95.調理当番失格の烙印
エンペラードラゴンを引っ張るにあたり、オルディアの中央手前まで移動していたシルヴィアたちは、一旦東の端まで戻り、再び巡回を始めた。
「さすがにあれ以上の厄災は存在してないといいな。」
「エンペラードラゴンが五体もいたんだ。オルディアをこの状態にするには十分だろう。」
「あのサイズのドラゴンが五体もいて王都が無事だった事が逆に奇跡だね。」
国境の更に東側もどんな状態になっているか心配ではあるが、国交のない国のため確認する術もない。
「そうですね……きっとノエルも驚くと思います。」
街や村などがあったであろう場所を通る度、ナディアは目に見えて元気がなくなる。シルヴィアはそれがたまらなく辛かった。王都以外が壊滅しているのも、王都だけ無事だったのも、おそらくゲームの中で決められたシナリオのせいなのだ。
『メーティス学園を卒業したノエルはオルディアに帰国し、幼馴染の聖女ナディアと共に崩壊寸前であったオルディアを立て直した。』
この一文を完成させるためにどれくらいの人が命を落としたのだろう。吐き気がする。そしてエンペラードラゴンのたちの周りには魔物もほとんど生息していなかった。餌の無くなった彼らに食べられてしまったのかもしれない。
「アーノルド、どうですか?魔物がいそうな場所はありますか?」
シルヴィアは上空に視線を移してアーノルドに話しかける。シルヴィアの【磁石】と同じスピードで移動しているが、アーノルドが使用しているのは【突風】だ。ロゼフィアーレからオルディアまで移動した【暴風】よりはかなり穏やかだという。
「特に何もなさそうかな。もうすぐ昨日過ごした土壁の家が見えてくるよ。」
「了解です。今夜もそこを使いましょうか。この辺をもう少し探索したら戻りましょう。」
シルヴィアとアーノルドの会話を他の四人は半眼で見つめている。
「何なのお前ら。」
「アーノルドが単独でそのスピードで移動できるなんて衝撃なんだけど。」
「バケモノ夫婦…。」
「オルディアまで飛んできた時はもっと速いスピードで移動したけどね。」
アーノルドは照れた様子で答える。
「……怖すぎます。」
ナディアが顔を青くして震えている。
「ヴィアの全力の移動といい勝負なんじゃないか。ロゼフィアーレに帰ったらやってみれば?」
「あー、オルディアは何もないんでできますけど、ロゼフィアーレでやったら街と街の間隔が狭いので、止まれなくて街が吹っ飛ぶかもし……」
「絶対にやらないでね?」
エミリオがにこりと微笑みながらシルヴィアに忠告した。そして目の奥は全然笑っていない。
「は、はい。」
シルヴィアは何度も頷いた。
ジグザグに移動して、危険そうな魔物を狩りつつ、今朝出発した家まで戻ってきた。六人に増えた事でその討伐スピードは驚異的だ。
「今日はこの辺でおしまいにしましょう。」
「この調子だと、明後日には王都に戻れますね。」
ナディアは嬉しそうに微笑む。オルディアの南側は、入国直後に魔物を討伐しながら王都に向かったため、北側に比べてその数はかなり少ない。
「そうですね。一度通った道なので、残っている魔物も少ないと思います。」
シルヴィアも笑顔で答える。
「それじゃあお姫様たちはランドルフの焚き火にでも当たってゆっくりしておいで。今日も夕食は私が作るから。」
そう言ってアーノルドにポンと背中を押される。調理場から追い出されたとも言う。そして短時間で出来上がった昨夜とはまた違う料理を、皆が満足そうに口に運ぶ。
「悔しいー……。悔しいけど美味しい!美味しいけど悔しいーー!」
そしてシルヴィアだけが泣きながら料理を頬張っている。
「あはははは。」
アーノルドは大爆笑であった。




