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美醜逆転世界の最弱お世話係 ~世界一醜いと蔑まれる最強美女たちに拾われた僕、なぜか全員から溺愛されています~  作者: 虹の箸


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18/19

醜女と呼ばれた美少女魔術師

「……私と、組む?」

黒いローブの少女は、僕の言葉を繰り返した。

大きな黒い瞳が、警戒するように細められる。

「あなた、さっきの連中の仲間?」

「え? 違いますけど」

「だったら、どうして私なんかを誘うの?」

少女は一歩後ずさり、ローブの襟元を握りしめた。

「私の顔を見て、面白がってるんでしょう。どうせ、魔物の前に置き去りにして笑うつもりなんじゃないの?」

その言葉に、僕は返事を失った。

彼女が何を恐れているのか、すぐには理解できなかったからだ。

けれど、周囲から聞こえてきた笑い声が、その理由を教えてくれた。

「おいおい、あのFランクの坊主、本気で醜女と組むつもりか?」

「お似合いじゃねえか。弱っちいガキと、骨と皮しかねえ魔術師だ!」

少女の肩が小さく震える。

僕は彼らに目を向けかけたが、やめた。今ここで言い争っても、彼女の立場が良くなるとは思えなかった。

「からかってませんよ。前衛を探してるんですよね?」

「……そうだけど」

「だったら、僕でよければ手伝わせてください」

「私の顔を見ても、そんなことが言えるの?」

少女は、試すように僕を見上げた。

その瞳には怒りよりも、もっと深い諦めが滲んでいるように見えた。

僕は思わず首を傾げる。

「顔なら、ちゃんと見てますよ」

「……っ」

「すごく綺麗な人だなって思いましたけど。それと、パーティを組むことに何か関係があるんですか?」

少女が息を呑んだ。

唇がかすかに開いたまま、言葉が出てこない。

「……き、綺麗?」

「はい」

「私が?」

「そうですけど」

彼女は僕の顔をじっと見つめた。

冗談を言っているのか、何か裏があるのか、必死に探っているようだった。

やがて、困惑したように眉を寄せる。

「……変な人」

「よく言われます」

「そこは否定しないのね……」

少女は小さく息を吐いた。

まだ警戒は解けていないようだが、少なくとも逃げ出す様子はなくなった。

「それで、魔法が得意なんですよね?」

「……ええ。火属性なら、同じランクの魔術師にも負けないつもりよ」

その返答には、先ほどまでの弱々しさとは違う響きがあった。

「ただ、詠唱に時間がかかるの。前衛がいないと、実戦では使いづらくて……」

「だったら、僕がその間を稼ぎます」

「簡単に言うけど、魔物は待ってくれないわよ」

「分かってます。僕も、まだ駆け出しですから」

正直に答えると、少女はますます不思議そうな顔をした。

「……あなた、本当に変わってる」

「そうでしょうか」

「そうよ。普通は、自分が弱いなんて初対面の相手に言わないもの」

「でも、嘘をついても強くなれるわけじゃありませんし」

少女はしばらく僕を見つめ、それから少しだけ表情を和らげた。

「……リュシア」

「え?」

「私の名前。リュシアよ」

「あ、僕はアレンです」

「さっき聞いたわ」

そう言って、彼女は初めてほんの少し笑った。

その笑顔に、思わず見惚れてしまう。

やっぱり、とんでもない美少女だ。

「……アレン」

背後から、聞き慣れた声がした。

振り返ると、セレスティアがこちらへ歩いてくるところだった。

周囲のハンターたちが、彼女の姿を見てさっと道を開ける。

「師匠」

「話はまとまったのか」

「はい。リュシアさんと組んでみようと思います」

セレスティアは僕を見て、それからリュシアさんに視線を移した。

二人の目が合う。

リュシアさんが、はっと背筋を伸ばした。

「セ、セレスティア様……!」

「私を知っているのか」

「もちろんです。Sランクの剣士で、ルクスでも有名な……」

そこまで言って、リュシアさんは慌てて口を閉じた。

何が有名なのか、言いかけて気づいたのだろう。

セレスティアは気にした様子もなく、淡々と告げた。

「私はこいつの師匠だ。今回も同行するが、基本的に手は貸さん」

「……はい」

「お前たちが自分で対処できないと判断したら、その時点で訓練は終わりだ。いいな、アレン」

「はい!」

「返事だけは一人前だな」

呆れたように言いながら、セレスティアは受付へ視線を向けた。

「まず依頼を決めろ。お前たちのランクで受けられるものに限るぞ」

     * * *

結局、僕たちが選んだのは、ルクス東部の森で確認されているフォレストウルフの討伐だった。

リュシアさんはEランクの魔術師で、僕はFランク。通常なら僕一人では受注できない依頼だが、今回はEランクのリュシアさんが代表となり、ギルドの許可を得て同行することになった。

