91.エンペラードラゴン戦
「さて、どうしたもんかな。」
そのまま谷で戦闘を開始すれば山が崩れて生き埋めになる可能性もある。シルヴィアは【磁石】を発動してオルディア全土に広がる更地にエンペラードラゴンを引き摺り出した。五体のエンペラードラゴンたちは手加減しているとはいえ、シルヴィアの高速移動にも軽々と着いてくる。このまま逃げ回っていても仕方がないため、シルヴィアは頭も高速で働かせる。しかし、いい案は浮かばない。どう考えても一人一体ずつ倒すしかないのだ。せめてもう一人いれば、シルヴィアが【重力最大】と【超治癒】に専念できるのに。そう考えながらも【磁石】を解除する。
「この辺が限界かな。」
すでにオルディアの中央部に迫るところまで出て来てしまった。これ以上王都に近づくのは危険だ。
「もう大丈夫だ。さっきは取り乱してすまない。」
ランドルフがシルヴィアの横に並び立つ。
「こうなったら一人一体ずつ倒すだけですね。」
ナディアは両手を前に構えてランドルフとは反対側のシルヴィアの隣に立つ。
「さあ、誰を担当しようかな。」
「黒と茶以外なら誰でも。あれは雷魔術が効かんだろう。」
五体のエンペラードラゴンは全て別々の色をしている。おそらく、それぞれの属性を表しているのだろう。
「ああ、黒はナディアかな。私は物理でも攻撃出来るから譲るよ。」
「ふふっ。全然嬉しくないけど、ありがとうございます。」
「俺は青。絶対青。氷なら何とか出来るかも。」
「オズワルドは緑、エミリオは茶、私は赤でいきましょう。全体に【重力増大】と【治癒】かけ続けますが、一人一人、一体一体に集中出来ませんので、自分の事は自分でお願いします。」
「来る!」
五人は並んで追いかけて来たエンペラードラゴンを迎え撃つ。
「【重力増大】」
ずっしーーーん。
地震かと思うほどの揺れと音でドラゴンたちは地面に落とされる。ドラゴンたちは一斉に咆哮を上げる。
「耳が痛え。【炎魔術 炎天煉焼】」
「【雷魔術 雷光閃滅】」
「【聖魔術 神聖鉄槌】」
「【土魔術 土龍地砕】」
「【聖魔術 神聖白槍】」
五人は目当てのエンペラードラゴンに最上位の魔術をヒットさせた後、一斉に別々の方向へ走り出す。まとまって戦闘して、別の魔術に巻き込まれたり、別のドラゴンの下敷きになったりしないようにするためだ。ある程度距離を取った後は連続で魔術を発動していく。
「ダメだ、とどめをさせない。」
シルヴィアたちはオルディアの永遠と続く更地で何も気にせず高火力の魔術を使いまくり、ヴィアの魔道具で魔力も増大している事で、更なる上位魔術を発動できるようになっている。
「多少のダメージは与えられているが……いつまで続ければいいんだ。」
それでもエンペラードラゴンに致命的なダメージは与えられない。
「これじゃ、こちらが消耗していくだけだね。」
エンペラードラゴンはシルヴィアの【重力増大】により地面に縫い止められているが、膝や手を地につく事はない。魔術による致命傷も与えられない。そしてこちらが魔術を止めればドラゴンたちが反撃を始めるため、首を落とす暇もない。
「……四体まとめて私一人で受け止めます!他の皆さんで一体ずつ仕留めて行ってください!」
「無茶だ!」
エミリオの制止を無視して、シルヴィアがエンペラードラゴン四体を【磁石】で引っ張り始める。
「ヴィア!」
「早く!」
シルヴィアは高速で移動しながら叫ぶ。攻撃を受けず、また自分の力で飛ぶこともしなくてよくなった四体のドラゴン。彼らはシルヴィアの方めがけておもむろに口をあける。
「さて……これは【土壁】で防ぎきれるかな。」
シルヴィアは後ろ向きの高速移動に切り替えて、両手を前に突き出す。視界の端で、オズワルドとランドルフが黒いドラゴンの動きを封じ、ナディアとエミリオが同時に首に斬撃系の魔術を放ち首を落とすのが見えた。
「私が消えても四対四、ですね。後は、頼みまし……」
「【風魔術 疾風乱刃】」
高速移動中のドラゴンに強力な風魔術が打ち込まれた。ドラゴンたちは慌てて口を閉じたが、その硬い皮膚にも切り傷が入る。シルヴィアは魔術が飛んできた方を振り返る。
「アーノルド!」
「ヴィア、無事だね?」
アーノルドはドラゴンから視線を外すことなく、シルヴィアの安否を確認する。
「大丈夫です。ありがとうございます。」
「無茶をしたお説教は後で、だね。先にこのエンペラードラゴンを殲滅してしまおう。」
黒いエンペラードラゴンが倒れ、こちらにアーノルドが加勢したため、六対四となり形勢は一気に逆転する。エミリオたちもアーノルドのもとに集まった。
「さあ、一気に畳み掛けよう。」
アーノルドの掛け声でシルヴィアたちは残りの四体に向かって一斉に走り始めた。




