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美醜逆転世界の最弱お世話係 ~世界一醜いと蔑まれる最強美女たちに拾われた僕、なぜか全員から溺愛されています~  作者: 虹の箸


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4/19

十五匹目で、ようやく当たりを引いた』

獣道へ入ってから、丸一日。

僕は、ひたすら魔物を狩り続けていた。

「右だ!」

「はいっ!」

茂みから飛び出してきたダートラットの牙をかわし、短剣を振る。

浅い。

仕留めきれなかった。

すぐに距離を取る。

昨日までなら、ここで焦って追いかけていただろう。

でも、もうやらない。

『殺すことより、生き残ることを考えろ』

セレスティアに何度も叩き込まれた言葉だ。

ダートラットが再び飛びかかってくる。

今度は見る。

動きを見て、横へ避ける。

着地した直後の首へ、短剣を突き立てた。

「ギィッ!」

断末魔。

ダートラットが地面へ転がった。

『ダートラットを討伐しました』

『経験値を獲得しました』

そして――。

『【捕食成長】が発動します』

来た。

僕は息を止める。

『能力抽出――失敗』

「…………」

もう驚かなかった。

「また駄目か……」

今日だけで何度聞いただろう。

ダートラット。

ホーンラビット。

それ以外にも、セレスティアが僕でも戦えると判断した低級魔物を何匹も倒した。

当然、楽勝なんかじゃない。

転んだ。

噛まれた。

角に服を裂かれた。

何度もセレスティアに怒鳴られた。

それでも、一匹ずつ倒した。

経験値は確実に蓄積している。何匹か倒したところでレベルも一つ上がり、身体も少しずつ動くようになってきた。

だが――肝心の能力抽出だけは、失敗し続けていた。

最初にダートラットから【夜目Lv1】を手に入れられたのは、相当運が良かったらしい。

「十二匹目……いや、十三匹目だったかな」

「何を数えている」

「こっちの話です」

セレスティアには、まだ【捕食成長】について話していない。

隠したいわけではない。

僕自身、この力が何なのか分かっていないのだ。

なぜ突然目覚めたのか。

どうして魔物の能力を獲得できるのか。

何をすれば成功するのか。

分からないことだらけだった。

ただ、一つだけ分かったことがある。

魔物を倒せば必ず能力を奪えるわけではない。

つまり――欲しければ、倒し続けるしかない。

「行くぞ」

「はい」

短剣についた血を拭い、立ち上がる。

疲れている。

身体中が痛い。

それでも、不思議と嫌ではなかった。

昨日できなかったことが、今日はできる。

昨日は見えなかった攻撃が、今日は少しだけ見える。

ほんの少しずつだけれど、自分が前へ進んでいる。

それが、たまらなく嬉しかった。

しばらく獣道を進んだところで、セレスティアが足を止めた。

「……来るぞ」

「どこからです?」

「上だ」

反射的に見上げる。

直後。

頭上の枝から、巨大な影が落ちてきた。

「うわっ!」

横へ飛ぶ。

直前まで立っていた地面へ、白い糸がべちゃりと張りついた。

木の枝から、巨大な蜘蛛がこちらを見下ろしている。

大型犬ほどの胴体。

八本の長い脚。

黒褐色の身体に浮かぶ、毒々しい紫色の斑点。

意識を集中する。


【フォレストスパイダー】

【Lv:4】


見える。

つまり、今の僕でも【鑑定】できる相手だ。

でも――同格以下だから安全という意味ではない。

「フォレストスパイダーだ」

セレスティアが言った。

「糸に捕まれば終わりだと思え。その後は毒牙を食らう」

「毒……」

「今のお前なら、運が悪ければ死ぬ」

やっぱり全然安全じゃない。

フォレストスパイダーが脚を広げた。