もちろん、セレスティアが監督役として同行することも条件に含まれている。

「……本当にいいの?」

街を出てしばらく歩いたところで、リュシアさんが尋ねてきた。

「何がですか?」

「私と組むことよ。さっきも言ったけど、私の魔法は詠唱が長いの。途中で魔物に襲われたら、ほとんど何もできないわ」

「そのための前衛じゃないですか」

「そうだけど……」

彼女は僕の腰にあるショートソードを見た。

「アレンはFランクなんでしょう?」

「はい。まだ登録したばかりです」

「……怖くないの?」

僕は少し考えた。

怖くないと言えば、嘘になる。

魔物の牙も、爪も、剣も、僕の身体を簡単に傷つける。あの迷宮で味わった痛みを思い出せば、今でも背筋が冷たくなる。

「怖いですよ」

「……え?」

「でも、怖いからこそ、ちゃんと考えて戦おうと思ってます」

リュシアさんは何か言いかけ、結局、口を閉じた。

少し後ろを歩いていたセレスティアが、静かにこちらを見ている。

「……口だけでなければいいがな」

「師匠、少しくらい信用してくださいよ」

「信用と油断は別物だ」

まったく、その通りだった。

僕は苦笑しながら、森の奥へ視線を向けた。

     * * *

森に入ってから、しばらくは何事もなかった。

木漏れ日が苔むした地面に落ち、湿った土と葉の匂いが漂っている。

僕は先頭を歩きながら、周囲の物音に耳を澄ませていた。

【危険察知】は、まだ何も告げてこない。

「……止まれ」

セレスティアの声がした。

同時に、胸の奥がひやりとする。

【危険察知】だ。

前方の茂みが、かすかに揺れた。

「リュシアさん、下がって!」

僕が剣を抜くのとほぼ同時に、灰褐色の獣が飛び出してきた。

フォレストウルフ。

普通の狼よりひと回り大きく、鋭い牙と長い爪を備えた魔物だ。

しかも、一頭ではない。

右の茂みから二頭目、さらに奥から三頭目が姿を現す。

「三頭……!」

リュシアさんが息を呑んだ。

「詠唱を始めてください!」

「わ、分かったわ!」

彼女が杖を構え、魔力を集中させる。

その間にも、三頭の狼は僕たちを取り囲むように動き始めた。

まずい。

正面だけを見ていれば、左右から回り込まれる。

僕は一歩下がり、背後の太い木を確かめた。

「リュシアさん、あの木の前に!」

「えっ?」

「背中を守れます!」

彼女が慌てて移動する。

僕はその前に立ち、ショートソードを構えた。

三頭を同時に相手にするのは無謀だ。

ならば、三頭が同時に襲いかかれない位置で戦えばいい。

最初の一頭が地面を蹴った。

『――敵の目ではなく、身体の動きを見ろ』

セレスティアの教えを思い出す。

狼の前脚が沈み、肩がわずかに動いた。

来る。

僕は真正面から受け止めず、半歩だけ身体をずらした。

牙が肩先をかすめる。

鋭い痛みが走ったが、構わず剣を振るい、狼の脇腹を浅く斬りつける。

「ギャンッ!」

悲鳴を上げて狼が飛び退いた。

その隙に二頭目が飛び込んでくる。

「くっ……!」

剣を引き戻すのが間に合わない。

僕は咄嗟に身を屈め、左腕で狼の身体を押しのけた。

爪が革鎧を裂き、腕に熱い痛みが走る。

【再生】が傷口に働きかける感覚があったが、すぐに痛みが消えるわけではない。

「アレン!」

リュシアさんの声が震えた。

「大丈夫! 詠唱を続けて!」

そう叫びながら、僕は必死に足を動かした。

一頭を斬りつけ、もう一頭を牽制し、三頭目が回り込もうとすれば位置を変える。

剣技では、まだセレスティアの足元にも及ばない。

けれど、あの骸骨の剣士との戦いで学んだことがある。

敵の攻撃をすべて受け止める必要はない。

生き残るために必要なのは、相手の思い通りに動かないことだ。

「……っ!」

三頭目が大きく跳んだ。

狙いは僕ではない。

背後のリュシアさんだ。

