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美醜逆転世界の最弱お世話係 ~世界一醜いと蔑まれる最強美女たちに拾われた僕、なぜか全員から溺愛されています~  作者: 虹の箸


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2/19

最弱の僕に、希望が芽生えた

目が覚めると、洞窟の入口から朝の光が差し込んでいた。

身体を起こしてみる。昨日は息をするだけでも激痛が走った胸が、驚くほど楽になっている。

「……回復魔法と上級ポーションを使った」

焚き火の跡の向こうで、セレスティアが短剣を磨きながら言った。

「上級ポーション?」

「死なれては寝覚めが悪いからな」

相変わらず表情は冷たい。

けれど、見ず知らずの僕に貴重そうな薬まで使ってくれたらしい。

「ありがとうございます」

頭を下げると、セレスティアはなぜか視線を逸らした。

「……礼はいらん。動けるなら準備しろ。街まで送る」

「あの」

「何だ」

僕は毛布を退け、立ち上がった。

まだ足元はふらつく。それでもセレスティアの正面まで歩き、頭を下げた。

「僕を、弟子にしてください」

短剣を磨いていた手が止まった。

「……は?」

「戦い方を教えてほしいんです」

「断る」

即答だった。

「お願いします」

「断ると言った」

「どうしてですか」

セレスティアが深いため息をついた。

「……本当に分からないのか?」

立ち上がった彼女が僕を見る。

それだけで、空気が変わったような気がした。

「私には【看破】がある。【鑑定】の上位に近いスキルだ。昨夜、お前が眠っている間に視た」

セレスティアは容赦なく告げた。

「レベル1。筋力3。魔力1。敏捷4。まともな戦闘スキルは一つもない」

全部、本当のことだ。

「はっきり言おう。お前にはハンターとしての才能がない」

胸に突き刺さった。

それでも、目は逸らさなかった。

「街へ行け。皿洗いでも荷運びでもいい。魔物と戦わずに生きられる仕事はいくらでもある」

「……嫌です」

「何?」

「安全な場所に逃げて、それでまた……目の前で大切な人が死ぬのを見ているだけなんて、嫌です」

母さんの血に濡れた手が浮かんだ。

伸ばしたのに届かなかった。

僕には何もできなかった。

「才能がないなら、努力します」

「努力?」

「百回で駄目なら千回やります。千回で駄目なら一万回やります。何だってします。だから――」

「死ぬぞ」

冷たい声が僕の言葉を切った。

「努力すれば誰でも強くなれるほど、この世界は優しくない。剣を千回振る前に、魔物の牙を一度受ければ死ぬ。それがハンターだ」

「……それでも」

「昨日、身をもって知ったはずだ」

分かっている。

怖かった。

今だって、ブラックウルフの赤い目を思い出すだけで身体が震える。

それでも。

「母さんを殺した魔物を、倒したい」

セレスティアの目がわずかに細くなった。

「復讐か」

「それだけじゃありません」

僕は拳を握った。

「もう二度と、何もできないのが嫌なんです」

しばらく沈黙が続いた。

やがてセレスティアが舌打ちした。

「……馬鹿が」

チャキン、と金属音が鳴った。

磨いていた短剣が、僕の足元へ突き刺さる。

「拾え」

「え?」

「一度だけ試してやる」

セレスティアが洞窟の奥を顎で示した。

暗闇の向こうから、ガサガサと何かが動く音がする。

やがて、二つの赤い目が浮かんだ。

犬ほどもある巨大なネズミだった。

薄汚れた灰色の毛。剥き出しになった鋭い前歯。

「ダートラット。レベル3。畑を荒らす害獣に毛が生えた程度の、魔物としては最弱の部類だ」

レベル3。

僕は試しに【鑑定】を向けた。


【鑑定不能】


やっぱり見えない。

最弱クラス。

たったレベル3。

それすら今の僕より強い。

「そいつを一人で倒せ」

