88.オルディアの蠱毒
「王都は必死に守ったんで、あんな感じで割とダメージ少なかったんですが……他はやはり壊滅ですね。街があったはずの場所も何にも無くなってます。」
夕食を囲みながらのミーティングでナディアが今のオルディアについて思った事を口にしている。夕食はオークの肉が底を尽きてしまったため、再び保存食を解凍して作った簡素な食事に戻っている。しかし、クイーンホーネットの巣からハチミツを拝借できたため、パンのお供はしばらく困らなさそうだ。
「そうですか……。」
シルヴィアは食事の手を止めて頷く。
「大丈夫ですよ。予想はついていましたから。でも、実際に目にするとなかなか胸にくるものがありますね。」
ナディアは目を伏せて微笑む。
「友人たちの訃報も次々と耳にして一時は本当に辛かったです。だからこそノエル様が生きて帰ってきてくれた時は本当に嬉しかった。」
菫色の瞳に涙が浮かぶ。昼間、シルヴィアたちの仲の良さが羨ましいと言っていたナディアの言葉を思い出す。
「ノエルがきっとオルディアを立て直すさ。」
「俺たちもオルディアにやって来た。もう心配いらねーよ。」
「それに我々はもう仲間だ。ナディアも入れてな。」
「そ、そうですね……。ぐす……。」
いの一番に泣き出すシルヴィア。
「何でお前が泣くんだよ。」
「オズワルドが仲間とか言うからですよー。初対面の時のオズワルドに聞かせてやりたいです。」
「しつこいなお前は。その件に関しては謝罪しただろう。」
「怒ってるんじゃなくて、嬉しいんです!」
「というわけでナディア。とんでも変なメンバーの仲間になってしまっているけど大丈夫かな?」
エミリオは穏やかな笑顔で一応確認してみる。
「うぅ……ぐすん。もちろんです!ありがとうございます!うぅぅ……ぐす。」
ナディアの大きな瞳からも涙がとめどなく流れていた。ナディアの小さな背中を撫でながら、一刻も早くオルディアの混乱終息を誓うシルヴィアであった。
皆が寝静まった頃、エミリオが土壁の外に出ていく姿をテントの隙間から見つけたシルヴィア。
「やあヴィア。来ると思ったよ。」
「エミリオ……。」
その様子が気になってシルヴィアも外に出て来たのだ。
「わざと誘い出したんですか?」
「ふふ、ごめんね。ちょっと意見の擦り合わせをしたくて。」
エミリオが困ったように笑う。シルヴィアはふぅ……と息を吐いた後エミリオの隣に腰を掛けた。目の前の【聖火】で起こした焚き火が白く辺りを照らしている。
「オルディアの事、どう思う?」
「それはどういう意味ですか?」
「ロゼフィアーレに比べて被害が酷すぎる。」
「……そうですね。」
「アンティカが滅びたのはオルディア全土が壊滅的な被害を受けてまもなくだったが、現状が全く違う。」
アンティカでは生存者はいなかったものの、建物などは跡形もなるなるような被害は受けていなかったのだ。しかし、オルディアはどこに街があったのかすらわからないレベルで何もなくなっている。そしてもう一つ気になる事がある。
「それに、魔物の全体数はロゼフィアーレよりも少ない。」
「……。」
その通りだ。シルヴィアは黙ったまま目の前の焚き火を見つめている。
「シルヴィアには答えが見えているんじゃないかと思ってね。」
エミリオはそんなシルヴィアの顔を覗き込む。シルヴィアはエミリオの方をチラリと見たが、また視線を戻して話し始める。
「答えが見えている、というのは買い被りすぎですね。ただ……。」
「ただ?」
「こうなんじゃないかっていう仮説は持ってます。」
「聞かせてもらっても?」
「……。」
シルヴィアは少しだけ考えた後、ゆっくりと説明を始める。
「王都以外の人間がいなくなってから1年以上が経っています。魔物たちはすでに共食いを始めているのではないかと思っています。」
「共食い……。」
「まあ、共食いと言っても同種同士ではなく、弱い種の魔物が被食され絶滅し、強い種つまり捕食側の魔物だけが生き残っている状態なのではと。」
実際それはアンティカでも起こっていた事だ。
「まあ妥当な仮説だね。」
エミリオも焚き火に視線をうつして大きく頷く。
「はい、よくある事です。しかしダークホールの影響で元々その魔物数は尋常ではなかったはずです。それがここまで数が減っている。それは……。」
「それは?」
「それは……まるで蠱毒を作るかのように。」
「蠱毒?」
「はい。」
「それは……!」
何かに気がついたエミリオは身を見開き、再びシルヴィアの方を振り返る。
「生き残っている魔物の中にとてつもなく強い種がいると思われます。」
「とてつもなく強い種……。」
「そしてそれらが街にとどめを刺して回ったのではないかと。」
エミリオとシルヴィアはおそらく同じ種の魔物を思い浮かべたが、お互いに口に出すのは避けた。今日の今日で更なるフラグを立てたくはなかったのだ。お互いの考えを擦り合わせた後はどちらからともなく立ち上がり、二人はそれぞれのテントに戻っていった。




