる。

師匠の声には、わずかに自嘲するような響きがあった。

「世界中から醜いと呼ばれるエルフ。その上、普通の人間なら一生関わることもないSランクだ」

青い瞳が僕を見る。

「今ならまだ弟子をやめても構わんぞ」

一瞬、何を言われたのか分からなかった。

それから。

「ぷっ」

笑ってしまった。

「……何がおかしい」

「いや」

だって。

そんなの。

「嬉しいなって」

「何?」

「僕の師匠、めちゃくちゃ強かったんですね」

「……それだけか?」

「あと」

師匠を見る。

今日もフードの隙間から金色の髪が覗いている。

やっぱり綺麗だった。

「めちゃくちゃ綺麗で、めちゃくちゃ強い」

「…………」

「なんか、すごく誇らしいです」

師匠が固まった。

「僕もいつかSランクになれますかね?」

「……お前」

「はい?」

「本当にそれしか言えんのか」

フードから覗いている長い耳が、みるみる赤くなっていく。

「さっさと来い、馬鹿弟子!」

師匠はカードをひったくるように回収し、足早に歩き出した。

「あ、待ってくださいよ、師匠!」

追いかけようとして、僕はふと自分のカードを見る。


【Fランク】


そして、師匠がしまったカードを思い出す。


【Sランク】


一番下と、一番上。

今の僕たちの間には、気が遠くなるほどの距離がある。

でも。

不思議と絶望はしなかった。

むしろ、胸が高鳴った。

昨日より今日。

今日より明日。

一匹倒せば経験値が増える。

何度も倒せばレベルが上がる。

そして運が良ければ、魔物の能力まで手に入る。

だったら。

追いつけばいい。

何年かかるかなんて知らない。

何匹倒せばいいかも分からない。

それでも――。

「師匠!」

「何だ!」

「僕、絶対Sランクになります!」

ギルドの出口へ向かっていた師匠が足を止めた。

振り返らないまま答える。

「……まずはEランクになってから言え、Fランク」

「はい!」

周囲から小さな笑い声が上がった。

さっきまで僕を心配していた大柄なハンターが、呆れたように笑っている。

「とんでもねえ師匠を捕まえやがったな、坊主」

僕も笑った。

手の中にある鈍色のカードを強く握る。


Fランク。

世界で一番下からのスタート。


でも僕の目標は、もう決まった。


いつか、この人の隣に立つ。


世界で一番綺麗で、世界でも指折りに強い――僕の師匠の隣に。

お読みいただきありがとうございました。

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次回もどうぞよろしくお願いいたします。

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