99.指切りげんまん
巡回中は皇城に静置していた通信機器でロゼフィアーレに連絡を取ってから皇城を出た。シルヴィアの持っていた通信機器は壊れてしまったので、エミリオの持っていた物である。帝国中の魔物の討伐が終わった事と、皆が無事な事、今から帰国する旨を伝えるとイレーネは泣いて喜んでいた。ノエルとの連絡手段として使うため、無事な方の通信機器はオルディアの皇城に残してきた。エミリオが乗ってきた馬もオルディアの騎士団で可愛がってもらっていたので、そのまま置いていく事にした。
特に急ぐ予定もないので、緩めの【磁石】と【突風】でノルド山まで移動し、山を越えて無事にコッリーナの街に到着した。初めてノルド山に登った時と同じ宿に泊めてもらう事になっている。王都から迎えの馬車が来るまでここで待機する予定だ。と言っても、オルディアの皇城を出る時に手配しておいたため、明日には到着するだろう。
「戻って来たな。」
「ああ。」
「ヴィア、寒がりなの少しマシになったんじゃない?」
「ふっふっふっ。オルディアにはこんなにいいものがありました。」
そういうとシルヴィアは服の中に手を入れる。
「ちょ、ヴィア!」
アーノルドがギョッとして止めに入ろうとする。
「じゃーん。」
そう言いながら取り出したのは、平たい形の石だ。
「【保温】の魔術式を付与した石!その名も『温石』です!」
オルディアは国中が寒い気候のため、こういう分野の商品開発が進んでいるのだろう。
「ランドルフの【炎玉】もお役御免というわけか。」
「クビになったみたいに言うなよ。命の危険がなくなって俺は心底ホッととしてるよ。」
シルヴィアにくっつかれなくなったため、アーノルドに睨まれることがなくなったのだ。
「ははっ。よかったね、ランドルフ。」
「おい。」
他人事のようなアーノルドにランドルフが突っ込んだ。そしてシルヴィアが絡まなければいつでも穏やかなアーノルドである。
「オズワルドはここに残っていくかい?」
「いや……王都まで戻らなければ、たぶん怒られる。」
「あー。」
エミリオが片手で頭を抑える。
「そういえばうるさいのがもう一人いたね。」
「エミリオ、一人目は誰のことかな?」
アーノルドが目をぱちくりとさせて問いかける。
「あははは、はは……。は……。」
突然笑い声をあげたシルヴィアの方を皆が振り向く。
「ヴィア……。」
シルヴィアは笑いながら泣いていた。
「私、変なんですよね。あんなに帰りたかった場所にやっと帰れるのに、帰りたくないんですよ。何でですかね。……っ。」
シルヴィアの瞳から涙が次から次へとこぼれ落ちる。
「いろいろ、ありがとな。」
ランドルフはつられて涙目になる。
「ありがとう、ヴィア。」
エミリオが優しく微笑む。
「お前がいてくれてよかった。」
オズワルドは柔らかい表情で頷く。
「頑張ったね、ヴィア。お疲れ様。」
アーノルドはそう言ってシルヴィアの頭を撫でた。シルヴィアの涙は余計に止まらなくなる。こんな風に皆んなと過ごせるのはあと少しなのだ。
「大丈夫、またいつでも会えるさ。」
「本当ですか?」
「そんなこと言ってて、いざ集合かけたら一番来ないのヴィアだと思うぜ。」
「確かに……そんな気がするな。」
「行きますよ、ちゃんと。」
「ふふ、約束だよ。」
「はい。」
それから5人で指切りげんまんをした。
「何をやらされてるんだ俺たちは。」
「ヴィアは面白いことを思いつくね。」
「絶対に大人数でやるものじゃない気がする……。」
「ドトーリエ公爵家の約束の儀式なんですよ!」
「本当かよ!」
大嘘だ。
「じゃあ、おやすみなさい。」
ようやく泣き止んだシルヴィアは笑顔でおやすみを伝えた。
そして翌朝、王都から爆速でやって来た馬車にはイレーネが搭乗していた。皆との再会を喜んだ後、指切りげんまんのやり直しをした。
「本当にこれで合っているの?何か変じゃない?」
自分からやってみたいと言ったイレーネにすらつっこまれる。
「変じゃないですよ!」
そう言いながら、六人で無理やり指きりげんまんを行う。
シルヴィアはこっそり『皆で一緒にいられる残りの時間を笑顔で過ごす』という約束も付け加えた。




