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第4話:灰燼の狂詩曲(ラプソディ)


蓮が地下室の扉を閉ざし、分厚い鉄の鍵が回る音がした。

暗闇。そこには、私の呼吸の荒い音と、向こう側の檻から聞こえる「もう一人の沙羅」の、楽しげな鼻歌だけが響いている。

蓮の言葉が脳裏に焼き付いて離れない。

——「君が『本物の沙羅』を演じることで、この子は殺意と憎悪を学んだ。最高の復讐者として完成したんだよ」

私は、殺されるために育てられた人形だった。しかし、人形にも最後にできることがある。

私は自分のドレスの裏地を、爪で力任せに引き裂いた。そこには、私がここへ来る前に隠し持っていた、小さな護身用のライターと、かつて沙羅の部屋から盗み出した古い油絵用の溶剤が入っている。

「……ねえ、楽しそうね」

私は闇に向かって声を上げた。声は震えていない。自分でも驚くほど、冷たく乾いた響きだった。

「何をしているの? 泣き言でも考えているの?」

檻の中の少女が、嘲笑うように問い返す。

「いいえ。……最期の舞台を、飾る準備よ」

私は溶剤の瓶を開け、地下室の床に撒いた。古い木造のこの屋敷は、火が回れば一瞬で地獄になる。私一人を葬るつもりなら、私を育てたこの屋敷ごと燃やしてやる。それが、私の唯一にして最大の「わがまま」だった。

「まさか……!」

少女の鼻歌が止まった。檻の奥から、彼女が怯えて壁に張り付く気配がする。

「蓮はあなたを必要としているのでしょう? なら、あなたが死ねば、彼も困るはずよ」

私はポケットからライターを取り出し、親指で弾いた。カチリ、という小さな音が、まるでカウントダウンの合図のように空間に響く。

炎が小さな火種となって指先に灯った。

その時、地下室の壁の向こうから、聞き覚えのある声がした。

「……そこまでだ、莉子」

扉の小窓から覗き込んでいるのは、刑事の神宮寺響だった。彼は銃口を私ではなく、天井の古い配管に向けていた。

「火を消せ。……いや、むしろ、もっと派手に燃やしてやろうか?」

響の眼差しは、蓮への忠誠心でも、私への憐れみでもなかった。それは、純粋な破壊衝動。彼はこの屋敷の秘密をすべて知った上で、最初からこの「共食い」を観察していたのだ。

「あんたも、最初から知っていたのね」

「ああ。神宮寺家の醜聞を掃除する最後の仕上げだ。……さあ、火をつけろ。この偽物の城を、灰にしてくれ」

私は理解した。ここでは、誰を信じても地獄が待っている。ならば、誰の筋書きにも乗らない道を選ぶしかない。

私は火を床に放り投げた。

瞬間、溶剤が爆発的に燃え上がり、地下室全体がオレンジ色の奔流に包まれた。

「熱い……! 熱いっ!」

少女の悲鳴。蓮が扉を蹴破ろうとする怒号。

私は炎の壁を背に、ゆっくりと地下の奥にある、かつて権蔵が「亡霊の通り道」と言っていた隠し通路へ走り出した。

背後では、崩れ落ちる天井の音と、響の狂ったような笑い声が混ざり合う。

私は鏡を見ない。私はもう「沙羅」ではない。

灰をかぶり、ボロボロになったドレスを脱ぎ捨て、私はただの「莉子」として、炎の向こうへ走り抜ける。

——物語の幕は、崩壊と共に下ろされようとしていた。


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