セレスティアは壁にもたれ、腕を組んだ。

「私が手を出した時点で試験は終わりだ。そのまま街へ連れていく。二度と弟子にしてくれとは言うな」

「……倒したら?」

「その時に考える」

十分だった。

僕は短剣を引き抜いた。

重い。

こんな小さな武器なのに、今の僕にはずっしりと感じる。

両手で柄を握り、ダートラットへ向き直った。

「ギチチチチ……!」

赤い目が僕を捉えた。

暗闇の中なのに、こちらがはっきり見えているらしい。

対して僕には、輪郭さえぼんやりとしか見えない。

怖い。

手が震える。

それでも、一歩踏み出した。

「来い……!」

「ギィッ!」

消えた。

「え――」

速い。

次の瞬間には目の前にいた。

「うわっ!」

反射的に短剣を突き出す。

空を切った。

横から衝撃。

「がっ!」

肩に牙が食い込んだ。

熱い痛みが走る。

そのまま押し倒され、背中を地面へ打ちつけた。

「ぐっ……!」

ダートラットが僕の上に乗る。

重い。

両腕で押し返そうとしても、びくともしない。

筋力が違いすぎる。

鋭い前歯が首へ迫った。

死ぬ。

頭の中にその言葉が浮かぶ。

「そこまでだ」

セレスティアの声。

その瞬間、母さんの顔が浮かんだ。

――あなたは、生きるの。

「まだ……!」

叫んだ。

「まだ、終わってない!」

身体を捻る。

牙が首を外れ、肩へ食い込んだ。

「ぐあああっ!」

痛い。

怖い。

逃げたい。

それでも、ここで助けてもらったら終わる。

昨日までの僕と何も変わらない。

必死に腕を伸ばす。

短剣。

さっき弾き飛ばされた短剣が、ほんの少し先に落ちている。

届かない。

「くそ……っ!」

指を伸ばす。

ダートラットが肩を食い千切ろうと頭を振る。

視界が明滅した。

それでも伸ばす。

あと少し。

指先が柄に触れた。

掴んだ。

「うああああああっ!」

短剣を振る。

刃がダートラットの脇腹へ突き刺さった。

「ギシャアアアッ!」

暴れる。

身体が地面へ叩きつけられる。

それでも離さない。

短剣を引き抜く。

もう一度。

「うあっ!」

突き刺す。

「ギィィッ!」

もう一度。

「死ねぇっ!」

もう一度。

温かい血が顔に飛び散る。

どちらの血なのかも分からない。

腕が動かなくなっても、必死に短剣を握った。

やがて――ダートラットの身体から力が抜けた。

「……え?」

どさり、と僕の上に倒れる。

動かない。

「ハァ……ハァ……ハァ……」

重い身体を押し退ける。

仰向けになった。

洞窟の天井がぐるぐる回っている。

肩が痛い。

胸も痛い。

全身、血と泥だらけだ。

たった一匹。

魔物の中では最弱だというダートラット一匹。

それを倒すだけで、死にかけた。

これが今の僕だ。

「……倒した」

声が震えた。

「僕……倒した……」

セレスティアが歩いてくる。

いつもの冷たい顔。

でも、その目だけが少し違って見えた。

「戦い方は最低だ」

「……はい」

「短剣の持ち方も知らん。間合いも取れていない。敵から目を逸らす。力任せ。おまけに自分から噛ませている」

「……はい」

「才能もない」

「それは……さっき聞きました」

「だが」

セレスティアが僕を見下ろす。

「最後まで武器を離さなかったことだけは――」

その時だった。


――何かが、身体の奥で弾けた。


『経験値が一定値に達しました』

「……え?」

頭の中に、知らない声が響いた。

冷たく、無機質な声。

『レベルが上昇しました』

レベルアップ。

ハンターや兵士が魔物を倒し、一定の経験を積むことで起こる現象。

それ自体は知っている。

でも。

声は、そこで終わらなかった。

『条件を達成しました』

「……条件?」

『固有スキルの覚醒条件を確認』

セレスティアの表情が変わった。

「どうした?」

聞こえていない?

