92.アーノルドとの再会
「【土魔術 重力最大】」
アーノルドの攻撃に恐怖を感じたドラゴンたちが飛びあがろうとしたため、シルヴィアが地面に引き戻す。同時に全員に【治癒】【体力回復】【魔力回復】と戦闘能力底上げの補助魔術もかけた。無詠唱で。
「私はこれに集中します!後はよろしくお願いします!」
「ナディア、手足と尻尾を固定しよう。」
エミリオがナディアの隣に並ぶ。
「はい!」
「「【聖魔術 神聖十字十連】」」
二人合わせて二十本の十字架を四体のドラゴンに打ち込み、手足と尻尾を地面に固定する。
「後は任せろ。」
「俺たちの出番だな。」
「ランドルフは青、オズワルドは緑、私は赤と茶。」
三人が同時に飛び出して、アーノルドが素早く指示を飛ばす。
「オーライ!」
「承知した。」
三人はそれぞれのエンペラードラゴンの射程圏内に入り、構えを取る。
「【雷魔術 白蛇雷鳴】」
「【炎魔術 刺突蒼炎】」
「【風魔術 風神暴斬】」
ランドルフとアーノルドは首を落とし、オズワルドは首を締め折った。
「……瞬殺ですね。」
補助魔術をかけたとはいえ、アーノルドが来たことによって士気が上がったのは間違いないだろう。さすが未来の騎士団団長だとシルヴィアは思う。ランドルフとオズワルドはアーノルドと無事を喜び合いながら戻ってきた。
「意識が戻って本当に良かった……。何日も眠っていたとはとても思えないね。」
エミリオは苦笑いを浮かべている。
「ふふ、ヴィアのためならどこまででも強くなれる気がしているよ。」
「あー。」
シルヴィアは盛大に泳がせた目をどこに落ち着ければいいかわからず、取り敢えずエミリオに助けを求めてみた。
「良かったね、ヴィア。そして、ロゼフィアーレのために諦めて。」
もの凄く美しい笑顔で突き放されたのであった。
「じゃあ行こうか、ヴィア。さっきのお説教の続きだね。」
アーノルドはシルヴィアに甘い笑顔で微笑みかける。
「へ?」
「ちょっとだけ二人きりにさせてくれる?」
「もちろん、好きなだけ。」
そしてエミリオは笑顔でシルヴィアを生贄に捧げた。他にもアーノルドに逆らう者はおらず、二人のために道をあげる面々。
「ここで待っていますので、ごゆっくりどうぞ。」
ランドルフとオズワルドが目を逸らす中、ナディアは二人に笑顔で手を振って送り出した。
アーノルドの隣をとぼとぼと歩きながらシルヴィアはその美しい横顔を見上げる。本当に生きて動いているんだなとやっと実感が湧いてくる。
「ヴィア、ちょっと無茶をし過ぎではないかな?あのまま私が来なかったらどうするつもりだったか聞いても?」
他のメンバーから十分に距離を取り、二人は大きな岩の影に入る。ビリビリと空気が震え始めた。
「アーノルドが来なければ、魔力が続く限りの【土壁】を発動しつつげて、命だけは守り切る予定でしたけど……戦闘不能にはなる予定でした。」
シルヴィアは眉を下げて本当の事を話す。どうせ逃げきれないのだ。
「はあ。本当めちゃくちゃだよね。ドラゴン四体分のブレスを土壁で防げるわけない筈なんだけど、ヴィアが言うとそれは本当にやり切るつもりだったんだろうね。」
ため息を吐きながらアーノルドは目を瞑る。シルヴィアは震えているのは空気だけでは無い事に気がつく。そしてアーノルドの震えた手に自分の手を重ねる。
「驚かせてごめんなさい。それから戻って来てくれてありがとうございます。」
アーノルドの伏せた瞼から涙が流れる。
「せっかく再会できたヴィアが、四体のドラゴンに追いかけられてブレスを受ける寸前だった時の私の気持ち、分かる?」
実際はシルヴィアが【磁石】で引っ張っていたのだが、傍目から見た映像はアーノルドの認識で間違いないだろう。
「はい……分かります。」
「え?」
絶対に伝わらないと思って放った言葉に同意されて、アーノルドは涙を溜めた瞳にシルヴィアを映す。
「アーノルドを失いそうになって初めて、ペルソの樹海でアーノルドが怒った時の気持ちが分かりました。貴方を失うかもしれないと思った時、本当に……怖かったです。」
「ヴィア……。」
「だから、今のアーノルドの気持ちも分かります。これからは『そんなに』無茶はしないと約束します。」
「『そんなに』?」
「はい。ちょっとは無茶してしまうと思うし、この先も私が頑張らないといけない事もきっとあると思うので。」
「……。」
アーノルドは再び悲しげに瞼を伏せる。しかしシルヴィアはそんな顔をさせたいわけではなかった。
「だから……アーノルドはずっと傍で私を守ってください。」
「えっ?」
アーノルドは大きく目を見開いてシルヴィアを見つめる。
「今度、私の前からいなくなったら許しませんからね。」
シルヴィアも瞳に涙を溜めながら一生懸命に笑った。
「お帰りなさい、アーノルッ……」
言い切る前にアーノルドに思い切り抱きしめられた。
「もう絶対に離さない。ヴィアが嫌だって言っても離さないつもりだったけど、本当にもう離せないよ?」
一応疑問形で聞かれているが、きっとその答えは求められていない。シルヴィアはアーノルドの背中に両手を回しその胸の中に顔を埋める。アーノルドにとってはそれだけで十分な答えとなった。