【危険察知】が鋭く反応する。

僕は地面を蹴り、狼の進路に身体を滑り込ませた。

「させるかっ!」

ショートソードを突き出す。

刃が狼の肩口に食い込み、勢いを殺しきれなかった身体が僕にぶつかった。

衝撃で足が滑る。

それでも踏みとどまり、剣を引き抜いた。

狼が距離を取った瞬間、背後から声が響いた。

「――火の精霊よ、我が魔力に応えよ!」

リュシアさんの詠唱が終わりに近づいている。

「アレン、離れて!」

僕は迷わず横へ跳んだ。

その動きにつられるように、三頭の狼が一斉にこちらへ向き直る。

「――『火球(ファイヤーボール)』!」

リュシアさんの杖先から、赤々と燃える炎の塊が放たれた。

火球は僕のすぐ横を通り過ぎ、最も近くにいた狼へ直撃する。

轟音とともに炎が弾けた。

「うわっ!」

熱風に煽られ、僕は腕で顔を覆う。

炎に包まれた一頭が地面を転がり、もう一頭も爆風を受けて倒れ込んだ。

だが、三頭目は間一髪で飛び退いていた。

「……まだいる!」

リュシアさんが叫ぶ。

最後の狼が、牙を剥いてこちらへ駆け出した。

僕は剣を握り直す。

魔法の直後で、リュシアさんは動けない。

ここから先は、僕の仕事だ。

狼が跳ぶ。

【危険察知】が、その軌道を告げた。

僕は一歩踏み込み、身体を低く沈める。

牙が頭上を通り過ぎる瞬間、ショートソードを斜め上へ突き出した。

「――っ!」

刃が狼の胸元に食い込む。

その勢いに押されて膝をつきかけたが、歯を食いしばって耐えた。

狼の身体が地面へ落ちる。

しばらく痙攣したあと、動かなくなった。

「……はあっ、はあっ……」

僕は荒い息を吐きながら、周囲を見回した。

炎を浴びた一頭はすでに息絶えている。爆風で倒れたもう一頭も、起き上がる様子はなかった。

それでも油断せず、セレスティアに教わった通り、三頭すべての生死を確かめる。

ようやく剣を下ろしたとき、膝から力が抜けそうになった。

「……やった」

小さく呟く。

三頭のフォレストウルフ。

決して楽な相手ではなかった。

でも、倒せた。

僕とリュシアさんの力で。

「アレン!」

リュシアさんが駆け寄ってきた。

「腕、血が出てるじゃない!」

「ああ、これくらいなら大丈夫です」

「大丈夫なわけないでしょう!」

彼女は僕の左腕を両手で掴み、傷口を覗き込んだ。

近くで見ると、長い睫毛が驚くほど綺麗だった。

「……私のせいだわ」

「え?」

「詠唱が遅いから。もっと早く魔法を撃てていれば、あなたがこんな怪我をすることも……」

「でも、リュシアさんの魔法がなかったら、僕だけじゃ三頭も倒せませんでしたよ」

彼女が顔を上げる。

「……本当に?」

「はい。すごい威力でした。あんな魔法、僕には使えませんし」

「でも、最後の一頭はあなたが倒したじゃない」

「それはリュシアさんが二頭を倒してくれたからです」

僕が笑うと、リュシアさんはしばらく黙っていた。

やがて、僕の腕からそっと手を離す。

「……変な人」

「またそれですか」

「だって、そうなんだもの」

彼女は小さく笑った。

ギルドで見せた、警戒心に満ちた表情とは違う。

年相応の、柔らかな笑顔だった。

「……ねえ、アレン」

「はい?」

「さっき、ギルドで言ってくれたこと……」

そこで言葉を切り、彼女は自分の髪を指先で弄んだ。

「私のこと、綺麗だって……」

「ああ、はい」

「……本気だったの?」

声が少し震えている。

僕は首を傾げた。

「もちろんですよ」

「……本当に?」

「はい。リュシアさん、すごく綺麗だと思います」

彼女は目を見開いた。

黒い瞳が揺れ、頬にゆっくりと赤みが差していく。

「……そ、そう」

小さく答えたきり、彼女は俯いてしまった。

耳まで赤い。

「……リュシアさん?」

「な、何でもない!」

「魔力を使いすぎたんじゃ……」

「違うってば!」