「来るぞ!」

白い糸。

横へ跳ぶ。

外れた。

二発目。

今度は後ろへ。

また外れる。

「逃げるだけでは勝てん! 相手を見ろ!」

分かってる。

糸を吐く直前、蜘蛛の腹部が僅かに持ち上がる。

だったら。

三発目。

腹が動いた。

「今!」

横へ踏み込む。

糸が通り過ぎる。

そのまま蜘蛛との距離を詰めた。

「はあああっ!」

短剣を突き出す。

だが、硬い脚に弾かれた。

「っ!」

フォレストスパイダーの前脚が振り下ろされる。

身体を捻る。

肩を掠めた。

服が裂け、血が滲む。

怖い。

でも、止まるな。

蜘蛛がこちらへ向き直る。

もう一度、腹が持ち上がった。

糸が来る。

だったら――。

僕は逃げなかった。

逆に前へ出た。

「なっ――」

後ろでセレスティアの声がした。

白い糸が頭上を通過する。

フォレストスパイダーの懐へ潜り込んだ。

そこには硬い脚に守られていない、柔らかそうな腹部がある。

「これで……!」

短剣を突き立てる。

深く。

さらに両手で柄を握り、全体重をかけて引き裂いた。

「ギィィィィッ!」

緑色の体液が噴き出す。

フォレストスパイダーが激しく暴れた。

「うわっ!」

吹き飛ばされ、地面を転がる。

すぐに短剣を構え直した。

だが――追撃は来なかった。

八本の脚が痙攣し、ゆっくり折り畳まれていく。

やがて完全に動かなくなった。

「ハァ……ハァ……」

勝った。

今までより、少し強い相手に。

そして。

『フォレストスパイダーを討伐しました』

来た。

『経験値を獲得しました』

頼む。

今度こそ。

『【捕食成長】が発動します』

心臓が大きく鳴る。

『討伐対象から能力を抽出します』

一秒。

二秒。

妙に長く感じる。

そして――。


『能力抽出――成功』


「……!」

思わず拳を握った。

『【危険察知Lv1】を獲得しました』

「よしっ!」

とうとう声が出た。

「……何がだ?」

「え?」

見ると、セレスティアが怪訝そうにこちらを見ている。

「い、いや……倒せたので」

「今まで散々倒していただろう」

「今回はちょっと嬉しかったんです」

「変な奴だな」

誤魔化しながら、自分のステータスを確認する。

あった。


【危険察知Lv1】


【夜目】を手に入れたときは、暗闇が突然見えるようになった。

でも今回は何も起きない。

身体が強くなった感じもしない。

危険察知。

名前からすれば、危険を察知する能力なのだろうけれど――。

「行くぞ」

「あ、はい」

セレスティアが歩き出す。

僕もその後を追おうとした。


――ゾワッ。


「っ!?」

全身に鳥肌が立った。

冷たい何かが、背骨を直接撫でたような感覚。

違う。

寒いんじゃない。

怖い。

理由なんて分からない。

なのに身体の奥底が叫んでいる。


――危ない。


視界でもない。

音でもない。

もっと直接的な何か。

そして、なぜか分かった。

上。

セレスティアの後方。

木の幹――。

「セレスティア、後ろ!」

叫んだ。

セレスティアの目が見開かれる。

彼女は振り返らなかった。

身体が僅かに沈んだ。

次の瞬間。

銀色の光が走った。

「――え?」

僕には、剣を抜いたところすら見えなかった。

ドサッ。

何かが地面へ落ちる。

蛇だった。

僕の胴体ほどもある太さ。

深い緑色の鱗は周囲の木々とほとんど同じ色をしていて、地面に落ちた今でさえ、目を離せば見失いそうになる。

その首だけが、綺麗に切断されていた。

「……シャドウバイパーか」

セレスティアが呟いた。

「シャドウ……バイパー?」

「擬態と隠密に特化した魔物だ。気配を消して獲物へ近づく」

セレスティアが死骸を見下ろす。

「私も気配を掴むのが遅れた」

背筋が寒くなった。

あのセレスティアが?