僕にしか聞こえていないのか。

『固有スキル【捕食成長】が覚醒しました』

「……捕食、成長?」

聞いたことのない名前だった。

次の瞬間、目の前に文字が浮かび上がる。


【捕食成長 Lv1】

自身が討伐した魔物から、一定確率で能力の一部を獲得する。


息を呑んだ。

「魔物の……能力?」

さらに声が続く。

『初回討伐対象――ダートラット』

『獲得可能能力を確認』

『スキル抽出に成功しました』

『【夜目Lv1】を獲得しました』


その瞬間だった。

「――っ!?」

世界が変わった。

さっきまで暗闇に沈んでいた洞窟の奥。

岩肌の凹凸。

天井から垂れる水滴。

奥に転がっている小石まで、はっきりと見える。

「見える……」

僕は呆然と呟いた。

「暗いのに……全部、見える」

ダートラットを見る。

暗闇の中で僕を正確に捉えていた赤い目。

こいつが持っていた力だ。

僕は震える手を見つめた。

最弱の魔物一匹を倒すだけで死にかけた。

才能がないと言われた。

実際、その通りだった。

だけど。

僕には――これがある。

倒せば、強くなれる。

魔物を倒すほど、できることが増えていく。

もしこれを繰り返したら?

十匹。

百匹。

千匹。

そのたびに僕が、少しずつでも魔物の力を手に入れられるのなら。

いつか。

あのブラックウルフも。

そして、その先にいるもっと強い魔物さえ――。

「アレン」

セレスティアの声で我に返った。

顔を上げる。

彼女が僕を見ていた。

初めて見る表情だった。

冷淡でも、呆れでもない。

明らかな驚き。

「お前……今、何をした?」

「分かりません。でも……」

僕は暗闇の奥を見る。

今まで見えなかった世界が、はっきり見える。

そして気づいた。

視界の端に、自分自身の情報が浮かんでいる。


名前:アレン

Lv:2

職業:なし

筋力:4

魔力:2

敏捷:5

スキル:【鑑定Lv1】【捕食成長Lv1】【夜目Lv1】

称号:【迷い子】


昨日までとは違う。

ほんの少し。

たったほんの少しだけ。

それでも確かに、僕は強くなった。

僕は短剣を握り直した。

「セレスティア」

「……何だ」

「もう一匹、倒したいです」

「…………」

セレスティアはしばらく黙っていた。

やがて片手で顔を覆い、深々とため息をつく。

「お前はまず、その肩の治療をしろ」

「でも」

「馬鹿者。死んだら強くなるも何もない」

「……はい」

「それと」

セレスティアは僕の前へしゃがみ込んだ。

金色の髪が揺れる。

「さっきの話だが」

「さっき?」

「弟子の話だ」

心臓が跳ねた。

セレスティアは僕の傷を確認しながら、こちらを見ようともせず言った。

「……街へ着くまでだ」

「え?」

「その間だけ、基礎くらいは叩き込んでやる」

一瞬、意味が理解できなかった。

「それって――」

「勘違いするな。正式に弟子にすると言ったわけではない」

「ありがとうございます! 師匠!」

「誰が師匠だ!」

洞窟に怒鳴り声が響いた。

でも。

ほんの一瞬だけ見えた横顔は、少しだけ笑っているような気がした。


こうして僕は、世界で一番綺麗な人から戦い方を教わることになった。

この時の僕はまだ知らなかった。

最弱の魔物から手に入れた、たった一つの【夜目】。

その小さな一歩が、やがて僕を誰にも測れない場所まで連れていくことを。

お読みいただきありがとうございました。

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次回もどうぞよろしくお願いいたします。

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