少し強い声で否定したあと、彼女は恥ずかしそうに口元を押さえた。

「……ごめんなさい。怒ってるわけじゃないの」

「いえ、大丈夫ですけど」

彼女はしばらく俯いたままだったが、やがてぽつりと呟いた。

「……ありがとう」

その声は、森の葉擦れに紛れてしまいそうなほど小さかった。

     * * *

「……終わったか」

少し離れた木陰から、セレスティアが歩いてきた。

「師匠! どうでした?」

僕が尋ねると、彼女はまず倒れた狼を一瞥し、それから僕の傷ついた腕に目を留めた。

「……腕を見せろ」

「え? ああ、これなら」

「いいから」

差し出した腕を、セレスティアが慎重に取る。

彼女の指先が傷の周囲に触れた。

「……浅いな」

「はい。【再生】もありますし」

「それを当てにして傷を受けるな。次は腕ごと持っていかれるぞ」

「……はい」

厳しい声だった。

けれど、その指先は驚くほど優しかった。

「それと、最初の二頭目だ。あそこで剣を引き戻そうとしたのが遅い。相手が複数なら、一撃に執着するな」

「はい」

「三頭目に踏み込んだ判断は悪くなかった。だが、あのまま押し倒されていたら終わりだ。足場を確かめろ」

「はい!」

僕が頷くと、セレスティアはようやく腕を離した。

「……まあ、初めての連携にしては上出来だ」

その一言が、何より嬉しかった。

「ありがとうございます、師匠!」

セレスティアは小さく頷き、今度はリュシアさんへ目を向けた。

「魔法の威力は十分だ。だが、詠唱中に目を閉じる癖は直せ。前衛が倒れたとき、何も見えていなければ逃げることすらできん」

「……はい」

リュシアさんは真剣な顔で頷いた。

「それから、火球を撃つ前には味方の位置を確かめろ。今回はアレンが避けたが、あれでは巻き込む危険がある」

「……分かりました」

セレスティアはそれ以上責めず、討伐部位の回収を指示した。

僕たちが作業を始めると、彼女は少し離れた場所へ移動した。

その視線が、ふとリュシアさんに向く。

黒髪の少女は、僕と何か話しながら笑っていた。

さっきまで怯えたように俯いていたのが嘘のようだ。

(……よかったな)

セレスティアは、そう思った。

あの娘がどんな気持ちでギルドに立っていたのか、自分には分かる。

誰もが顔を背ける中、たった一人だけ、何のためらいもなくこちらを見てくれる人間が現れる。

その言葉が、どれほど心に残るものなのかも。

だから、アレンが彼女に声をかけたことを後悔してはいなかった。

ただ。

「アレンくん、これでいい?」

「あ、はい。ありがとうございます!」

少女が彼の名前を呼ぶ。

アレンが笑って答える。

その何でもないやり取りに、なぜか胸の奥が小さく疼いた。

(……何だ、これは)

不快というほどではない。

怒っているわけでもない。

けれど、どうにも落ち着かなかった。

自分に向けられていたあの笑顔が、別の誰かにも向けられている。

それが当たり前のことだと分かっているのに、妙に気になってしまう。

セレスティアは静かに息を吐いた。

「……馬鹿らしい」

誰に聞かせるでもなく呟く。

そのとき、リュシアさんの声が聞こえた。

「ねえ、アレンくん。よかったら……また一緒に依頼を受けてくれない?」

「もちろんです。僕も、また組んでみたいです」

セレスティアの足が、ほんのわずかに止まった。

「……そう」

彼女は小さく呟き、何事もなかったように歩き出す。

だが、その歩幅は、いつもより少しだけ速くなっていた。

お読みいただきありがとうございました。

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次回もどうぞよろしくお願いいたします。

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