ブラックウルフの群れを一瞬で殺した、この人が?

セレスティアが僕を見る。

「アレン」

「は、はい」

「どうして分かった?」

答えに詰まった。

僕にも分からない。

ただ、あの瞬間――。

危険だと分かった。

「急に……感じたんです」

「感じた?」

「背中が冷たくなって……うまく言えないけど、そこに何かいるって」

「…………」

青い瞳が僕を見つめる。

嘘を見抜こうとしているような鋭い目だった。

でも、僕は本当のことしか言っていない。

やがてセレスティアが口を開く。

「……昨日もそうだったな」

「え?」

「ダートラットを倒した後だ。急に暗闇が見えるようになったと言った」

心臓が跳ねた。

気づかれている。

「そして今日は、フォレストスパイダーを倒した直後に、私が気づくのが遅れた魔物の奇襲を察知した」

「…………」

セレスティアはしばらく僕を見ていた。

「お前」

一歩、近づく。

「何を隠している?」

冷たい声だった。

でも、不思議と怖くはなかった。

僕自身が一番知りたいことだからだ。

「……分かりません」

「何?」

「僕にも分からないんです」

僕は自分の手を見る。

「ダートラットを倒したら【夜目】を手に入れました。さっきフォレストスパイダーを倒したら、今度は【危険察知】っていうスキルが……」

初めて、口にした。

自分の異常な能力を。

セレスティアの表情が消えた。

「魔物を倒して、スキルを得た?」

「はい」

「そんな馬鹿な」

「僕もそう思います」

「…………」

「でも、本当なんです」

沈黙。

森を抜ける風が、セレスティアの金髪を揺らした。

「……ステータスを見せろ」

「え?」

「確認する」

そう言って彼女は僕へ手を伸ばし――途中で止めた。

そして、小さく首を振った。

「いや。今はいい」

「いいんですか?」

「お前自身にも分かっていない力を、今ここで問い詰めても仕方ない」

セレスティアはシャドウバイパーの死骸へ視線を落とす。

「だが、一つだけ覚えておけ」

声が低くなる。

「その力のことを、誰にでも話すな」

「どうして?」

「魔物を倒して、その能力を奪う」

彼女の青い瞳が僕を射抜いた。

「そんな力を欲しがる人間が、この世界にいないと思うか?」

ぞくりとした。

さっきの【危険察知】とは違う寒気だった。

「……分かりました」

「街に着いても黙っていろ」

「はい」

セレスティアが歩き出す。

僕も追いかけようとして――ふと足元を見る。

シャドウバイパー。

セレスティアが倒した魔物だ。

しばらく待った。

何も聞こえない。

「……やっぱり」

「何をしている。置いていくぞ」

「今行きます!」

走って追いかける。

一つ、分かった。

セレスティアが倒した魔物からは、何も起こらない。

つまり【捕食成長】には、少なくとも一つ条件がある。


――僕自身が倒すこと。


だったら。

僕は前を歩くセレスティアの背中を見つめた。

魔物を倒す。

経験値を得る。

運が良ければ、その能力まで手に入る。

一匹で駄目なら十匹。

十匹で駄目なら百匹。

昨日まで僕は、世界で一番弱いと思っていた。

今だって、きっと弱い。

でも。

「……もっと倒したい」

小さく呟く。

「何か言ったか?」

「なんでもありません!」

セレスティアの背中を追いながら、僕は自分の手を握った。

次は何を手に入れられる?

どんな魔物がいる?

どこまで強くなれる?

そんなことを考えるだけで、胸の奥が熱くなった。


このとき僕はまだ、《捕食成長》という力の本当の異常さを知らなかった。


そしてセレスティアもまだ知らなかった。


自分が拾った「才能のない少年」が、魔物を狩るたびに――この世界の常識から外れていくことを。

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